「空間に物語を重ねたい」|浅川奏瑛×演劇空間ロッカクナットインタビュー
ストレンジシード静岡で出会い、戻ってきた3人。
ハボ まずはお三方それぞれの自己紹介を簡単にお願いできますでしょうか?
菅本 口下手、口下手、おしゃべりの3人なので、「おしゃべり」担当の私から。菅本千尋(すがもと ちひろ)と申します。大学から福岡県に住んでいます。出身は広島県なんですけど、福岡が住みやすすぎて、今も福岡にいます。普段は会社として働きながら演劇をしています。演劇をやるときは舞台照明をすることが多いんですけど、自分の団体でやるときはアートマネジメントっていうクレジットが多いです。「演劇空間ロッカクナット」という空間演出のコレクティブを原君と一緒にやっています。よろしくお願いします。
原 「演劇空間ロッカクナット」の舞台美術を担当してます。原良輔(はら りょうすけ)と申します。僕はもともと建築を専攻で学んでいて、自分で家具作ったり、ものづくりみたいなことが好きでやっていました。一方で、観るものとして演劇というものがすごい好きで、そこから舞台美術として演劇に関わるようになって、今、菅本と一緒に「演劇空間ロッカクナット」をやっているという流れになります。
浅川 ダンサー、振付家として活動してます。浅川奏瑛(あさかわ かなえ)と申します。私は埼玉県出身で、今も埼玉県に住みながら、ダンサーとして他の振付家の方の作品に参加したり、自分で作品を作ったりしながら活動してます。ストレンジシード静岡は2022年に田村興一郎さんと二人で作った作品のダンサーとして出演させていただいていて、それを原さん・菅本さんにも観ていただいてたという。
菅本 そうなんです。
浅川 その時は全く知り合いではなくて、2022年のストレンジシード静岡が終わった後に原さんからご連絡をいただいて、知り合って、仲良くなって。で、今回一緒に応募しましょう、ということになりました。
菅本 そう。
浅川 ストレンジシードで出会い、
菅本 そうです。戻ってきた。
浅川 初共演がここで、一緒に作品出来るのがすごくいい巡り合わせだな、特別なフェスティバルだなと、個人的にすごく感じています。
ハボ ロケーションが違うのに、どういうご縁でつながられたのかなっ
てお聞きしようと思ってたんですけど…
浅川 (笑)
ハボ ストレンジシードって、色んな人が色んなところから集まってきて、皆さん混ざり合ってパフォーマンスなさるので「つながり」が生まれやすそうな気はしておりまして。それが実現しているのがとても嬉しいです。
竹、フレーム、境界線。
ハボ 以前の作品※の記事をインタビュー前に拝見させていただいて、原さんは竹に対する「想い」がお有りなんだなーと思いました。今回も竹を使った美術をなさるとのことですが、観る側としてはどういうものを期待していくと良さそうでしょうか。
※演劇空間ロッカクナット いっかいめ。『そこここに、戯れ』
原 そうですね。今回、棒状の竹が何本もあって、一本線がつながっていくようなアートワークを制作する予定なんですけど、見る角度によっていろんなフレーミングというか、枠で切り取られたシーンがいくつもできるなと思っています。背景には大きな巨木があったりするし、フェスティバルgarden(駿府城公園 東御門前広場)のマルシェの方に向いても風景が切り取られて見えたり。その中でダンサーの浅川さんがパフォーマンスするから、見る人の視点から、いろんなフレーミングされたシーンが見えるのが面白いかなと思っているので、そういった風に楽しんでもらえたらなと。
ハボ ウェブサイトに載っているプログラム写真の、四角い感じのあのイメージで。
原 そうですね。はい。
ハボ なるほど。『そこここに、戯れ』では竹林の中での作品が鳥籠みたいだったので、なんとなくそのイメージがあったんですけど、今回は割とカクカクとした。
原 そうですね。竹林の時は、竹を割いた割竹にして、竹かごみたいに編み込んで作ったパビリオンだったんですけど、今回は丸竹を割らずに丸いまま棒状に竹を使っていくイメージです。
ハボ その竹と共に踊られる浅川さんは、どんな感じに竹のフレームと絡んで行かれるのでしょうか。
浅川 フレーミングっていう言葉が出ましたけど、作品のコンセプトの中に「境界線」っていうワードが出て来るんです。私も普段から自分の作品を作る時にも境界っていうものをすごく意識していて。生と死とか、光と闇とか、そういう対にあるものの間。そことそこを結ぶグラデーション部分、みたいなものをダンスを通じて抽象表現としてできないかなっていうのを模索しています。で、今回は竹のフレーミングっていうものを一つの境界線として、その間を行き来するような…ちょっとジャングルジムにも見えて、ちょっと遊んでるようで、何かそこに境目があるような、お客さん一人一人が想像を膨らませられるようなパフォーマンスができたらいいなと思ってますね。
ハボ ダンス作品のYouTubeチャンネルを拝見させていただいてて、三角コーンをかぶって出ていらっしゃる作品(北陸ダンスフェスティバルDX 浅川奏瑛『TOKYO 21XX』)で、最初普通に歩いていらっしゃるところと、クッとパフォーマンスが始まるときの動き方の違いを感じました。どういう意識の持ち方というか、どうやると人に「観せれる」動きになるんだろうっていうのが、そういうことをやったことない人間からすると興味があるのですが。
浅川 見ていただいた作品が11月頃に上演したものだったんですけど、ほんと、「よいしょ」って思うしかないというか、気合いを入れるしかないですね。やっぱりお金と時間をいただいて、その場に来ていただいているからには、もう体を全部投げ打って。
浅川 私はバレエもやってないですし「ダンス的」な体は持ってなくて。5歳から高校卒業まで新体操をやってたので、体のルーツは新体操になりますね。なので、瞬発力のある動きだったり、バネを使った動きが得意で、割とそこを活かして作品は作ってます。
ハボ 一人でフロアを完全に埋めないといけない、みたいなパフォーマンスの時の心構えとかは有りますか?
浅川 広いところで一人で踊ると埋もれてしまったりするので、そうならないためには、強い肉体と心がないと、その場所に立っていられなくて…。ちゃんと地に足をつけるっていうことは、一人で踊る時は意識してますね。
ハボ 今回の様にフレームで区切りが出来ると、オープンなフロアでの動きとは質が変わってくるんでしょうか?
浅川 そうですね。今回は竹が四角く組まれているので、もうちょっと体は揺らいでいても良いのかなって今は思ってますね。アプローチとして、私もバシバシ強めなライン、直線的な動きをたくさん使うと、ちょっと竹とマッチしないのかなって思ってて、もう少ししなやかさとか、柔らかい動きを取り入れようかなと思ってます。
境界線と戯れる、境界線に触れる。
ハボ プログラムの紹介文に「迷う、閉じこもる、繋ぐ、痛い、進む、進める、それでも」って書いてあるんですけども、痛い、とは?
菅本 このコンセプトというか内容を決めるのにいろんな話をしてる中で、さっき奏瑛さんが言ってたみたいに、境界の話をしました。私自身は、自分と他人の境界のことを考えることが多くて。国境っていう境界とか、さっき言ってた光と闇とか、あらゆるものの境界って、分断を生んでるようだけど、人と人との間に境界がなかったら、「私」と「あなた」っていうものは生まれてこないな、と。
なので、境界があるっていうことを、「ないもの」にするのではなくて、境界があることで、一緒にはなれないんだけど、境界線と戯れていく、境界線に触れていくとか、踊りの中でコミュニケーションを取っていくことで、より肯定的に境界線を乗り越えるというか。消し去ってしまうのではなくて、「あること」を認めていくようになりたいなと思ってます。
「痛い」っていうのは…あの文、私が書いてみたんですけど、「境界」っていう言葉とか「境界線」とかを乗り越える・踏み越えることとか、誰かと関わりに行くこととか、違うものに入り込んでいく、みたいなことって、面白いけどずっとハッピーではいられないと思って。そういう「痛み」はあるだろうなって思って入れましたね。
浅川 私はその「痛み」を静電気とか摩擦みたいな感じで捉えています。人と人がつながろうとする時に、いろんな会話とかコミュニケーションをとって違いを発見したりすると思うんですけど、そこでちょっと静電気みたいにピリッとなったり、交わろうとするから起きる摩擦みたいなもの。痛いけど、でもそれが絶対必要なものだよね、みたいな感じで捉えてます。
ハボ なるほど。
原 境界をテーマにした経緯なんですけど、(会場になる)駿府城公園って、もともと駿府城が建ってた場所じゃないですか。城っていろんな境界とか結界みたいなものが何重にも重なった場所で、いろんな門があって、それを乗り越え敵が攻めてきて門を閉ざしたり、味方はその門をくぐってどんどん中に入れたり、みたいな。いろんな境界とか門とか結界みたいなレイヤーがあるなと思って。
駿府城が戦国時代のときから何百年の時を経て、今ここで野外の演劇フェスティバルが行われていることにすごい意味を感じて、境界とか門をくぐる、くぐらない、みたいなテーマにたどり着きました。
浅川 駿府城公園だからこのテーマになったっていうのが結構ありますよね。
菅本 ありますね!駿府城のリサーチみたいなこともいっぱいしました。駿府城の面白ポイントがいろいろあるんですけど。
ハボ え、そうなんですか?例えばどんなのが?
菅本 駿府城って家康が建てたお城じゃないですか。でもどんなお城だったかっていう精密な証拠というか図面とか記述が残ってないので、歴史学や建築として、駿府城を現代に再現しようということはできないんですよね、証拠がないから。
それをいいことに仮想の駿府城を想像する、みたいなことをやってる方とかもいて、そういうのを見て、このアプローチは面白いねって言ってみたりとか。
ハボ へぇえ!
原 オープンコールプログラムに申し込んだ時は、敵が一番最初に攻めて来る、防衛の機能を持つ東御門にすごい意味を感じて(東御門で上演する)提案をしてたんですけど。
菅本 ね。そしたらすごい大きいステージになっちゃって、ドキドキしましたね。竹のアートワークも、申し込んだ時よりも大きくしようという話なって、「竹をいっぱい切るぞ!」っていう気持ちです。
ハボ 私も最初、前作のイメージから東御門のところかなって思ってたら、フェスティバルgardenの広場なんだ!って思って。あのだだっ広いところに竹がニョキニョキ生えて、しかも「育っていく」と聞いているのですが、つながって育っていくイメージですか?
原 つながっていくイメージですね。接合部を使ってどんどん伸びていくイメージで。
ハボ お客さんもワークショップ的に、一緒に作れるような仕掛けを考えてくださってるってとのことですけれども、これはどんな風に?
菅本 タイムテーブルを見ていただくと、私たちのタイムテーブルの中に「パフォーマンス」の時間があって、その後を見ていただくと、「竹のアートワーク増殖タイム」というのが入ってるんですよ。
ハボ ホントだ!
増殖する竹。
菅本 「竹のアートワークを増殖させたいわ」とか、「竹を触ってみたいわ」っていう方や、「せっかくならなんか参加したいわ」っていう方は「増殖タイム」を狙って来ていただくと、必ず竹の増殖に参加できます。原と、私と浅川も一緒に竹をつなげて増やすんですけど、増殖タイム以外もできるだけ増殖させようと思ってるので、増殖作業に出会えたらラッキー!という感じで参加して頂けるといいと思います。
ハボ 今回のストレンジシード静岡は、「なんだ?なんだ?なんだ?」がテーマですが、お客様にどんな「なんだ?」を持って帰って欲しいですか?
菅本 パフォーマンスをする場所が飲食スペースの隣で、ご飯を食べたり出来る机や椅子が近くにあるんですよ。で、お客様の見る角度・位置によっては竹のフレーム越しに何かを食べてる人が見えてくると思うんですよね。そこで「うわ!あれは何を食べてるんだ!」って思ってほしいな、と強く思っています。
あと、自転車とか、家族連れとか、わんこのお散歩とか、お散歩されている方がすごく多い公園なので、画面のフレームみたいな感じで、竹のフレームを通して見える人たちの、関係性だったり、「何の話してるんやろ?」とか「今からどこ行くんやろ?」みたいなことを想像してほしい、って思ってます。
ハボ ありがとうございます。お二人は如何でしょう?
原 そうですね。パフォーマンスの時間以外にも浅川さんがフレームのところで戯れたりする予定なので、来場者の人もなんとなく立ち寄って、「なんだこれ?」って思いながら戯れてくれたら嬉しいなと思ってます。それを他の人が見て、パフォーマンスなのか、ただの遊具なのか「何なんだ?」って思ってくれたらいいなと思います。
浅川 そうですね。今って色んな事で無関心に通り過ぎてしまう事が多いから、まず「なんだ?」って思うことが本当に大事だなぁと思います。無関心、何も感じない、興味ないっていうのが一番心は豊かにならないと思うので、まず何か見たもの聞いたものに対して、「何だろう、これは?」「何なんだ?」と”ハテナ”が浮かぶ。そういうことのきっかけにパフォーマンスがなればいいなと。
「体を通して、観てる人の心が躍るようなパフォーマンス」っていうのを目指してるんですけど、こっちが「何をやってます、これをこう見てください」って言わない分、お客さんにそこを考えて欲しいし、考えてもらえるような「入り口」を作れるようなパフォーマンスになったらいいなぁと思います。
ゆか 私も、竹を増殖してみたいです!
菅本 やったー!
原 お願いします!
ゆか 境界線フレームを竹で表現するのに、斜めの線はないんですか?
原 斜めの線…そうですね。斜めの線は今のところはない予定で、水平、垂直で竹を構成していこうかなと思っていますね。門だったりゲートみたいなことを表現していけたらなと思ってます。
山口 ありがとうございます。じゃあ、僕からも。これまでも竹を使った作品を作ってこられてるんですけど、竹にこだわっている理由があれば教えていただけますか?
原 僕は建築をやってるんですが、日本で竹を構造にした建築を作りたい
と思ったのが一番最初のきっかけなんです。東南アジアには竹だけでできた建物が有って、それを日本で作れないかなと思って竹の建築を研究し始めました。
日本だとまだ法律的に常設の建物は建てられないので、まずはパビリオンだったりアートワーク的なところから、色々実験的にやってみたいと思い、取り組んだのがあの竹林の中で作ったやつなんですけど、それが演劇とすごい相性良いなと思って。その流れで今回はダンスとのコラボレーションだったり、パフォーミングアーツと竹の建築みたいなところを組み合わせて作品を作っていきたいなって思ってます。
「どんな空間か」が最初。
山口 今回であれば「竹を使ったフレーム」という舞台美術に合うのはダンス、みたいな考え方で、作品ごとに美術もパフォーマンスも考えるんですか?
菅本 そうですね。これが「ロッカクナット」の特徴と言えるかもしれないんですけど、竹を使うとか何を使うっていうのも決まってなくて「どんな空間か」「設置するのがどんな場所なのか」が一番先頭に来るんですよね。
で、その場所は歴史的にどういう場所なのか、今回だと駿府城のことを調べてみたりとか。今回は奏瑛さんと一緒にやりたいなって思ってたから、じゃあどういうやり方だったら一緒に面白くなれるんだろうっていうのを、そこから考えていく。
菅本 「ロッカクナット」はこだわりがあって、劇場じゃないところ、例えば山とか屋上とかでやってるんですけど、普段使ってる場所とか普段よく行く場所とか、そういう日常の空間、「そこにある場所」に「そこにない物語」をインストールしたい。
「空間に物語を重ねたい」っていう言い方をすることが多いんですけど、その手段が演劇になったりとか、今回ダンスになったりとか音楽だったりとかっていう形ですね。
山口 アーティスト名が「劇団」ではなく「演劇”空間”ロッカクナット」ですし、パフォーマーが主役というより、パフォーマーも含めた空間が主役、ということですかね。まさに「ストリートシアター」だなって思います。
菅本 そうです。本当に相性がいいと思います。
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