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子育てをしてこなかったパパの『下剋上“小学校”受験』

縁故も知識も何にもなかった父親が
満身創痍で駆け抜けた、
小学校受験版『下剋上受験』!

今や、『週刊文春』も追いかける小学校受験。

小学校受験をテーマにした小説、ドラマも
続々と。

タワマン文学の先駆者・外山薫さんが贈る
小学校受験小説『君の背中に見た夢は』も
反響を呼んでいる小学校受験。

小学校受験は、一般化しつつあります。

中学受験が一般化して、
受験生を追う番組や、
中学受験をテーマにしたドラマができたように、
近いうちに、小学校受験も、
同じようにメディアの取材対象になり、
受験狂騒曲が好奇の眼にさわされるだろう。

小説、ドラマ、週刊誌で取り上げられる
小学校受験。

その主人公は、母親。

ただ、受験に翻弄されている父親も、いる。

父親が主人公の受験も、ある。

私が小学校受験に足を踏み入れたとき、
何の因果か、仕事は超多忙。

貯金残高は猛スピードで減少し、金策を練る。

日々の学習計画を立て、
志望校の研究、
願書作成の無数の推敲と書き直し、
どの講座を受けるか思案し、
貯金通帳を睨み、
睡眠時間は3時間、
土日は子どもの送り迎えと、
次週の学習計画作りと願書作成で
仕事以上に心身をすり減らし、
「こんなに時間と資金をつぎ込んで、
どこも受からなかったら…」
というギャンブル的恐怖に怯え、
心理状態は不安定ながら、
家庭ではもちろん、会社でも普通を演じて、
のん気に始まった考査前年12月からの受験生活は、
急激に心身をボロボロにしていった11カ月を経て、
ようやく終わりました。

縁故も知識も何にもなかった父親が
満身創痍で駆け抜けた、
小学校受験版『下剋上受験』。

幼稚園児には過酷すぎる毎日。

そして、親が試される小学校受験は、
親にも過酷。

小学校受験において、
得点の50%は「考査」、
残りの50%は「願書」と「面接」。

子どもの努力50%、
親の努力50%。

考査本番5カ月前、
6月に受けた、無情の宣告。
「このままでは、どこにも受かりません。」

過酷な日々を送りながら、
小学校受験研究に身を沈め、
もがき苦しんだ、
「お受験」という“迷宮”。

小学校受験の渦でもがき続けたパパが、
“迷宮”の先に見たものとは?


●小学校受験のきっかけは、中学受験。

<第1章>

辛くて辛くて辛い「小学校受験」という迷宮。
出口を探して壮絶な日々が始まるきっかけは、
辛くて辛くて辛い、長男の「中学受験」でした。

ある年の12月上旬。

当時、わが家は長男の中学受験の本番直前で、
妻がかかりっきりで
勉強の面倒を見てくれていました。

「今は幼稚園年中の長女が
中学受験をするときにも、
同じ生活を送るのか。
しかも、小学4年から入塾すると3年間も…。」

長男の偏差値が定まらず、不安な日々の中、
次に中学受験を迎える、
年の離れた長女の行く末を思うと
会話も弾むことのない、暗い師走でした。

そんなある日、妻がおもむろに、
長女の小学校受験のアイデアを口にしました。

我が家がお受験するのは、
「小学校受験の一回で、
『受験』というものを終わらせるため。
大学まで
エスカレーターで行ける小学校に入るため」
という大それた目的。

そのときは、「大学までの一貫校」に、
どのような小学校があるのかも知りませんでした。

とにかくまずは、
幼児教室の「見学」ということで、
予約を取って向かったのは、
近くの教室だったのですが、
見学はできず、教室のベテラン担当者のような方
(後で判明したのは、役割的に“営業”の方)
の説明を聞き…。

●なし崩し

<第2章>

小学校受験の本番は11月!?
大学まで進める小学校は、
そんなに少ないの!?
3歳から幼児教室に通うんですか!?

妻と娘と一緒に行った幼児教室で、
初めて小学校受験のリアルに触れました。

「全く知識がないので、
小学校受験というものを教えてください。」

のん気な私の質問に、
「教室の責任者」と名乗る方が、
立て板に水の営業トークで
いろいろ話してくれました。

いろんな思いがよぎりました。

 「大半が、年少から受験に備えてるの!」

 「受験本番まで
  1年を切ってしまっているではないか!」

 「幼児教室の授業料、そんなに高いのか…。
  年少から通わせている家庭って、
  どんな家庭なんだ?」

 「自宅からの通学を考えると、
  大学まで進める学校は、
  慶應幼稚舎と青山学院初等部と学習院初等科と
  聖心女子学院初等科しかないじゃないの…。
  選択肢、少ない。」

 「図画・工作や運動も受験科目なの!」

 「幼児教室の種類は様々で、
  大手の教室にも、
  特徴、性格の違いがあるんだあ。」

 「寄付なんて、うちには無理だわ。
  いろいろあって、
  倹約にいそしんでいるのに。」

聞けば聞くほど、
「勝率の圧倒的に低いギャンブル」
だと思いました。

合格するには、どう考えても、
卒業生のお子さま、
お兄ちゃん、お姉ちゃんが在校しているお子さまが
有利です。

とすると、
縁もゆかりもない家庭の子どもが入り込む隙間は
狭い。

とすると、縁もゆかりもない子どもの合格率は
圧倒的に低い。

しかも、本番まで、あと11か月しかない。

作り笑いで聞く私。

作り笑いを浮かべながら入会を勧める
「教室の責任者」という肩書の営業マン。

営業トークを聞いている両親の横で、
つまらなそうにしている娘を見て、
営業マンが、
「年中のお子さま方が取り組んでいる問題です」と
プリントを渡してくれました。

「これが解けると、少しは芽があるかも」
と祈りつつ、娘が解答する様子を見守る両親。

祈りも虚しく、当然、不正解でした。

私が見ても難しいと感じる問題でした。

随分前に苦しんだ
中学受験、大学受験と同じように、
「解法のパターン」を記憶するまで、
何度も何度も
同じ種類の問題を練習しないと解けない問題。

小学校受験も、
「解法のパターン」があることを確信しました。

中学受験、大学受験並みの勉強をして、
しかも図画・工作も運動もやる。

ペーパー問題は繰り返し練習で
万一、何とかなったとしても、
図画・工作、運動の出来不出来は、
お題による運によるところが大きい。
不確実性が高い。

しかも、工作、運動のために、
専門教室に通っている家庭も多い、らしい。

営業マンは、
「これから頑張れば、
まだまだ可能性はありますよ!」
と、入会資料を手渡してくれて、
今後の手続きについて明るく説明してくれました。

最後に、
「12月入会の手続きをするには、
●日までにご連絡くださいね」
との言葉を残し、
笑顔で我々を見送ってくれました。

私たちが踏み込む世界じゃないな。
異世界すぎる。

高すぎる不確実性に、高すぎる授業料。

幼児教室のビジネスモデルは、
できるだけ多くの家庭に夢を見せて
賭け金を集める、
ギャンブルの胴元ビジネスだな。

「娘には中学受験をさせずに、
大学まで行かせたい」
と念じる妻の感想も聞きながら、
受験にかかる予算のこともあるため、
決断は私に任されました。

私は決めていました。
「合格する可能性が限りなく低い競争に、
大金を賭ける余裕は全くない!」と。

「12月入会のための連絡期限」
の前日を迎えました。

その日、妻は言いました。

「で、入会の連絡はしたの???」

その瞬間、入会が決まりました。

そして入会後、もっと驚くような
数々の小学校受験のリアルを知るのでした。

●「お受験」という迷宮

<第3章>

切迫、緊迫の幼児教室。
ぴりぴりした先生。
ぼんやりした私。

なし崩し的に入会した幼児教室は、
土曜の午前が定期授業でした。

月次テストの高偏差値層のお子さまは、
これに加えて、
週1回の授業があるらしい。

教室への付き添いは、基本的に
私がすることにしました。

初めての授業で見た光景は、
衝撃的でした。

スーツ姿の母親に、
正装した賢そうな子どもたち。

入室時に元気よく、お辞儀とともに
「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す!」
と大きな声で挨拶。

子どもたちは先生が来るまで、
行儀よく席に座って、
本を読んだり、折り紙をしたり、
あやとりをしたり。

女の子が折り紙、あやとりをするのは、
暇つぶしだと思っていましたが、
少し経ってからの、担任の先生との面談で、
「女子校は特に手先の器用さを見られる。
そのため、あやとりはとてもいい訓練になる」
と知りました。

静寂が辛い。

お父さまの付き添いもちらほらいて、
多少、居心地の悪さが和らぐ。
ほんとに、多少ですが。

そして、先生登場。

とてもきっちりした、頼りがいのありそうな先生。

テキパキと当日の授業内容とポイント
を説明していきます。

必死にメモを取る親御さんたち。

数名のお父さまは、
モバイルPCで議事録作成の如く、速記しています。

一方、私は、筆記用具を持ってきていない。

「まあ、記憶すればいいっか」と
のんびり構えていましたが、
問題はかなり難しい。

「これ、幼稚園の年中が解くの?」

自分が年中で解くとなると、拷問。
これを娘に強いることになるのか。

ペーパーだけでなく、
何やら運動したり、工作したりするらしい。

「年中の図画・工作や運動って、能力以上に、
好き嫌いの方が影響するのでは?
こんなの、どうやって鍛えるんだ??」

小学校受験は、
かつて経験した東大入試より大変だ。

まだ「勉強」なんてことをしていない
幼稚園の年中が、
プリント解いて、
オリジナリティのある図画・工作を追求して、
運動神経を良くする。

しかも、本番まであと1年を切っている!

「年末だから、これも受けてくださいね」と
入室時に勧められた冬期講習も受講しました。

授業内容は、かなりのボリューム。

楽しそうに運動して、工作して、
帰りに当日やったことを話してくれる娘。

あまり正解していないプリントを見て
絶望を感じるが、
まあ、楽しそうだからいいか。

でも、このままだと合格できる学校なんて、
あるのかな?

そもそも、12月に入会する家庭なんて、
あるのだろうか?

教室の切迫感と緊迫感を一身に浴び、
“お受験パパ”に変身して、
年末年始を迎えました。

とはならずに、
「何だか、
とんでもない世界に迷い込んでしまった」
という“異人感”と、
「東大入試以上に
求められる能力が多い小学校受験は
やっぱり縁故が大きな要素なんだろうな」
という妙な“諦め感”と、
「大金を賭けた勝負から、もう逃れられない…」
という、ここだけは突出した“切迫感と緊迫感”
を感じながら、
のんびりした年末年始を過ごしたのでした。

中学受験のペースは、
息子と自分の経験からもわかっていました。
なので、天王山は夏休み。

しかし、9月から願書提出が始まり、
10月から考査が次々と実施される
首都圏の小学校受験。
だから、夏休みは冬休みのようなもの。

とはいえ、
中学受験モードの“受験時差ぼけ”のせいか、
「天王山は夏休み」というのん気な気持ちのまま
迎えた年明け1月。

初めての担任の先生との面談で、
遂に、「これは、本気で戦略を立てないとまずい!」
と思い知ることになります。

●“超人”育成

<第4章>

初めての1か月で感じた感想は、
「こんなことができるのは、
天才だけでしょ!?」

12月に通い始めてすぐに、
定期テストを受けました。

「やっぱり、偏差値と言うものが、ものさしなんだ。」

幼稚園時代から偏差値教育に晒すのも、胸が痛い。

テストの結果は、偏差値50程度。

これは、なかなか厳しい道のりだ。

結果はさておき、小学校受験に必要な「科目」は
何となく頭に入りました。

ペーパー。
これは想像していた科目でしたが、
問題は恐ろしく難しい。

いくつかのサイコロの数を並べたり、
積み上げたりして、
それを斜めから見た様子から、
サイコロの個数を判断する問題。

今でも記憶に焼き付いている、
小学2年のときに学校で受けた、
「知能テスト」
にも出ていた問題。
「こんな問題がすらすら解ける人間が、
『天才』なんだろうな」
と感じたことを覚えています。

就職活動時に受けた、
外資系戦略コンサルティング会社の筆記試験は、
まさしく知能テストみたいな問題が並んでいたが、
そこでも似たような問題があったような。

筆記で落ちたけど。

「こんな問題を、
我が子は解けるようになるのか?」

「知能テストは、
持って生まれた知能(IQ)を測るテスト
だとすると、
そもそも、ペーパーという科目は、
IQが高い子しか高得点を取れないのでは?」

「知能テストと同じく、
ペーパーも
短時間でこなしていく必要があるみたい。
訓練では、どうにもならんだろ。」

ペーパーに関しては、大きな疑問がよぎる。

ペーパーの中でも、おそらく最大の難関は、
「推理・思考」だと思いました。

「推理・思考は、
解けるようになるのも大変だけど、
教えるのは、もっと大変だなあ。」

図画・工作と運動があることにも驚きましたが、
最大の驚きは、
謎の「行動観察」とやらです。

「何を見て、どう判断するのか?」

「図画・工作、運動に続いて、
採点者の主観が大きい科目、多過ぎないか?」

小学校受験の採点自体に、疑問がよぎる。

12月の定期テストでの
娘の正答率と偏差値から、
見えてきたものがありました。

● ペーパー

  取りこぼすと、ダメ。
  大学入試になぞらえると、センター試験。
  でも、
  センター試験は
  基礎的な問題で構成されている。
  一方、小学校受験のペーパーは、
  そもそも大学入試になぞらえると、
  東大の2次試験のように難しい。
  しかも、
  短時間で解答していく必要がありそう。
  知能テストって、訓練で点数上がるのか?

● 運動・身体表現

  「バランス感覚(体幹のしっかり度合い)」
  「先生の指示を聞いて、指示通りに動けるか」
  「大きく身体を動かすこと」
  の3点が重要っぽい。

● 絵画・制作

  おそらく
  オリジナリティ、
  クリエイティビティを
  見ているのだろう。

  ただ、
  「幼稚園児に求めるオリジナリティ、
  クリエイティビティが何なのか」は、
  研究が必要だ。


我が子は、
運動が好きなので、その得点はまずまず。

夏の暑い日も、冬の寒い日も、
公園での外遊びをねだる娘に付き合ってくれた
妻のおかげだろう。

家でもいろいろ描いたり、作ったりしているし、
絵画・制作もまあまあ。

一方、ペーパーは、かなりまずい。

翻って、偏差値70ぐらいのお子さんに
思いを馳せる。

「こんな問題で高偏差値って、
“超人”でしょ!」

ペーパーがほぼ満点で、
運動ができ、
絵画が上手で、
「行動観察」なるものも高得点。

学力だけが問われる
東大模試の上位にいることよりも、
圧倒的に難しい。

自宅からの通学を考え、
当初の目的である「大学まで進める学校」は、
慶應幼稚舎と青山学院初等部と学習院初等科と
聖心女子学院初等科しかない。

どうやら、いずれも超人気校らしい。

これから10か月で、
娘を“超人”に育てることができるのだろうか?

そして、“超人”に育てるには、
いくらかかるのだろうか?

12月は、全員対象の「冬期講習」のみを受講。

それとは別に、
「ペーパー特訓」
「行動観察特訓」
「志望校別特訓」
もありましたが、
勝手がわからないので受講せず。

勝手がわからないのもありましたが、
“資金余力”にも不安を抱えていました。

●弱点だらけ

<第5章>

受験勉強の方針を立てる鉄則は、
「強みを発見し、自覚すること」だと思って、
自分の受験は乗り越えました。
これに則るとすると、
娘の強みは何なのか?

1月、2月の定期テスト。
成績は、全然振るわず。

ペーパーでは、
数量がダメ、
図形がダメ、
観察力が全くダメ、
推理・思考も全くダメ、
常識は微妙。

「得意かもしれない」
と期待をしていた運動は、
器具を使うとダメ。

1月、2月の授業での
先生方のコメントは、こんな感じでした。

==========

・ 「制作のときの机上の整理、×」

    → 再三、注意される。
     「どうしたら作業がしやすいか、
      考えましょう。
      机上整理は大切です!」

      そして、
     「作業スピード」もご指摘をいただく。

      そこで気付きました。

      そうか、
      「机上の整理」は、
      几帳面さや丁寧さという性格、
      家庭でのしつけも見られているけど、
      スピードを持って制作作業をして、
      完成形まで持っていくためにも
      大切なのか!

・ 「制作での丁寧さ、×」

    → 「丁寧さ」の欠如は、
      いいように捉えると、
      「大らかさ」。

      丁寧すぎる性格
      常識的に“ちゃんとする”性格。
      それは、
      クリエイティビティの阻害要因
      にもなるからなあ。

      「程よい丁寧さ」
      をどう教えていこうか?

・ 「紐の結び方、箸の使い方、×」

    → 手先の不器用な自分自身が苦手。

      これが受験科目にあるのは、   
      良家の子女を合格させるための
      上手い方法だ。

      小学校受験は、
      精緻に設計されている。

・ 「ボールつき、ボール投げ、×」

    → 昔話に出てくる「まりつき」
      みたいな遊び、
      この時代にやるか?

      女の子がボール投げして遊んでるの、
      見たことないけど。

      バスケ部のご両親を持つお子さまは、
      ボールつきとかボール投げをして
      遊んでいるんだろうか?

・ 「ゴム段(とぶ・くぐる)、×」

    → ゴム飛びなんて、
      小学校時代に
      女子がしていたのを見て以来、
      目にしていない。

      これも
      家で練習しなければならないのか。

      はあ。

・ 「運筆、△」

    → “運筆”なんて言葉、初めて知った。

      紐結びも、箸の持ち方も苦手な私が、
      最も嫌いなのは、
      多くの字を書いてきた
      受験勉強のトラウマから、
      「字を書くこと」。
     
      鉛筆、シャーペンを使うことなく、
      PCで字を紡ぐ生活に
      心底感謝しているのに、
      また鉛筆と向き合うのか。

      しかも、自分の嫌いな“運筆”を
      娘に教えなければならない。

      はあ。

・ 「集団行動時の姿勢、×」

    → 「肘をつかないようにしましょう」
      との注意コメント。
    
      そりゃ、
      他人の行動を見てるときは
      飽きるわなあ。

      幼稚園生が
      2時間ぐらいの授業で
      集中を切らさないなんて、
      無理でしょ。

・ 「発言力、協調性は、〇」

   → 発表力だけは、いつも褒められる。

     この得意技は、
     どんな考査でも
     大切な「安定的な得点源」
     になるのかもしれない。

==========

紐、箸、ボール、運筆。

なるほど、娘は「道具を使った作業や運動」が
上手くないのか。

やらなければならないことは、たくさんある。

紐と箸は、成長度合いに応じて
器用さが増して、
10月頃には何とかなるだろう。

後回し。

鉛筆の持ち方は日ごろの家庭学習で、
注意するかな。

面白くもない問題を解きながら、
鉛筆の持ち方を注意されるのは
嫌だろうなあ。

土日は、ボール遊びだな。

家でも、ボールで遊ぼう。

100円ショップで、
安いビニールのボールを買ってくるか。

1月、2月のテスト結果からは、
弱点しか目につかず、
どこから手を付けていいのか、
途方に暮れるものでした。


●「小学校受験界の東大」を目指す!

<第6章>

2月下旬の面談では、
春期講習の相談をしました。
すると、とんでもない、
耳を疑うアドバイスをいただき…。

大学までエスカレーターで進学できる小学校は
少なく、
いずれも超難関。

となると、
女子校受験も考えておく必要がある。

とすると、どこを志望すれば良いか。

「そろそろ、志望校を決めなくては」と
悩んでいました。

2月の面談で、悩み解決!

というわけではないですが、
成り行きと勢いで
慶應幼稚舎と雙葉を併願することに
なってしまったのでした…。

以下、面談の内容です。

==========
□ 春期講習での女子校対策、行動観察で
  受講すべきカリキュラムについて
 
  ☞
  ・ 女子最難関校の雙葉に合格する力は
    ありそう。
   (「先生、本気なのかな?
     多くの講座を受講させて儲けるための
     方便では?」との疑念がよぎる。)

  ・ 女子校はプリント力が必要だが、
    雙葉は圧倒的なプリント力を要する。
    したがって、
    雙葉向けの対策をしておけば、
    他の女子校対策はカバーできる。
 
  ・ 大学までエスカレーター式の小学校は、
    限られる
    (慶應、青山学院、学習院、
     東京農大稲花)。

    行動観察、絵画・制作の得点が高いので、
    慶應幼稚舎合格の可能性もある。

    エスカレーター式の小学校は、
    いずれも人気校なので、
    これらに加えて、
    女子校も視野に入れておいた方が良い。
 
  ・ 数ある女子校の中でも、
    雙葉に向いている。

    雙葉の自由な校風の中で、
    自分の進む道を自分で選択できる強さを
    持っている。
    (「本当に?」と、これも疑心暗鬼。)

    「お姉さんらしい性格」も向いている。
 
  ・ 慶應幼稚舎は、男女別で考査を行う。

    したがって、「女子校対策」講習は、
    慶應対策にもなる。
 
 ・ 運動は、
   「指示を理解する」「手本を覚えてまねる」
   というのが課題。
==========
 
本番まで時間がないため、
志望校を固める必要性を日々感じていました。

もう、担任の先生に付いていくしかないので、
アドバイスに従い、
というか、
自分の疑念を押し殺して、真に受けて信じて、
慶應幼稚舎を第一志望、雙葉を第二志望
にすることに決めました。

小学校受験のリアルを
かなり掴めていた頃なので、
”大それた志望校選択”であることは
十二分に認識していました。

まだ、勉強を始めたばかりの娘が、
「小学校受験界の東大」
を目指すようなもの。

“疑惑のアドバイス”でしたが、
ただ、慶應と雙葉の相関関係についての
先生の見解は
とても合理的でした。

ただ、やっぱり、
「いろいろな特別講座に誘い込むための
セールストークでは?」という疑念は
頭の半分を占めています。

面談では、もうひとつ、アドバイスを受けました。

先生からの宿題であった「幼稚舎の願書文案」
についてです。

入会直後の何回かの授業の後で、
「幼稚舎、向いているかもしれません。
願書を書いてみてください」
とお声がけいただき、
前年の願書フォーマットのコピーを渡されました。

●(残り6か月)願書。それは、親からの至上のプレゼント。そして、父の贖罪。

<第7章>

「教育は、
 親が贈ることができる
 子供への最大のプレゼント」
という言葉があります。

その通りだと思います。

そして、
子どもの能力、志望校への適性とともに、
親の子ども理解、子どもへの愛情、志望校理解
を試される小学校受験において、
親の最大のプレゼントは、願書だと思います。

親は、願書で、そして願書に沿った面接で、
試されます。

そう気付いたのは、5月でした。

とある願書セミナーを受講したからです。

この頃までに、2月から、
慶應幼稚舎向けの願書を書きまくってきました。

「慶應」への理解が足りていない。

「慶應幼稚舎」への理解が足りていない。

「幼稚舎創設者の福澤諭吉先生」への理解が
足りていない。

そして、5月に気付いたのは、
「娘への理解が足りていない」という事実でした…。

小学校受験を開始してから、
幼児教室に付き添い、
先生の解説、ポイントを速記し、
家庭学習でのペーパーのカリキュラムを組み、
受験対策を考え、
毎月の定期テストの結果を分析するまで、
娘と向き合ってこなかったように思いました。

これまでは、長男の中学受験が最優先。

これも、妻に任せていました。

激務にかまけて、
家庭はすべて妻任せだったことに思い至りました。

なので、小学校受験で
娘をプロデュースすることは、
娘と、そして家庭と向き合い、
娘と家庭の未来を創る上で、
とてもいい機会だと思えたのです。

一般的に願書は、
「普段から子どもを気にかけ、
習い事に付き添い、
ママ友コミュニティでの情報交換をして
子ども同士のコミュニケーションについても
把握し、
子どもへの理解が深い母親」が
書くのかもしれない。

幼児教室でも、
先生がそんなことを仰っていました。

だが、我が家は、私が書く。

「我が子の素性を、実は知らない父親」が書く。

この方がいい点はあるのか?

それは…

すごく考えたが、特に無い。全く無い。

妻ではなく、自分が書いた方がいい理由を考える。

家庭を顧みてこなかった贖罪もあり、
大学まで進級が約束された小学校への合格で、
愛娘の人生を切り拓き、
今後、受験勉強で親子が苦しむことのない、
安定した、自由な、家族みんなで過ごせる時間を
私が創るんだ!

願書は、愛娘、そして家族に贈ることができる、
現時点で最高のプレゼントなのだ!!

と、考えてみました。

しかし、
この情熱を滅多切りされるほど、
願書には手こずることになるのでした。

小学校受験の願書には、
「文章力」とは異なる独特のお作法があることに、
気付き、悩まされることになります。

●(残り5か月)突然のスランプ!
原因は父親。

<第8章>

娘は、受験生活を送っていることもわからず、
幼児教室通いを楽しんでいました。
何より、
制作の時間があることを楽しんでいました。
工作教室に通っている中で、
ペーパーも運動もやっている感じでした。
が、突然、担任の先生から、
スランプを告げられてしまい、気が動転…。 

6月の、とある土曜日、
担任の先生から、
以下のようなお電話を頂戴しました。

==========
女の子は、成長とともに、
「真面目にやらないと」
「ひとと違った言動をせずに、
周囲に合わせて、ちゃんとしなくちゃ」と、
人の目を気にするようになる。
 
先日のテストでは、制作課題のときに、
周りを見て、周りを真似ていた。

作った後、
作っていたものが機能するかどうかを
試せばいいのに、頭で考え込んでいた。

「まず、やってみよう!」という気持ちよりも、
「正解を探そう」という気持ちが先に立っていた。

「ちゃんとやらなきゃ!」という気持ちが、
心にブレーキをかけている。

「楽しいね!」という心持ちで、
取り組めるようになってもらいたい。

最近は、
制作における「工夫力」が見られなくなっている。
周りのまねをして、
わからなくなったら、手を引っ込める。
周りを気にせず、自分で堂々と表現すれば良いと、
自信を持たせる声がけを。
==========
 
反省しました。

幼児教室の行き帰り、
そして家庭学習、
そしてそしてお風呂でも「正解」を出すように、
仕向けていたような点が、
多々思い出されました。

家庭で制作課題を行うときは、
完成形には正解がない作業なので、
まずは認めてあげる。
模範解答を求めない。

制作物を見てほめるだけではなく、
制作過程をほめてあげる。

プリントでも、答えが間違っても、
考えていた過程を褒めてあげる。

制作物の完成形や、
プリントの点数だけを見ないようにする。

心に固く誓ったものの、
私の言葉に忠実に
「正解」を求めようと懸命な娘の心を、
どのようにほぐして、
元々の特性である天真爛漫さを
取り戻してあげれば良いのだろうか?
 

●スランプ脱出のカギは?

<第9章>

突然のスランプ。
娘が、本来の自分を取り戻してくれるために、
自分に何ができるのだろうか?

スランプに陥っている。
ということは、気分が落ち込んでいる。

これは、娘の気分の問題なのだろうか?

いろいろ考えた結果、
「娘の問題ではない」ということに思い至りました。

娘の気分を安定し続けるためには、
娘の気分に、親が“下手な介入”をしないこと。

娘が、
まわりの真似をするようになり、
スランプに陥っている。

自分に自信を失っている。

得意の、得点源の行動観察が急落。

この原因は、
私が彼女に「正解」を求めたからだった。

特に「制作」を楽しみに
幼児教室に通う娘に、
下手に介入して、
おかしな制作指導をしてしまっていました。

「制作をする喜び」を遮り、
「父親に言われた通りに、
あれこれと工夫をしなければならない」
という、無意味な緊張を強いてしまっていました。

スランプの原因は、
娘ではなく、私でした。

個性の出し方に自信を失っている娘。

失わせてしまった私。

絵画・制作や行動観察は、ほめるだけにしよう!

持ち帰った課題で、
あまり出来がよくなくても、
(ぐっとこらえて)ほめる、ほめる。

「ぐっとこらえる」のはつらいけど、
「何かを見つけて、ほめまくる」のは、
娘を嬉しくさせる、楽しい行い。

これを意識して、娘に接する、
試行錯誤の夏が始まりました。


●(残り4カ月)夏期講習と
「貯金通帳残額恐怖症」

<第10章>

7月。
もう、11月の考査は間近。
夏期講習の案内は、6月に配られました。
毎日、何らかの講座がある。
限定したい。
でも、できるだけ受けないと、
受からないかもしれない。
合格可能性を最大限高めるために、
最大限受けたい気持ちと、
資金余力を考えると、
最小限に抑えたい気持ちが
交錯する。

私たちが踏み込む世界じゃないな。
異世界すぎる。

高すぎる不確実性に、高すぎる授業料。

幼児教室のビジネスモデルは、
できるだけ多くの家庭に夢を見せて
賭け金を集める、
ギャンブルの胴元ビジネスだな。

前年12月に、
幼児教室の営業トークを受けた時に感じた、
率直な、そして入会しても変わらない、
気持ちでした。

入会したが、最後。

このギャンブルからは、降りられない。

これだけ資金を投入して、
時間を割いて、
子どもも努力しているのに、
資金投入を躊躇できるはずがない。

通帳の残高は、
入会直後の冬期講習、
そして、その後すぐにやってきた春期講習、
そして、続々と始まる志望校別模擬テストで、
加速度的に減っている。

すでに長男の中学受験でそこそこの金額を
使ってしまっている。

これから一体、
いくらかかるんだろうか・・・。

女子難関校向けの特別講座も必要。

慶應向けの特別講座も必要。

行動観察講座は重要。

女子難関校向けに、
手先の器用さを養う講座は必須。

「週1回の通常授業」で
何とかなるんじゃなかったの?

入会説明会で「営業のひと」は、

「うちは、
 絵画教室や体操教室の掛け持ちをしなくても
 大丈夫ですよ!」

と、にっこり言ってたので、
かかる費用が青天井にならないと思っていた。

が、結局、
いろんな教室掛け持ちと一緒じゃないか!

これがお受験ビジネスか!!

やっぱり、ギャンブルは胴元が儲けるんだ!!!

でも、もう、
“お受験カジノ”から退場できない。

もしももしも、
第一志望校の結果が出るまでに
いくつも受かってしまったら、
その都度、入学金を払わなければならないらしい。

第一志望校の結果が出るまでに、
第一志望校の入学金が払えなくなってしまったら、
どうしよう?

合格ラッシュの嬉しい悲鳴は、
家計を揺るがす、ほんとの悲鳴になる。

まだまだ合格がおぼつかない成績表と、
どんどん残高が減る貯金通帳。

願書もまだまだ完成には、ほど遠い。

灼熱の、でも暗い夏。

勝負の夏は、
仕事を22時に終え、
その後、
学習計画の進捗管理、軌道修正、
そして親の責務としては最難関の願書作成に
取り組み、
明け方に帰宅、
または帰る時間も惜しく、会社で徹夜する、
そんな日々になるのです。
.

●願書、願書、願書!

<第11章>

起床直後も、通勤中も、仕事中も、帰宅後も、
就寝前も、夢にも出てくる、願書。
子どもの一生を左右する、願書。
作文のように自由に書いてはダメで、
ビジネス文書のように
論理性を込めてもダメで、
独特のお作法がある、願書。

2月から、願書作成に苦しめられる日々。

就職活動時のエントリーシートよりも難しい。

子どもと志望校の最適な交点を、
どちらにも愛情を込めて書かなければならない。

志望校が入学を望むような
「我が子の個性」は何か?

志望校の教育方針に合わせて、
我が子が持つ多様な個性のうち、
どの断面を見せるべきか。

難度の高い恋文。

特に難しいのが、エピソードです。

志望校に見せたい我が子の個性の断面を、
印象的に伝えてくれるエピソードは何か?

いろいろな記憶が蘇るが、
なかなかしっくりくるものがない。

研究を重ねた結果、大切なのは、
エピソードを思い出し、文章にする前に、
「エピソードの役割」を正確に認識すること。

エピソード探しの毎日でしたが、
ふと、思いました。

願書は、作文ではない。
エッセーではない。
独特のお作法がある。

この“お作法”を解明しない限り、
的外れな作業をしているのかもしれない。

そこで、願書のお作法を研究しました。

幼児教室の担任の先生の添削を受けて、
長い時間、願書の文章を推敲してきたのですが、
一度、「願書の構成要素の構造化」を
してみることにしました。

そして、印象に残る、
つまり数多の願書の中で、
光を放つ願書に見せるためのポイントを
まとめてみたのです。

願書に求められるのは、
「文章力」ではなく、「文章構成力」
だと思い至りました。

文案を書く前に、
定めておくことがある。

愛情たっぷりの表現の技巧を尽くそうする前に、
大事なのは、
「どんな成長をしてほしいか?」

身体の成長ではなく、心の成長。

娘の心を、どのようにプロデュースしたいのか?

そのために、家庭がやるべきこと、
学校に期待することは何なのか?

これ、ちゃんと考えてなかったかも。

願書は、論理性以上に、
おそらく情緒性が問われるんだ。

「心の成長」視点の欠落に気付き、焦る…。

そして、さらに焦りを倍加させる、
幼児教室の担任の先生の言葉が、
常に頭に響きます。

「お父さま、東京大学出身者は、
 苦労しますよ。
 
 まず、学歴の評価はさほどない
 と考えておいた方がいいです。

 学校が親御さまを評価するのは、

  ・ 愛校心の強さ

  ・ 是が非でも本校に入学させたいという
    意思の強さ

 です。

 その点、志望校の出身者
 (小学校から、中学・高校から、大学から入学)
 は、その2点が、とても明快です。

 愛校心の強さはもとより、
 建学精神、教育方針、校風が自然と身体の一部に
 なっています。

 だから、願書の文章にも反映されるのです。

 奥様とともに、志望校に縁のないご家庭は、
 願書に苦労なさいます。

 そして、東京大学出身の親御さまは、
 学歴が武器になると思いがちなのですが、
 実は、武器になるほどではないことが、
 なかなか腹落ちしないのです。

 『ライバルは、
 志望校出身のお父さま・お母さまの
 いらっしゃるご家庭』と
 肝に銘じて、願書に向か合ってください。」

慶應幼稚舎、雙葉に加えて、いくつもある志望校。

入手できるすべての情報を体系的に整理し、
素晴らしさを探し、
願書に落としてみる、
焦りの夏。

●無情の宣告。
「このままでは、どこにも受かりません。」

<第12章>

あの日のことは、
一生忘れられません。       

7月前半の土曜日。
幼児教室にて。

担任の先生と面談しました。

授業を終えた後の娘は、
別の部屋で遊んでいました。

現状の成績を眺めた先生は、
先生が薦めてくれていた志望校
(慶應幼稚舎、青山学院初等部、学習院初等科、
雙葉等の女子難関校、その他女子校)
を改めて挙げつつ、
「おそらく、どの学校も、御縁をいただくのは
難しいでしょう。
ペーパー力が、かなり不足しています。
慶應幼稚舎は、ペーパー考査がないので、
絵画・制作、運動、行動観察で戦えますが、
最難関なので、どうなるか。」

えっ?

先生が、慶應幼稚舎を強く勧めてくれたから。

そして、雙葉も勧めてくれたから。

あれっ?

試合結果が、見えてる?

しかも、どこも受からない?

愛娘、懸命ですよ。

前年の12月に、急に、
わけもわからず、幼児教室に入れられたのに、
けなげに家でプリントをこなし、
週末、一緒に絵を描いたり、
段ボールを使っていろんな制作をしたり。

なわとびも頑張ってますよ。

ボール投げも、ようやく
まっすぐに、遠くまで
飛ぶようになってきた。

ママのお手伝いも、
ちゃんとやってますよ。

洗濯物を小さな手でたたんだり、
食器を割らないように、丁寧に拭いたり

辛いだろうなあ。

パパは今でも、うまくちょうちょ結びできないよ。

娘と過ごしてきた、
短いけど、濃密な7か月の生活が
高速でよぎる。

落胆し、顔面蒼白になっているのが
わかる。

でも、作り笑いを取り繕った。

「では、夏休みは、ペーパーに注力しますね!
願書も仕上げないとですね!!
ご指導、よろしくお願いします!!!」

教室を出て、娘と手を繋いで歩く。

娘は、屈託ない笑顔で
今日の授業の様子を、楽しそうに語ってくれる。

いつもの帰り道と同じ風景だ。

ただ、いつもと違う風景が、私には浮かぶ。

どこにも受からずに終わる、11月の風景が。

駅に続く道で、私は娘に言った。

「パパが、絶対に、
楽しい小学校に入れてあげるからね。」

娘は、「パパ、ありがとう!」と
屈託なく笑顔で言ってくれた。

俺が、必ず、合格させてやる。

睡眠時間は、死なない程度に取れればいい。

すべての時間を、小学校受験に捧げる。

俺が、必ず、合格させてやる。

●(残り3カ月)もはや、
願書と面接で勝つしかない。

<第13章>

幼稚園児なのに、“人生を決める夏”。
小学校受験の夏休み。
それは、考査まで残り3カ月のタイミング。 
幼稚園児でありながら、
もはや「人生の天王山」。
夏休みは、特訓だらけ。
夏期講習に加え、
慶應幼稚舎と雙葉の志望校別講座を受講。
そして、雙葉講座で打ちのめされ…。 

親の目の色が変わる夏休み。

夏期講習に加えて、
特別講習も目白押し。

ほぼ毎日、幼児教室通い。

我が家は、幼児教室の担任の先生のお薦め通り、
「慶應幼稚舎は、
 ペーパーがないから可能性がある」
「すべての学校で課題となる絵画・制作や
 行動観察の訓練にもなる」
との理由から、幼稚舎講座を。

そして、これまたお薦め通り、
「女子難関校トップの雙葉を目指せば、
 他の学校の対策もカバーできる」
との理由から、雙葉講座も。

夏時点で、課題は山積み。

ただ、少しだけ希望もあった。

「行動観察」という謎の、
どうやって鍛えればいいのか不明な科目は、
まずまず。

娘はいつも、
幼稚園でのお遊戯会の練習を楽しんでいた。

自分のパート以外のセリフや振り付けも
家で練習しているぐらいに。

「お遊戯会Lover」「気分は舞台監督」
の性格が、功を奏しているのかもしれない。

あと、もうひとつ、
絵画・制作。

スランプを脱しつつあった。

とはいえ、
7月前半に、先生から受けた“無情の宣告”が
常につきまとう。

「おそらく、どの学校も、御縁をいただくのは
 難しいでしょう。
 ペーパー力がかなり不足しています。
 慶應幼稚舎は、ペーパー考査がないので、
 絵画・制作、運動、行動観察で戦えますが、
 最難関なので、どうなるか。」

こんな状態で、
超難関2トップの幼稚舎と雙葉の講座を
受けていてもいいのだろうか?

元々は、
大学附属の小学校を希望して、軽い気持ちで、
幼児教室に相談に行ったことから始まった
小学校受験。

我が家からの通学圏内にあるのは、
慶應幼稚舎、、青山学院初等部、学習院初等科、
聖心女子学院初等科。

いずれも、超難関校。

受験するからには、どこかに引っかかりたい。

他の女子校も候補に入れる。

どこも、難関。

幼稚舎と雙葉の講座を取れば、
どの学校の対策もカバーできる、らしい。

だが、青山学院、学習院、聖心にはそれぞれ、
「絶対に、ここに入れたい!!!」という
“大本命家庭”が大勢いるはず。

ご自身が卒業生の親御さんは、必ず入れたいはず。

そして、
それぞれの講座に精魂を傾けて取り組むはず。

そもそも、
合格確率がないとの宣告を受けているのに、
先生のお薦めに流されていて、いいのだろうか?

でも、頼るのは、先生しかいない。

翻弄される夏休み。

小学校受験において、
得点の50%は「考査」、
残りの50%は「願書」と「面接」、
と、以前、担任の先生から聞いていた。

子どもの得点が、
考査で他のお子さまよりも多少劣っていても、
願書と面接で、親の得点で点数を稼げれば、
逆転可能か。

というか、ここに賭けるしかない。

ペーパーの得点が、上がらない。

そもそも、1年弱しか幼児教室に通っていない。

娘のせいではない。

運動や、絵画・制作を伸ばすために、
専門の教室を掛け持ちするなんて、できない。

投入できる資金にも、限界がある。

雙葉講座のペーパーは、とてもとても難しい。

こんなの、どうして解けるの?

あんな短時間で?

どんな家庭学習をしてるんだ?

どんな家庭で育ってるんだ?

天才か?

絶対に、東大入試よりも難しい。

もはや、願書と面接で勝つしかない。

●(残り2カ月)願書提出狂騒曲

<第14章>

願書。
待ちに待ってはいないけれど、
格闘してきた願書(の「志望理由)」。
ようやく配布(というか販売)される9月。
願書には、
これまで練ってきた(というか、まだ練っている)
「志望理由」のみならず、
他の提出物もいろいろあります。
我が家は9校に出願予定。
これを準備することに奔走する9月。

各校の願書を入手して、
いろいろ準備をしなくてはならない。

各校ごとに、提出物をエクセルで整理する。

写真は、幼児教室の担任の先生のアドバイスで、
日焼け前の6月下旬に、写真館で撮影しておいた。

各校ごとに、写真のサイズが異なる。

そして、家族写真の有無も異なる。

健康診断書が必要な学校もある。

一律ではない提出物が、9校分ある。

提出物がひとつでも漏れたら、即アウト。

提出期限も、一律でない。

娘の人生が懸かったスケジュール管理に、
緊張感が走る。

10月の頭には、大半の学校で願書提出。

以前、先生から伺った「願書講話」を思い出す。

・ 願書のWEB申し込みも増えてきている。
  願書入手方法の確認が大切。

・ 願書以外に必要になるのは、
  「写真」と「健康診断書」。

  写真については、
  「受験生本人の個人写真」は必須。
  家族写真(兄弟姉妹も)の有無は学校による。

・ 一部の学校でワードOKもあるが、
  基本的に手書き。
  黒インクのボールペンであれば、
  使いやすいもので良い。
  使う筆記用具で文字数が変わるので注意。

・ 鉛筆で下書きをして
  ボールペンで清書する場合には、
  時間を置いてから、
  「汚れていない綺麗な消しゴム」で消す。

・ 記入例に沿って記載すること。
  数字か漢数字か、
  住所の記載はハイフンを使うか否か。

・ 願書購入の際は、書き損じも考慮して、
  2~3部買っておいた方が良い。

願書には、志望理由以外にも、
書くことがたくさんある。

丁寧な字で。

記入欄のスペース、記入すべき文字量を
考慮しながら、
文字の大きさも調整する必要がある。

悪筆の私。

だから、願書への“文字入れ”は、
妻が引き受けてくれた。

妻はこのために、習字に通ってくれた。

全9校分。

提出物がこんがらがる。

●(残り1カ月)特訓ラッシュ。
でも、成果は…。

<第15章>

10月に入りました。
娘は、志望校別の特訓講座でラストスパート。
親は、大逆転を狙って…。

もう、後が、ありません。

願書を提出した安堵感など、ありません。

ちょうちょ結びが、
ようやくできるようになりました。

右と左の区別も、つくようになりました。

お箸も何とか、
不格好ではない程度に持てるようになり、
お豆もつかめるようになりました。

なわとびも、
連続10回程度はできるようになりました。

ボール投げも、安定してきました。

絵画・制作では、
持ち前の独創性を取り戻しました。

カラフルな、楽しそうな絵。

丁寧に、でも短時間で完成させる制作物。

でも、特訓講座でのペーパーは、
かなり手強いまま。

つまり、本番まで1カ月で、
ペーパー力を、
過去問が解けるレベルにまで
引き上げなければならない。

まだ、過去問には手を出せていない。

まずい。

かなり、まずい。

しかも、
(慶應幼稚舎はペーパーがないので)
8校分に手を付けなければならない。

改めて、反芻する。

小学校受験において、
得点の50%は「考査」、
残りの50%は「願書」と「面接」。

子どもの得点が、
考査で他のお子さまよりも多少劣っていても、
願書と面接で親の得点で点数を稼げれば、
逆転可能か。

願書は提出した。

あとは、面接対策だ。

そして、過去問だ…。
8校分の。

●面接対策も、見えてきた?「願書と面接」を得点源にするために、あがく。

<第16章>

願書は、苦戦を重ねた末、
提出済み。
次は、
願書を参考にしながら行われる面接
に向けての準備です。
得点の50%を占める「願書と面接」。
我が子の「考査」の得点が芳しくなくても、
パパの力で、
願書と面接で、
合格させてあげるからね!

慶應幼稚舎に面接がありません。 

だから、その他8校分の面接対策。

各校の過去問、幼児教室からの情報、
ネットに溢れるお受験情報、
すべてをかき集め、
地道に、各校別の想定質問をまとめ上げました。

過去行われた質問を、数年分、すべて網羅して、
エクセルに整理していきました。

各校ごとに、受験者本人(子ども)向け、
父親向け、母親向けに分けて。

9月からコツコツと、終業後の単調な作業。

何度か徹夜しました。

しかし、願書と面接を得点源にするには、
私が、娘の努力に報いるためには、
睡眠時間を取っている場合ではありません。

こんな感じで、まとめました。

【受験者本人(子ども)向けの想定質問集】


【父親向けの想定質問集】


【母親向けの想定質問集】

各校の想定質問集を、書き連ねていると、
「どの学校でも聞かれること」と
「各校が、自校の特徴に合わせて聞くこと」
が見えてきました。

想定質問集ができれば、
次は、
「父親向けの想定質問集」への回答案を考え、
「本人向け」への回答案を考え、
妻の意見をもらい、
「母親向け」への回答案を妻に作ってもらって、
ふたりで擦り合わせ、
願書との整合性を考えながら、
それぞれの回答案を
ブラッシュアップしていきました。

願書作成がようやく終わったと思っていました。

しかし、実質的に、
願書作成は、まだ終わっていなかったのです。

願書は、面接の序章。

願書と面接はセット。

なので、願書をもとに面接対策が完成するまでは、
「願書作成」は終わらないのです。

当たり前のことですが、
ようやく気が付きました。

心の重荷は、まだまだ軽くはなりません。

むしろ、願書は、文章の推敲時間があるので、
表現を練ることができます。

しかし、面接は、一発勝負。

回答案を忘れたり、
緊張で飛んでしまったり、
想定外の質問への機転が利かなかったり、
不測の事態だらけを想定すると、
面接の怖さが、
じわじわと心にのしかかるのでした。

娘の努力も、
願書完成までの努力も、
面接で、弾け飛ぶ可能性があるのです。

仕事でのプレゼントはまったく異種の、緊張感、
というか恐怖感。

「奈落の底」を覗いているような、
とめどなく押し寄せるプレッシャーを
背負いながら、
家でも、通勤中でも、仕事の合間でも、
面接シミュレーションを繰り返し、
どんな質問にも応えられるパパ、
せめて1校でも合格させてあげられるパパ
になろうと、
毎日、あがき続けるのでした。

●初めての面接!
ボールの練習とカトリックの先生。

<第17章>

学校によっては、
10月に面接を実施します。
初の面接で、
とんでもない波乱が起こり…。  

10月。
カトリックの小学校での初面接に向けて、
想定問答集に基づいて、
妻と回答案を練り直しました。

そして、模擬面接を家族で行いました。

長男が先生役となり、長女と父、母3名で、
質問を受けます。

想定問答集に沿ってはいても、
なかなか思うように話せません。

家族相手の質疑応答なので、
気恥ずかしさのせいにしたくなりますが、
「小学校受験の質疑」というものに
慣れていないからでした。

しかし、何度かくり返し、
形になるところまで、上達した気がしました。

そして、本番。

まず、父親に質問。
無難に回答。

次に、母親に質問。
質問する先生も微笑むような、見事な回答。
妻は、偉大だ。

そして、娘に質問。

「どこから来ましたか?」
「幼稚園で面白いことは、何ですか?」
「お母さんの料理で、好きな物は何ですか?」

想定通りの質問。

緊張しているからか、声が多少小さいが、
上手に回答。

そして、更なる質問。

「休日に、お父さんとどんな遊びをしますか?」

「はい!お父さんと、
 家でボール投げとなわとびをします!!」

「えっ?家でボール投げとなわとびですか?
おうちの中ではなくて、お庭でするのですか?」

「いえ、違います。おうちの中でします!!!」

終わった。

完全に終わった。

先生が助け舟を出してくれたのに。

娘は、ボール投げの軌道が、
なかなか安定しなかった。

だから、
100円ショップで買った
柔らかいゴム製のボールで
休日に、家の中で
ボール投げの練習をしていたのだ。

なわとびも、家で練習していた。

裏目に出た。

こんなところで。

妻と顔を見合わせて、お互いに下を向いた。

以降の質問には、
家族3人、的確に答えることができた。

面接が終わって、帰路につく。

「まさか、あんな回答をするとは。」と
夫婦で意気消沈しつつも、
「でも、ほんとのことだしね。
 先生の助け舟に乗って、嘘をついて、
 『そうです、お庭でやります』
 と答えるのも、いかがなものか。
 まあ、いい子に育ってるね」
と話し合う。

初の面接は、波乱もあったが、
面接という場を経験できた、実りある時間だった。

面接の空気は、わかった。

今後の面接、行ける、
かもしれない。

●過去問に手を付ける。凛々しい娘の表情に、泣く…。

<第18章>

買い込んでいた過去問に、着手!
解き方を覚えるように、やり込む。
そう、東大受験を思い出して。    

ペーパー力の強化。

娘の最大の課題は、これです。

家庭学習用のプリントは、やっとひと通り、
9月末で終わりました。

間違えた問題はできるようになるまで、
そして何度も間違える問題は、
自作の「何度も間違える問題集(プリント集)」
にまとめて、
来る日も来る日も繰り返しました。

スピード重視で、
問題を見た瞬間に、解き方を思い出すように。

答え自体を覚えていてしまっては意味がないので、
問題を多少変えながら。

解き方を、娘から解説してもらうようにしました。

よくついてきてくれたと思います。

よく耐えてくれました。

娘の眼も、顔つきも、シャープになった。

パパが追い込んでしまって、ごめんね。

でも、とても凛々しい、強く美しい顔だよ。

こんな顔、
小学校受験に臨まなければ、
年長で見せない顔だよ。

飽きるよね、毎日毎日、
面白くもないプリント解いて。

でも、ねちっこく、飽きてもやるべきときがある。

今が、そのときなんだ。

あと1カ月だけ、我慢して。
ごめんね。


ようやく、過去問に着手する。

ペーパー力が問われる女子校から手を付ける。

まずは雙葉でやってみたが、歯が立たない。

なので、過去問に本格着手する前に、
志望校別講座でやった問題を、
解法を覚えるまで、徹底的にやった。

これは、自らの東大受験と同じ方法だ。

入試直前、過去問に手を付ける前に、
それまでに受けた
すべての模試の問題をやり直し、
間違えた問題は、
徹底的に解き方を覚えた。

これを、
飽きるけど、
ねちっこく、やる。

過去問に手を出していないことに焦るけど、
ねちっこく、やる。

これを完璧に仕上げてから、
過去問に取り掛かると、
かなり解けるようになった。

そこから10年分、
模試のやり直しと同じように、
間違えた問題は、
徹底的に解き方を覚えた。 

難関突破が実現できるかは、
能力の問題ではない。

そう、執念、執着の問題だ。

これで、最後の20日で、
大学合格に手が届いた。

だから、娘の過去問にも
同じような段取りで、取り組んだ。

成功体験の押し売りなので、
成功するかは不明だが、
信じるしかない。

まず、1校目。

間違えた問題は、何度も繰り返して、
徹底的に解き方を覚える。 

段々と、解けるようになる。

次に、2校目。

そして、3校目。

行けるかもしれない。

学校ごとに、問題の癖(特徴)があるが、
その癖を解説し、
3校目ぐらいまで過去問を解き続け、
解法を覚え続けていると、
解答スピードが上がり、正答率も上がってくる。

ペーパー問題に、初めての手ごたえを感じた。

1カ月間、連日の成果が、
10月末に表れ始めた。

もう、仕事どころではない。

仕事は、深夜にやろう。

午前中は、できるだけテレワークにして、
娘と過去問に取り組んだ。

10月末のある日の午前中、
娘が過去問を解いている表情が
あまりにも神々しかった。

なので、スマホで撮った。

過去問に格闘する凛々しい、引き締まった表情に、
泣いた。

行ける、行けるぞ。

●願書を提出しても、過去問解いても、受験できるのは、“運”だなんて…。

<第19章>

願書を提出し、
出願校からの考査日時連絡を待つ10月前半。
そして、続々と連絡を受けます。
嘘?受けられないの!? 

出願校が、出願者の考査日時を割り振り、
各校から日時決定を待ちます。

そして、続々と決定した日時のご連絡をいただく。

何と、結構、日時が被るではないか!?

思い起こせば、5月頃。

幼児教室の担任の先生は、
こんなことを仰っていたことを思い出しました。

「出願しても、考査日時の被りによって、
 受けられない学校が
 出てくる可能性があります。

 いくつもの学校に出願する場合は、当然、
 その可能性が高くなりますね。

 そのため、どこを優先するかを考えておく必要が
 ありますよ。」

慶應幼稚舎と雙葉を目指してきました。

志望校別講座は、この2つに照準を当て、
女子最難関の過去問に食らいついてきました。

でも、考査の日時が、被ってしまいました。

気が動転する。

すぐに先生に連絡する。

「幼稚舎を受けましょう。」

そうだ。

そもそも、大学附属の小学校に行くために、
小学校受験に突入したんだった。

でも、娘とふたりで、
雙葉を見に行った記憶もよぎる。

雙葉へのモチベーションを上げるために
掛けていた言葉を思い出す。

雙葉講座の結果に、
何度も落ち込んだ。

雙葉の模擬テストの結果にも、
何度も落ち込んだ。

模擬テストをやり直し、
過去問にも手を付けつつある。

でも、受けられない。

非情だ、小学校受験は。

●(運命の11月)遂に、本番!

<第20章>

11月1日が、やってきました。
狂おしい毎日の成果は、いかに?     

怒涛の考査日程だ。

11月1日から、日によっては、2校の考査がある。

親子面接以外は、妻に託す。

長男の中学受験に付きっきりだった妻。

ありがとう。

勝手のわからない
11か月間の怒涛の小学校受験でも、
毎日の夕方のプリントを見てくれた妻、
同日に2講座あったりする酷暑の夏期講習を、
飛び回ってくれた妻、
願書のために習字を習ってくれた妻、
面接対策の回答案を練ってくれた妻。

小学校受験でも、ありがとう。

ママとパパの想いを乗せて、
実力を出し切ってくれ、娘よ。

面接は任せてくれ、ママとパパに。


●小学校受験というものは。

<最後に>

過酷な小学校受験が終わりました。
御縁を頂戴することができました。
錯乱と混乱にまみれた11カ月は、何だったのだろうか?

あの狂おしい11カ月は、何だったのだろうか?

それは、贖罪、罪滅ぼしだったのだと、
小学校受験を終えて、思う。

仕事優先で、
仕事にかまけて、家庭を顧みなかった。

すべてを妻に任せていた。

長男の中学受験の本番直前に決めた、
長女の小学校受験。

前者は長年、妻が見てきた。

2月まで死力を尽くす中学受験と
前年12月に始めた小学校受験を同時に見るのは、
無理。

後者は、私が見るのが必然だった。

中学受験を終えた後も、
私が小学校受験を担当した。

1月、2月で、かなり研究を重ねていくと、
ずぶずぶと
小学校受験の世界に、のめり込んでいった。

のめり込まざるを得なかった。

成績の分析、学習計画立案、講座の選択、
そして願書の作成。

妻は、私に任せてくれた。

だからこそ、初めて、少しだけ、
“家庭教育”ができた気がする。

それまで、家庭教育は、妻任せだったから。

願書を作成することは、我が子に向き合うこと。

どんな性格だっけ?

どんな個性があるかな?

幼稚園での生活は?

初めて出会うひとと、仲良くできる性格なのか?

率先して仲間を引っ張るタイプかな?

なわとびはできるっていってたけど、
何回跳べるんだっけ?

絵を描くのは好きだけど、
どんなことを想像しながら描いてるのかな?

お箸の持ち方、教えてなかったな。
そもそも、自分の持ち方が、ちょっとおかしいし。

学校分析をして、願書作成に取り組んで、
わかったことがある。

学校によって
「育成したい人間像」に特徴があり、
願書作成は、その理想像に
我が子の個性を当てはめる作業になる。

つまり、我が子の個性を
各校の特徴に合わせて書き分けることになる。

そこで、気付く。

個性はひとつではない、ということに。

人間には、いくつもの側面がある。

そして、
我が子に求める人間像もひとつではないはず。

丁寧さ、穏やかさを求めたい。

一方で、勇気と行動力を求めたい。

ひとつの関心事を掘り下げてほしい。

一方で、いろんな方面に、
好奇心を発揮してほしい。

他者に優しくあってほしい。

一方で、自分らしさは、
凛として譲らないでほしい。

二律背反を、子どもに求めてしまう。

だが、二律背反の個性を、
誰もがいくつも持っている。

うちの子も、
いくつも輝かしい個性を持ってるなあ。

小学校受験は、
我が子の個性を探す旅路です。

いくつもの輝く個性がある。

そのどれも、価値をはかることはできず、
優劣を付けることができず、
どの個性も尊い。

だからこそ、学校に合わせて、
それに合う個性を選び、
願書に書くことになる。

そこで、気付く。

我が子にある、たくさんの個性を。

そして、いくつもの個性の先にある、
輝く成長に思いを馳せ、
個性に合った教育を受けさせてあげたい、と
切に願うようになる。

初めは、志願校にこだわりがなかったが、
たくさんの小学校を知り、その特徴を知り、
どの小学校も魅力的に感じていった。

小学校受験において、
得点の50%は「考査」、
残りの50%は「願書」と「面接」。

子どもの得点が、
考査で、他のお子さまよりも多少劣っていても、
願書と面接で、親の得点で点数を稼げれば、
逆転可能。

なので、願書に注力することになり、
息も絶え絶えの日々だったけれど、
「子育て」を少しだけ学び、
「子育て」に少しだけ関与できた気がする。

妻に比べると、ほんとに、ほんの少しですが。

本番直前の10月、
娘とふたりで、
「ペーパー問題で気を付けること」を
話し合った。

まだ、完全には克服できていないことが、
多々あった。

その結果、浮かんできた10個の留意点を、
娘は、1枚ずつ、紙に書いた。

「10このやくそく」と名付けた。

そして、家でペーパーに取り組む前、
あるいは幼児教室に行くときに、
その紙を、ふたりで声に出して読んだ。

10月は、これが儀式になった。

そして、考査本番の朝も、
毎朝、ふたりで唱えた。

・ おはなしのきおくは
  こころのなかでいいながらきく

・ 〇×△□のしるしをちゃんときく

・ 〇×△□のしるしをきれいにかく

・ ゆびをさしてかぞえる

・ ゆびでかぞえる

・ かずのもんだいは
  わからなかったらよこにすうじをかく

・ ことばのおとがわからなかったら
  よこにじをかく

・ つみきのもんだいは
  かならず上から下へたてにみていく

・ えをかくときはふちどりをする

・ もっとていねいにこころがける

たどたどしい、ひらがな。

でも、切なく、凛々しいひらがな。

毎日、胸が締め付けられそうになった、
ひらがなが並ぶ10枚の紙。

この10枚は、今でも大事に取ってある。

娘の努力の結晶。

11カ月の軌跡。

私の宝物だ。

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