現代サーカスを、観劇の選択肢の一つに 吉田亜希(流転)インタビュー
ジェットコースターは乗れないけど
ハボ:まずは簡単に自己紹介をお願いします。
吉田:吉田亜希と申します。今回初めてストレンジシードに参加させていただきます。私は演劇でもなくダンスでもなく、現代サーカスというものをやっています。3年前に香川へ移住してきて、それまでは東京で十数年活動していました。
いわゆる伝統的なサーカスというと、みんな“動物がいるやつ”とか“空中ブランコ”とかをたくさん答えてくれるんですが、現代サーカスと言ってピンときてくれる方にはまだなかなか出会えなくて。演劇的な要素やダンス、美術、あらゆる身体表現、アートを取り込んでサーカスのテクニックベースで総合芸術みたいにしたものを、現代サーカスということが多いです。
ハボ:サーカスのテクニックというのはどんなものですか?
吉田:群馬にある日本で唯一のサーカス学校では、アクロバットやアクティングという演劇的なものや、ジャグリングや倒立やエアリアルなどの専門的なものまで学べると聞いたことがあります。
ハボ:吉田さんのエアリアルの動画を拝見しました。エアリアルをやっている方に聞いてみたかったんですけど…怖くないんですか?
吉田:私も実は高いところがすごく苦手で、「なんでやってるの?」とよく言われます(笑)。でも、自分で使っているエアリアルの道具でここは絶対大丈夫っていうのが、だんだんわかるようになってくるので、ジェットコースターには乗れないけど、空中でのパフォーマンスは楽しいと思うようになりました。
ハボ:そうなんですね!エアリアルで一番怖そうなのが、上から布を巻きつけていてストンっと落ちるパフォーマンスです。下に何のマットがあるわけでもないところでやってるのを見ていて、絶対落ちない保証はあるんですか?
吉田:100%大丈夫っていうのはないんですけど、100%に近づけるための練習や道具のチェックをして、お稽古を繰り返しています。…怖いですよね。
ハボ:見てるだけでも怖いです。練習の段階ではマットを敷いたりしますか?
吉田:敷きます。私は結構分厚いマットを敷いて練習しています。
触って感覚をたしかめる
ハボ:小さいころから体操をやってらっしゃったんですか?
吉田:私は中学校の時から始めて大学の終わり頃までやっていたので、10年ほどやっていました。
ハボ:以前、ジムのトレーナーさんから「体育大学にいる人間の運動能力の高さは異常なんだって大学を出て初めて気づいた。バク転できて当たり前だった。」と聞いたのですが、吉田さんの周りもそんな感じでしたか?
吉田:私は特に体操競技をやっていたので、周りの人はみんな「バク転は朝飯前」という人でしたね。
ハボ:身体を使うのが上手な方って、体の隅々まで神経が通(かよ)っている様に見えるんですが、それって元々備わっているものですか?それとも新しい動きをするたびに、新しい神経のつながりを発見するものですか?
吉田:身体を動かす中で「あっ、こんなところさぼってたじゃん」って発見します。(自分の体を)私はまだ全然使いきれてないなって毎回思いますね。
ハボ:私みたいな凡人が、今使えてない筋肉を使いたいときに、なにかこうやったらいいよというアドバイスはありますかね?
吉田:手で動かしてあげながら、足にこうやったらできるよ、感覚あるよ〜というのを言い聞かせてトレーニングすればできるようになりました。最初はできなくても、触ったときに感覚があったらきっとできると思います。
ハボ:勇気づけられました。吉田さんがそうなら、私が使ってない筋肉があっても仕方がない。パフォーマンスによって、よく使う筋肉とそうでない部分ってありますか?
吉田:あります。とくに絶対頑張らなきゃいけない筋肉が大きいと、そこだけでやってしまったりして細かいところを忘れてしまうことがあるので、その都度「忘れてるよ、忘れてるよ(肩の筋肉を触りながら)」ってやります(笑)
衣装と小道具、2人の存在
ハボ:フレームを使ってのパフォーマンスをなさっていますが、オリジナルで作ったものですか?
吉田:そうです。自分が好きでやってきたエアリアル、ダンス、アクロバット、体操競技など、全部を一緒に何か道具を使ってできないかなと思って。掴れるし、箱にしてどこでも持っていけるし、その中で踊ったりとかできるんじゃないかというところから、「こんな道具を創りたいんですけど…」っていうのを鉄工所の職員さんと相談しながら作ってもらいました。
ハボ:もしかしてあれは組み立て式なんですか?
吉田:そうなんですよ。パーツが、バーと接続部分の三角形のところで分けれるようにしてもらって、運べるようになってます。
ハボ:今回のパフォーマンスは、ユニットとしてパフォーマンスする吉田さんのほかに衣装と小道具の方がいると聞いています。
吉田:実は衣装と小道具のメンバーは舞台の人間ではないんです。衣装を担当している平川めぐみさんは、普段は伝統工芸を使ったアパレルブランドをやっていて、パフォーマンスの衣装ではなく普段使いの洋服を作っています。
小道具を担当している青野天さんも舞台美術を作っているわけじゃなくて、普段は居住空間を創ったり、インテリアや家具などのモノづくりをしています。今回、青野さんには椅子を作ってもらいました。
2人とも私のやっている「変なこと」に興味を持ってくれて、自分たちが作るものがどうやって動くのか、それによってどういう動きが生まれるかということ、作品全体に興味を持ってくれています。いろんな意見をくれたり、見て感じたことをダイレクトに言ってくれます。練習して映像を撮って彼女たちに見せてっていうのを何度か繰り返して作っています。
静岡の印象
ハボ:先日、他の静岡の野外フェスにもご出演されたということをお聞きしていますが、静岡とは今までにもご縁はあったんですか?
吉田:現代サーカスでパフォーマンスしたのは、先日のアワーフェス※が初めてでした。
※「OUR FESTIVAL SHIZUOKA 2022」2022.3.11~13静岡市内の人宿町や七間町を中心に行われたパフォーミングアーツの祭典
ハボ:静岡の印象はどうでしたか?
吉田:都会過ぎず田舎過ぎず、いろんなものがコンパクトにギュッと凝縮されているのがちょうどいいなと思いました。県庁や市の重要なものが駿府城公園の外堀というか塀の中にあるっていうのに不思議な違和感があって、面白い街だなと思いましたね。
ハボ:市役所のあたりとかはご覧になりましたか?他のパフォーマンスが行われたりするのですが。
吉田:人の行き来が多いというか、あのあたりが生活圏内なんですよね。そこでパフォーマンスがあるといつもの景色がきっと変わるんだろうなと、歩きながらワクワクしていました。
ハボ:静岡は昔から大道芸が盛んなんです。私もびっくりしたのですが、街の真ん中で突然パフォーマンスが始まっても、静岡の方ってそれを当たり前のことのように受け入れている印象があって、投げ銭も慣れている印象があります。
吉田:この前行った時も、それはすごく感じました。見慣れてるというかそれぞれの見方をちゃんと皆さん持っていて、外で見るという文化があるんだなというのを感じました。
余白にはお客さんそれぞれのストーリーを
ハボ:静岡で現代サーカスパフォーマンスをするにあたって、静岡のお客さんにはどういうものを受け取ってほしいですか?
吉田:“こういう感じになってほしい”というのを限定してはいません。作っているときにこちら側の提案ばっかりを詰め込むというよりは、余白を作ることも心掛けています。見ている方が自分自身の感情とか記憶とかを、見ながらそこへ入れ込んで、いつも見慣れている景色も入れ込んで、その人自身のストーリーにして見てくれたらうれしいです。
ハボ:余白を作るというのは、“分かりやすい何か”を作るより難しいんじゃないかと思ったのですが、どういう工夫をすると見ている方が余白として受け取ってくれるものなのですか?
吉田:例えば、動きを作るときに具象的なものと抽象的なもののバランスを考えながら作ってます。(例えを考える動作をしながら)いろんな受け取り方ができるための動きみたいなのを研究してます。
ハボ:“分かりやすい動き”と“なんだろう、これ”みたいな動きを合わせることだったりします?
吉田:そうです!
楽しみとこれからのつながり
事務局:今回、ストレンジシードの公募枠「OPEN SEED」に応募された理由をお聞きしていいですか?
吉田:野外で演劇祭をされているということに一番最初に興味を持ちました。私は普段は演劇の世界にいないので、演劇の周辺の方々と交流することもなかったのですが、そういうフェスティバルだったら、自分が飛び込んでいっても受け入れてくれるんじゃないかと思って応募しました。
事務局:たしかにストレンジシードのいいところは、わりと何でもありなところで、お客さんも何でも来いという姿勢がありますね。
ハボ:これから静岡と、どのようにつながっていきたいですか?
吉田:いろんなジャンルのパフォーマンスを見たり、パフォーマーの方々と話すのも楽しみです。あと、静岡にはフェスがたくさんあると聞いていて、静岡市民は“見る”ということにすごく慣れてらっしゃるし、感想を聞けるのもすごく楽しみにしています。ストレンジシードの大きな懐をお借りして、演劇・ダンス好きの方たちの観劇の選択肢の一つに、現代サーカスも入れていただいて、好きなサーカスを見つけてほしいと思います。
ハボ:私は関西の人間なんですが、静岡大好きなんです。食べ物がおいしいですし。
吉田:それも楽しみですね~。食いしん坊なので(笑)
ハボ:そうなんですか!エネルギーいっぱい使いますもんね。ぜひぜひ楽しんでくださいね。きっと静岡の皆さんも楽しみに待っていますよ。
吉田:ちょっと緊張もありますが、楽しみにしています。
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