ロックとメタルのサウンド変革をもたらした5つのアルバムとは!?
ロック、メタルの歴史において名曲、名演のアルバムがいくつもありますが、その「サウンド」を進化させたアルバムについて、「PRO AUDIO FILES」に面白い記事があったので要訳したいとおもいます。
記事原文は下記です。
冒頭:ヘビーミュージックのミックスは難しい
ヘビーミュージックのミキシングはメインストリームのポップスやラップなど他のジャンルと比べてかなり難しい。なぜそんなに難しいのか?
多くのメインストリームミュージックはなるべくミニマルな方向にアレンジを詰めていく。そしてシンセ、サンプル、ループなど多くの”前処理”され、合成された音源を使う。
ロックやメタルのアレンジは、相当”密集した”かなり生状態の楽器や音声を良いミックスに仕上げなければならない。
モダンメタルのエンジニア達はいつも、メインストリームミュージックと同等のパンチとクリアさに加え、魂に響くヘビーサウンドをプロデュースしている。しかし現代のヘビーサウンドは一夜にして成ったものではない。
ロックとメタルサウンドの進化の歴史を、キーとなる5枚のアルバムの紹介とともにたどっていこう。
1. Def Leppard: Pyromania (1983 – Mutt Lange & Mike Shipley)
今日のヘビーなサウンドのスタンダードにおいてDef Leppardなしには語れない。『Phyromania』はそれまでのロックサウンドを大きく飛躍させた。多くのモダンメタルミュージックのレコーディング方法の基礎を確立させたのがこのアルバムだ。
『Phyromania』より以前、ロックンロールのアルバム制作というのはかなりシンプルでオーガニックな試練だった。例えばAC/DCの『Back In Black』は(これもまたMutt Langeプロデュース)ドラムとリズムギターは生演奏で録音され、その後オーバーダブしたのはボーカルとリードギターだけだ。
Mutt Langeはすでに『Back In Black』において最も売れたベストサウンドロックアルバムを実証していたが、『Phyromania』ではそれまで聞いたことのない、音響のスターウォーズともいえるような未来的で完璧なサウンドを創り上げた。
これらのアルバムで使われたクレイジーで革新的なテクニックのすべてを詳細に書ききることはできないが、私の心に強く印象に残った主要項目をリストアップしよう。
生ドラムの代わりにプログラミングされたドラムを使った
よりビッグなサウンドにするためにキックとスネアにサンプル音源をいくつも重ねた。
すべての言葉を完璧なサウンドにするために、ボーカルの個々の音節に手動でEQを施した
パーフェクトギタートーンのために100を超える種類のアンプとキャビネットを試した。
個々の楽器、言葉、音節を何百テイクとレコーディングした。
コードを創り上げるために個々の音をそれぞれ録音し、それを重ねることで圧倒的なクリアさと精密さを実現した。
数十のブーストされ、処理されたボーカルを重ね、ビッグで空気感あふれるボーカルトラックを創り上げた。
ハーモナイザーによって個々の音節、言葉を個々に手動でピッチ補正を施した。などなど・・・
要するに『Phyromania』はクレイジーで成功した”実験”だったのだ。このUSだけで1千万枚うれたアルバムの制作の詳細に同意するかどうかはともかく、上記のようなアルバムプロダクションでの狂気の沙汰は、確実に一つのアルバムを作る手段ではあったのだ。
Metallica: The Black Album (1991 – Bob Rock & Randy Staub)
1986年の『Master of Puppets』、1988年の『メタル・ジャスティス』によってMetallicaはすでに”恐るべきメタルバンド”としての地位を確固たるものとしていた。問題は、彼らがどちらのアルバムのサウンドにも満足していなかったことだ。
これらのアルバムの"Heavy"とは、速くスラッシーで攻撃的という意味であり、ベース音の欠落(特にJustice, 事情はある)によって特に”重たい”わけではなかった。Metallicaはさらに先に進むうちに「広大で、ビッグで、太いローエンドのサウンドの時が来た」と考えた(ドラムのラーズ曰く)。
Rock Meets Metal(Bob Rock)
Mettalicaは、The Cultの『Sonic Temple』、Bon Joviの『Slippery When Wet』 そしてMötley Crüeの『Dr. Feelgood』で広大なサウンドを実現していたカナダのプロデューサーBob Rockと次のアルバム制作を創ることを決めた。とはいえ彼らはどのようにBob Rockがヘビーなメタルサウンドを作ってきたのかに心配はあった。
Enter Randman(Randy Staub)
ブラックアルバムのサウンドのもう一人のキーマンはBob Rockのパートナーとして働いていたエンジニアのRandy Stubだ。メタリカのインタビューや記事で語られることはあまりないが、Randyの手がけたAlice In Chains、Nickelback、Stone Sourを考えると、彼の存在がいかにこのアルバムに影響があったかわかるだろう。
ブラックアルバムがメタルサウンドのゲームチェンジャーとなった大きな理由は下記だ。
ブラックアルバム以前のメタルサウンドというのは、ある種の生感と粗削りなところからあまり多くのリスナーには届かなかったが、Bob Rockの持つ"メインストリームミュージックのスピリット"とRandyの"Hi-Fiなアプローチ"、そしてメタリカのアグレッシブなマインドセットがメタルを大衆に届けることができた。
いわゆるメタルの象徴的なドラムサウンドとして最も印象的。ドラムのヘッドは最大限のパンチとインパクトを届けられるように毎日交換、チューニングされ、その音質調整に数時間を費やした。ミキシングにおいてはラーズのリクエストによって、かなり高域がブーストされ、今日のメタルサウンドにも通ずるミスの許されない硬質なサウンドを達成した。
"メタルの夜明け" 70年代初頭のBlack Sabbath以降、新しいメタルバンドはよりヘビーに、次により速く、そしてより長く、より攻撃的なサウンドを創ってきた。しかしMetallicaはブラックアルバムや、例えば収録曲"Sad but Ture"においてわかるように、もっともヘビーなサウンドとは前述の対極にある、つまり”スローであること"に気づいたのだ。
In Flames: Clayman (2000 – Fredrik Nordström)
デスメタルというジャンルのために、Def LeppardやMetallicaほど有名であったり商業的な成功をしたわけではないが、スウェーデンのIn Flamesは2000年リリースの『Clayman』によって今日のメタルサウンドを確立した。
ところで、MetallicaやIron Maiden、Judas Priest、Black Sabbathで育ってきた私は、Cannibal CorpseやMorbid Angel、Obituaryなどの”正統派デスメタルバンド”はあまり通ってこなかった。彼らのサウンドがヘビーすぎたというより、私はフックのあるメロディアスな曲がより好みだったのだ。
Welcome to Gothenburg, Sweden
1990年代のデスメタル3部作(『The Jester Race』『Whoracle and Colony』『Clayman』)で、In Flamesはブルータルとメロディックのまさに橋渡しを成し遂げた。2000年初頭のニューウェーブ:"メロデス"は大きな影響があった。
プロダクションという視点では、『Clayman』は当時のどれよりも速く、攻撃的で、クリアで精密だった。それ以前のアルバムから劇的な進化を遂げていた。このアルバムにおけるいくつかの詳細は下記になる。
タイトでパンチのある素晴らしいローエンドが”ライブのエネルギー”をもたらした
Peavey5150アンプによる攻撃的でモダンなメタルトーンをプロデューサーのFredrik Nordströmはもはや伝説的な”フレッドマンマイクテクニック”を編み出して達成した。2本のShure SM57を下図のようにスピーカーの前に配置し、ミックスしたのだ。
今日のほとんどすべてのメタルバンドがそうしているように、アンプの前段にチューブスクリーマーを配置し、低域をタイトにボリュームを上げてアンプを歪ませた。
『Clayman』におけるメタルとメロディーの融合がなければ、TriviumやKillswitch Engage, As I Lay Dyingなどのバンド、もっと言えば"アメリカンモダンメタル"は存在しなかったのではないだろうか・・・。
The Devil Wears Prada: With Roots Above and Branches Below (2009 – Joey Sturgis)
だれがこのアルバム制作に携わっていたのか最初に目にしたのをよく覚えている。そしてそれを知る前から、私が「サウンドが印象深い」と思っていた多くのアルバムをプロデュースし、ミックスしていたのはJoey Sturgisだったのだ。
『With Roots Above and Branches Below』は私がこの仕事をするきっかけとなったと言っても過言ではない。Joey Sturgisの新しいホームスタジオで、慎重にレコーディング、ミックスされ、Mutt Langeのごとく細部まで丁寧につくりこまれたこのアルバムが、若いメタルミュージシャンたちにインパクトを与えることになるとは思ってもいなかった。
このアルバムのいくつかのカギとなるテクニックを紹介しよう
生ドラムの代わりにドラムサンプルに置き換えて多用した。
Line6のPOD Farm アンプとキャビネットシミュレーションソフトでギターとベースのサウンドを創り上げた。
ヘビーを強調するためのタイトなミックスとリフメイクはMutt Langeの制作アプローチを引用しつつ強いインスピレーションを与えた。
偶然にもJoey Sturgisの仕事を勉強した少し後、私は彼の2015-2019の教材用のコンテンツ制作の仕事にやとわれた。とてもクールな私のプロキャリアのスタートだった。
音楽的に好みでないかもしれないが、JoeyのDIY的な、そこそこのホームスタジオレベルの機材とアンプ・ドラムシミュレーションソフトウェアを使用したBedroom Producer的なレコーディング手法は、素晴らしいアルバムを生み出し、且つ商業的にも成功を収めたことは否定のしようがない事実なのだ。
5. Periphery: Juggernaut: Alpha & Omega (2015 – Adam “Nolly” Getgood)
この記事の中でこれまで言及してきたアルバムのリリース当時、人々は「これは最高だ!メタルでこれ以上のサウンドは金輪際ありえない!!」と考えたが・・・それは全くの間違いだった。
私はPeripheryの2015年リリースのダブルアルバム『Juggernaut: Alpha』、『Juggernaut:Omega』ほどにドラム、ベース、ギターサウンドのヘビーなシナジーがそれまでに存在したとは思わない。
なぜNollyのプロデュースするサウンドはここまで良いのか?というのもあるが、Prupheryサウンドは個々のメンバーの適切なギア、スーパータイトな演奏と高いミュージシャンシップとのコンビネーションによって成立している。
『Juggernaut AlphaとOmega』での素晴らしいサウンドのキーポイントをいくつか列挙しよう。
Nollyが先駆けたDingwall製CombustionベースとDarkglass製B7Kプリアンプによるモダンディストーションベースサウンド。もはや、Darkglass製品を使っていないメタルベーシストを見つけるのは不可能であろう。彼らはそれをコアトーンとした。
地球上で最高のハードヒッターで最高のドラマーの一人、Matt Halpernと、最高のドラムサウンドエンジニアであるNollyによる生ドラムサウンド!Pripheryのドラムサウンドはいつも業界全体の嫉妬の対象だ。私はNollyとMattによるCreative Live Coarse: Studio Pass: Periphery を強くおすすめする。彼らがどのようにドラム、アルバムをレコーディングし、ミックスしたかが垣間見れる。
世界ベストギタリストの3人によるベストなアナログとデジタルアンプ/キャビネットシミュレータのサウンド。Juggernautで彼らはAxe-FXIIとカスタムのZILLAキャビネットIRを使用した。
Pripheryはベース、ドラム、ギターサウンドのトレンドを作り出し、2010年代の他のアーティストの多くのアルバムでも同様のギアが使われることになった。彼らは自らのレコーディングの秘訣を秘密にはせず、むしろ世界の皆を導いた素晴らしい人物たちだったのだ。皆がPeripheryと同じ全く機材を使うことは、彼らへの最大級の賛辞であり敬意なのだと私は思う。
まとめ
いかがでしたでしょうか?個人的には音楽的なターニングポイントとなるアルバムが語られる記事はよく目にしますが、エンジニア視点のものはそこまで多くないと思いまして非常に面白かったです。
あげられた5つのアルバムも納得な気もしますし、もちろん違う意見もあるだろうなとは思いますが、やはりそれぞれその時代で革新的であったのは間違いないかなと思います。