「逃げ出す。線を越える。ごった煮の先の何か。」お寿司インタビュー
リョウゴ それでは、自己紹介からよろしくお願いします。
南野詩恵 はい、舞台芸術団体「お寿司」の南野詩恵(みなみの・しえ)と申します。私が、作・演出・衣装をまとめてするときに、「お寿司」という団体名を使っています。
衣装としてのキャリアから始まったんですが、衣装だけだと、出来た作品が「自分の手から離れていってしまう」感覚があって、それならばゼロから作ってみたい!ということで作・演出・衣装に挑戦しました。
「お寿司」という名前の由来は、私が妊娠中に食べたくても食べたくても食べられなかった「生物(ナマモノ)」そしてやりたくてやりたくてできなかった「演劇」そういったものを今やるぞ!今食べるぞ!という気持ちで付けています。
「お寿司」には、「寿ぐ=言祝ぐ(言葉で祝う)」というおめでたい字が入っているんですが、「物事の意味を無くしても吉祥は残る」と言う大学時代の教授の言葉を受けて、じゃあこのおめでたい「寿」の入った「お寿司」という名前にしようと。
リョウゴ ありがとうございます。前回(ストレンジシード静岡2023『怪獣回しし』)もすごい面白かったです。
南野 ありがとうございます。
逃げだす。という選択
リョウゴ 今回は「にぎにぎしく…」これは、なんて読むんですか?
南野 「にげにげ」です。
リョウゴ 『にぎにぎしく逃逃』。「逃げる」んですね。
南野 はい、「逃げ出す」をテーマに創作しています。
リョウゴ 逃げ出す…それは、なんで逃げ出すんですか?
南野 私自身が、こうあってほしいとか…叫びじゃないんですけど、自分の中で渦巻いている、ある感情を昇華させるために作品を創っていて。私自身にも逃げ出したい、ここから逃げ出したい、っていう思いが募ることがたくさんありまして。
その逃げ出すっていうのは、一体何を意味するか。
例えば、私にとって逃げ出すというのは、こういった創作や演劇、作品を見たりすることで、一時的に頭を開放させて、リラックスしたり、新たな考え方とか価値観とかを得たり。そういった自分の活動の中に逃げて、また現実に戻ってきて生き直す、っていう体験をよくしているんです。けれども、逃げたいのに逃げられない人はいっぱい居て、作品中に出てくる「僕」も、たくさんのことに追われているんですね。
リョウゴ はい。
南野 たくさんのことに追われていて、たくさんの責務がかかっていて。世界は広いのに、この家からなかなか出られないとか、この敷地内から出ることができないとか、そういったすべての逃げ出したいものが、なんとか逃げ出せるようになるにはどうしたらいいだろうか?そういったところが作品の出発点になっています。
リョウゴ 逃げ出したい。うーん。僕は割とこう、逃げてきた人生だったんですよ。逃げ出したければもうその場からいなくなる!っていう手法しか取ってこなかったんですけど、今回の「逃げ出す」っていうのは、その場からいろんな逃げ出す方法があるよ、というよりは、そういったものを訴えかけるみたいなことですか?
南野 劇中でお客様に対して「一緒に逃げませんか?」っていう問いかけのシーンがあって。劇の中、作り物の中で、自分がこの場所を動くことを選んだ、この自分のからだが一歩、歩いた、このからだ自身が自分の立っていた今のエリアを超えて歩いていって、歩いていって、もう一度戻ってきたんだけれども、このからだは確かに動いたんだ!この時自分は動くことを選べたんだ!っていう、そういったことを心に持っていただけたら、その先何かの局面の時に、あ、選べるわ、動けるわ、逃げれるわ、今は一旦ドロンだ!とかそういった(選択をする)ことにつながるんではないかと。物理的に、逃げます。
リョウゴ 『にぎにぎしく逃逃』には物理的な「逃げる」だけじゃなくて、精神的な「逃げる」という意味も入っていて、逃げることが未来につながる、ということですね。
南野 そうですね。自分で選んだ、自分で選択をつかみ取った、っていう部分が身体の中に残ればいいな。と思っています。
リョウゴ おー。面白いですね。
南野 でもどうなるかわからない(笑)
線を越えて、何かが始まる
リョウゴ 今回は「お寿司」さんだけじゃなくて、お友達や他の方々と一緒にコラボレーションしてやっていくじゃないですか。
南野 はい。
リョウゴ それが前回とまた違う局面で、即興性というよりも、きっちり決められて(パフォーマンスを)やられるってことですか?それとも、もうちょっと幅を広げて、即興性でもやっていくような感じですか?
南野 一応物語の枠組みはあるんです。でも今回は見どころの一つに、ストレンジシード静岡2023でお友達になったクラウンのゆみたさん(※PRわたげ隊にも所属)が出たり、私の10歳の娘が出演するんです。
リョウゴ そうなんですね!
南野 で、お母さんの私も出演するし、ベテランパフォーマーも出演する、ごった煮のメンバーが繰り広げる!というのが見どころの一つです。ゆみたさんには、ゆみたさんの役割があるんだけど、そこで起こるお客様とのやり取りだったりとか、役割の他にもたくさん自由があっていいと思っていて。他のパフォーマーの方にも、一応役割や物語として言ってほしいセリフや段取りもあるんですけど、その他にアイデアがあったらどんどん挟んでいって欲しいし、お客様に「一緒に逃げませんか?」と言った後は正にもう、何が起こるかわからない。
そこで起こる「何か」。お客様が見えない線を飛び越えて、観る人から演る人になった時に始まる「何か」っていうのは、すごく未知と言いますか、何が起こるんだろう、何が生まれるんだろうという期待も込めて、そこでの化学反応を楽しみにしています。
でも、あまり内容に関わることを言っちゃったらネタバレになってしまう…。
リョウゴ ああ。そうですね。
南野 でも、答えるとしたら、こういう気持ちや、こういう仕掛けでもって、今回は挑もうと思っています。
リョウゴ そうなんですね。なんか思った以上に、難しいような難しくないような、アハハ。なんかこう、いろいろ考えちゃいますね。
南野 そうですね。でもビジュアルはわかりやすく楽しめるものにしたいと思っています。なんか見ちゃう。なんか見ちゃってるうちに、最後何か残ったらいいな、みたいな。例えば、子どもさんたちが怪獣くん(『怪獣回しし』に登場したキャラクター)を見て、なんとなく笑ったり応援したり。でも、その裏にあるメッセージに、大人の方がヒヤリとしたり。多方向からいろんな層に届くといいなって。
南野 子どもさんが、ビジュアル以外のメッセージも受け取ってくれたら嬉しいし、大人の方もビジュアルを楽しんでくれたら嬉しいし、どこを切り取っていただいても全然嬉しいですし、いろんな方向から楽しめるものであったらいいなと。で、今回は『にぎにぎしく逃逃』もあるんですけど、『寿トレンジさんぽ』も開催されるんですよ。
リョウゴ すとれんじさんぽ?
南野 はい。『寿トレンジさんぽ』は、去年の『怪獣さんぽ』の進化バージョンで、今回はお客様も一緒に集合して、パレード…って言って良いのかな?いろんなコスチュームを身につけて、「お寿司」メンバーと一緒に廻遊をします!
リョウゴ 衣装はどうするんですか?
南野 衣装は何着か持って行って、お寿司から着たいものがあったら着ていただいてもいいし。今日このためにこれを着て来ました!みたいな一張羅で来て下さって、、あ!じゃそれでいきましょう!みたいなこともあってもいいです。
リョウゴ それって、サイズはあるんですか?
南野 サイズは、フリーサイズ。
リョウゴ それじゃ、僕は着れないやつですね、多分(笑)
南野 でも、頭飾りも作っていくんです。だから、衣装が着れないやってなったり、ちょっと恥ずかしくて着れないですってなったら、帽子だったり、ヘアクリップだったり、そういったものもあります。
リョウゴ そうなんですね!いろんな方が楽しめる形になっているということですね。このお散歩はいつやるんですか?
南野 ルートは当日お知らせする形になるかな。
集合場所は告知があるので、参加したい方は皆さん来ていただいて、当日一緒に歩きましょう!
リョウゴ ほー。
南野 こちらも、演る人と観る人が、ごっちゃになればいいなと思っていて。ストレンジシード静岡の性質って、劇場じゃなくて、野原でやることになるので、一歩踏み出すにもってこいだなと私は思っています。
リョウゴ 境目がないってことですよね。舞台との区切りがない。
南野 ヒョイとその身をこっちに預けたら出演者になれちゃう、またとない機会だなと感じています。私自身が(舞台を)やりたいけど悶々として出来なかった、みたいな期間もあったんですよ。
リョウゴ そうなんですね。そういう風に思ったのはいつ頃だったんですか?
南野 20代の頃ですね。何かを始める事に対してちょっと敷居が高いと感じていた時期で。みんな仲間内でやってたり、チームの一員にならなきゃいけなかったり、ずっと関係性を形成し続けなきゃいけないんじゃないかとかを考えると動き出せなくて。
もし当時の私に機会があったら、一歩この線を越えればあっち側に行けちゃうんだっていうのは救いになっただろうなと思います。今、私と同じように心がうずうずしてる人に向けて、希望の意味合いも込めて、一つの突破口みたいなものになったら嬉しいなと思って。
リョウゴ それは年を重ねたことで、抜け出したんですか?
南野 多分いろんな経験もあるんですけど。作・演出・衣装、「お寿司」を立ち上げて、ちょっとずつできることが増えていったり。
舞台というものに対しての、自分の中で考えていた偏見のような。私は出るに満たないんじゃない?選ばれし人しか舞台に立っちゃダメだよ、みたいな。言われたわけでは無いけど、そういった壁を、様々な場所で感じていて。
他のカンパニーで衣装の仕事をしていた時も、この人は選ばれたけど、この人は選ばれないんだな。お手伝いまではできるけど、作品の中までは入れないんだなとか、はたから見ていて感じたジャッジに違和感があったんです。
南野 舞台に出れる人数や、予算もあるから限られてしまうのはわかるけど。もっと、誰もが出れるようになるにはどうしたらいいんだろうか?と考えるようになりました。
それで、舞台を必要としている人と作品を作りたいな。と言う考えに至ったんですね。作・演出・衣装っていう、自分の本当にやりたいことを経験して。やりたい人とやろう、やりたいと思ってる気持ちの人と、本当にやりたいことを実現しよう。という望みの様な、指針の様なものが出来ました。
本当に舞台を必要としてる人と作っていけるっていうのは、やっぱり幸せというか、面白いなと思います。
自分もストレンジシード静岡2023で『怪獣回しし』のお兄さん(というキャラクター)で出たんですけど、あ、私、今できてる!私ができたら誰にでもできるやん!みたいな。
リョウゴ できた!みたいな。できてましたって僕が言うのもなんなんですが、のびのびと、面白そうにやってたな、と思います。
南野 ありがとうございます。そう言っていただくの、私にとって大切です。嬉しいです。それでいいんだ!みたいなところがあったんですよ。私は、舞台の教育を受けてきたわけじゃないし、場数を踏んできたわけではないけど、おっしゃる通り、のびのび楽しくやってたら見てくださるっていうことは、すごい大切で、それを許容できるんですよね。ストレンジシード静岡の空気。
リョウゴ ああ、器がデカいというか!
南野 そうなんです。一旦動いてしまった身体っていうのは、伸びゆくというか、結構素直にいろんなことに挑戦できるなって。一旦殻を破ってしまえば歩き出せる。そんな最初の、啐啄同時(そったくどうじ)と言いますか、雛が卵の殻を突付くのと同時に、卵が割れるみたいな、新しい世界が開かれるきっかけになりうるフェス、きっかけがゴロゴロ落ちてるフェスだと思っています。
リョウゴ 自分が立ち上げてみて、いろんなものをやってみると、意外とこれやれるじゃん、おもしろいじゃん、って言うのが発見出来たっていうことですね?
南野 発見しました。発見したし、獲得したし、痛い目にもあったし、でも本当に始めてよかったなって、きっとリョウゴさんもそうだと思うんですけど、踏み出すとか、選ぶとか、この世界を見つけてよかったって思ってるので、いろんな人にその選択があったらいいなって。
リョウゴ そうですね。僕もすごい思いますね、それは。今が一番幸せなんで。
南野 あー!素晴らしい!
久々のおやこ共演
リョウゴ 今回、お寿司さんは2回目のストレンジシード静岡ですが、やってみたいことや挑戦してみたいことってありますか。
南野 そうですね。なんか全部言っちゃったみたいなところがあるんですけど。たくさんの人と共演するぞ!と思いますね。ストレンジシード静岡ってお祭り自体が、みんなスタンバイ状態だと思っていて。観る人も、演る人も。気が向いたら「共演」ができる状況だと思っています。観る方と演る方がわかんなくなっていくので、なるだけたくさん混ざってやろう!みたいな気持ちはありますね。
リョウゴ 当日はお子さんといらっしゃると思うんですが、何か、一緒にやりたいことなどはありますか?
南野 (お子さんを呼び寄せて)あ、これが「すく」です。
リョウゴ すごく似てらっしゃいますね!
南野 ありがとうございます。そうですね、すくとも久しぶりに一緒に作品を作るので。
リョウゴ 以前にも一緒に作ったことがあるんですね。
南野 ちっちゃい時に。何歳やったかな?もうね、五年か六年ぶりぐらいなんです。
リョウゴ じゃあ、お子さんもだいぶ自我を持って。やるのもなかなか緊張はしますよね。
南野 でも、すごい楽しみにしてくれていて。前回は行けなかったので、パンフレットを見て、「行きたい!これは行きたい!」って言うので、「出てくれる?」って言ったら「出るよ」って言ってくれて。
リョウゴ 本当ですか!
南野 そうですね、すくとの共演も久々なので、すごい楽しみにしています。
リョウゴ ああ、そうなんですね。旦那様は出ないんですか?
南野 あ、はい、あの、この家にこもって…。
リョウゴ アハハ、そうなんですね。
今回、「なんだ?なんだ?なんだ?」っていうのがストレンジシード静岡のテーマになっていて、最近「なんだ?」って思うことってなんかありますかね?哲学的な話みたいな話になっちゃうんですけど。
南野 ちゃんと哲学的な話で返せるか分からないんですけど、ストレンジシード静岡の「なんだ?」は「なんだ?この胸の高鳴りは?」ですかね。
リョウゴ そうかそうか。
南野 あと「なんだ?やったらできるじゃん!」かもしれない。
リョウゴ おおー!
逃げ出せないから、逃げ出せる。
リョウゴ 「お寿司」さんの(「逃げる」がテーマの)今回の演目は、最初の印象ではマイナスなイメージがあったんですけど、そうじゃなくて前を向くっていう部分とか、みんなでやっていけるっていうプラスなイメージの方が強いんですかね。
南野 最終的にはプラスのイメージがきっと前に出てくると思うんですけど、そこには、逃げ出せない状況っていうのがついてくるというか。逃げ出せてよかったけど、逃げ出せない状況っていうのは、必ずどこかに、日常的にたくさんあるっていう、プラスとマイナスの両方ですかね。
リョウゴ だいたいそういうのって表裏一体というか、プラスがあってマイナスがあると思うので。僕もそういう狭間で常に生きてきたので。そういうことなんですね。
南野 なんかそういう表裏一体となったものが、表返ったり裏返ったりしながら、心の中で思い出してもらえたら。あの時逃げ出せたこと、だから今逃げ出せること、でも逃げ出せない状況にあったこと、逃げ出せない状況にある人がいることとか、そういうものがクルクルと。答えではなく、そういった思いがひっくり返りながら巡る、っていう時間を持って帰っていただけると、嬉しいなと思います。
リョウゴ ありがとうございます。
『寿トレンジさんぽ』特別情報
天野 ちなみになんですが、今回『寿トレンジさんぽ』で用意してくださる衣装って新作とかあるんですか?
南野 子どもさんの分は絶対新作になるんですけど、頭飾りも新作で…演目と違う衣装で、多分今言っても絶対わからない「ドロブツ姫」っていう新作を持っていきます。
でも、見たことあるやつもいるかもね。って言う感じで。
天野 おぉ!やった!ありがとうございます。
南野 そうですね。ただ3日間同じかどうかはちょっとわからないですね。当たり回とかあるかもしれない!
天野 当たり回、いいですね。グッズも!楽しみにしてます。
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