言葉の先にある、自分のアイデンティティ 安住の地 インタビュー
公園で出会う、色とりどりの影響
天野:まず、お二人の自己紹介をお願いいたします。
中村:「安住の地」の中村彩乃と申します。劇団の代表と俳優を主に務めております。今回の『異郷を羽織る』という作品は、再々々々演くらいにあたります。私の一人芝居と、森脇くん(森脇康貴さん)の二人芝居と色んなバージョンがあるんですけど、今回は森脇くんとの二人芝居において、”語り手”役として出演します。
森脇:「安住の地」の森脇と申します。主に、中村(中村彩乃さん)と同じく俳優をやっております。
天野:今回の作品はイギリスとドイツで演じられたという事で。ぜひ、その経緯をお聞きしたいと思います。まず、きっかけはどこだったのでしょうか?
中村:最初は2019年の5、6月です。“自力で作品をつくって、自力でやってみよう”という目的で、演劇が盛んなロンドンと、毛色の違う演劇が盛んなドイツへ自分達のお金で旅をしました。演劇が盛んなロンドンと、毛色の違う演劇が盛んなドイツ。まず、作・演出の岡本(岡本昌也さん)が現地で感じた事などを脚本にしました。その足で現地のいろんな所に「やらせてください」ってお願いしたら、ロンドンの小さな本屋さんで私の一人芝居をやらせてもらえる事になったんです。
中村:その後、ロンドンからドイツに移動したタイミングで森脇さんと合流し、二人芝居としてブラッシュアップしたものをドイツで発表しました。なので、ロンドンとドイツに行く理由があったというより、こちらで理由をつけて行ったという感じです。
ちょっと余談になるんですけど…。ロンドンでもドイツでも、お金がないのでずっと公園で稽古していたんです。そしたら、散歩中の犬に「ウワーー!!」って吠えられたり、小さい子がやってきて森脇さんに「わ〜〜!」っておんぶしに来たり。そしたらその子の先生が来て「知らない人に近寄っちゃいけません」って怒られてました。
森脇:ありましたね(笑)
天野:そういう余談を楽しみにしてました!
中村:ほんとですか!あとドイツの公園で二人で稽古していた時に、近所のおじさんがたまたま観てくれてて。終わった後に拍手をくれたんですよ。それがすごく嬉しかったんです。
この間は京都の公園で稽古してたんですけど、隣の方がコンパしてたり、小道具の大きな枝がを子供に取られかけたり、通りすがりのおばちゃんが「すごいねぇ」って褒めてくれたりしました(笑)
森脇:そうそう(笑)「えらいねぇ」みたいな事を言いながら通り過ぎて行きました。
中村:「若いわねぇ」みたいな(笑)そういう、外部の色んな影響を受けて育ってきた作品なので、今回、野外で上演できるのがある意味原点という感じですごく嬉しいです。
分からないから、伝わるものがある
中村:『異郷を羽織る』は「自分のアイデンティティってなんだろう?」というお話なんです。ロンドンの本屋さんで上演した時、「英語は話せるからイギリス人とも意思疎通は取れるけど、自分のルーツはアメリカにあるから何だかなぁ…」とモヤモヤしていたアメリカ出身の方が、観劇後に「自分のルーツや気持ちを考える事ができました」とポロポロ泣きながら話してくださったんです。その言葉に私たちの方が号泣してしまって。私はそれが、この作品の起点になりました。
森脇:ドイツで上演した時も現地で俳優をやっている方が「言葉は分からない。でも何だか分からないけど泣けた」という感想をくれました。それで「あ、言葉だけじゃないことを僕らはやっているんだな」と実感して嬉しかったですね。
天野:今回も野外で、そして不特定多数の方に観てもらうという環境って素敵ですね。
森脇:そうですね。ロンドンは本屋さん、ドイツでは飲み屋さんに併設するイベントスペースだったのでどちらも屋内だったんですけど。稽古していたのは野外だったという事もあって「これは野外に向いている作品なんだな」という気持ちを二人で実感しつつ稽古していますね。
中村:枝を取られかけながら…。
天野:5月の本番まで枝が無事であるように祈ってます。
中村:ほんとに取られないように、頑張って行きます!
時をかける羽織り
天野:この作品には中村さんの一人芝居バージョンと、森脇さんとの二人芝居バージョン。そして9人バージョンがあるんですね。
中村:そうですね。初演はロンドンとドイツ。その後、神奈川の「KAAT 神奈川芸術劇場」でやらせて頂いた時に、大枠は残したまま9人バージョンで上演をしました。なので1人、2人、9人というパターンがある感じですね。
天野:9名の方はどういった役割なのでしょうか?
森脇:国の境を築くという内容で、街と深く関係する芝居なので、その街に登場する、実際に住んでいるであろう人物だったり、人間だけじゃないモノが登場していたり。いろんな要素を9人で組み合わせてリメイクしていきました。
天野:面白いですね。あと、タイトルに「羽織る」という言葉が使われていたり、衣装もファッションデザイナーの方とコラボされていますね。それは何度も上演を重ねる中で出たアイデアなのでしょうか?
中村:作品の根本として、最初から「衣装」がありました。ロンドンにいるyusho kobayashiさんというファッションデザイナーに作っていただきました。岡本と仲良しだったという事もあり、ロンドンで再会し、「ここで作品をやりたいから、衣装を作ってくれないか」とお願いしました。もちろん岡本の中でお話のプロットはあったんですけど、yusho kobayashiさんの衣装で相互作用が起こって「羽織る」という言葉に繋がったんだと思います。
天野:その衣装は今も変わらず?
中村:変わらずです。最近、洗濯を慎重にしています!初演から大活躍なので、労わるように…。段々、膝が緑色になってきました。
天野:動画で作品を拝見した時は室内の様子だったので、野外で上演される時にあの衣装が太陽の光を浴びて、どう顔が変わるのかとても楽しみです。
森脇:そうですね、楽しんでもらえたら嬉しいです。
母国語って安心する
天野:日本と海外のお客さんの反応の違いはありましたか?
中村:この作品、本編のセリフはほとんど英語で、日本語は少しだけなんです。ロンドンとドイツでやった時「言葉が通じない人達に、どうやったら分かってもらえるだろうか」「身体を使って伝える事がどういうことなのか」を考える機会になりましたね。逆に、日本のお客さんには「何で英語で喋るの?」という質問をもらったりして、その意味を考えなきゃいけなくて。
天野:なるほど…?
中村:作品の途中で詩を読むシーンがあって、そこで初めて日本語を喋るんですが、日本人にとっての母国語が聞こえた時の「衝撃」を与えられたらな、と思います。国によってお客さんが、何にどれくらいの距離を取るのかなっていうのを考えてやりました。
森脇:ドイツも日本と同じで、英語は母国語ではないので、英語のセリフがお客さんにあまり伝わってなかったと思います。でもドイツのお客さんは、俳優の身体の動きで表現する「街の風景」に重きを置いて観てくれたような気がするし、日本では「言葉」に重きを置いて観てくれた人が多かったように思います。
天野:英語はお二人共、元々やってらっしゃったんですか?
中村:いえ!カタカナ英語なんですよ。なのである意味、日本人の方は聞き取りやすいと思います。「アイアム!」という感じです。
森脇:僕も英語は全然です。「アイアム」止まりですね(笑)
天野:私も英語は苦手なので心強いです!
中村:だから安心して観てください!英語でやる演目ですけど、あまり構えず観てもらえたら嬉しいです!
天野:ずっと英語で喋っていると、いざ日本語を喋る時に緊張してしまいそうですね。
中村:それが、すごく安心するんですよ!普通の演劇だと「噛むかも」って心配するんですけど…日本語の時、何故かすごく安心します!
森脇:そうなんだ…。
中村:緊張しない!?あ、あなたは日本語喋らないもんね。
天野:カーテンコールくらいですか?
森脇:それは緊張しますね!
中村:そこ噛んじゃだめだからね(笑)
森脇:噛むかもしれないですねぇ。
中村:噛まないでください。
天野:でも確かに日本語の安心感って、ずっと日本語を聞いていると分からない事ですもんね。
中村:ほんとに。そうだと思います。
イギリスからドイツ。そして静岡へ。
天野:イギリス、ドイツ、日本と上演されてきた作品を、今回は静岡で上演してくださるという事ですがいかがですか?
中村:会場になる駿府城公園の芝生って、個人でやるとなると許可を貰ったりとか、お客さんを呼ぶにしても難しいと思うんです。でも「ストレンジシード」っていう土壌がしっかりあるから上演させてもらえる事だと思うので。頑張って積み重ねてきた作品を、原点の「野外」で、お客さんが観に来てくださる場所で出来るっていうのはすごいありがたいです。
森脇:野外で「出来ること」も「不自由さ」もあるんですけど、それに対して向き合って発見していく楽しさがあって。そうやって新しくリメイクしたものを野外で上演出来るのは、すごく嬉しいです。「早く観てもらいたい!」って感じですね。
天野:ありがとうございます。実は私、本番当日は駿府城公園の「芝生」でスタッフをすることになっているので、とても楽しみです。
中村:そうなんですね。ほぼ同世代同士、よろしくお願いします!
天野:ぜひ、お待ちしております!
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