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歩くのもWalk。休むのもWalk。 大熊隆太郎『Team Walk』 インタビュー
ストレンジシード静岡のサポートスタッフ、その名も「わたげ隊」。ストレンジシードってどんなフェス? どんなアーティストが出るの? ということを伝えるべく、地元・静岡を中心に活動するわたげ隊が出演アーティストにインタビューする企画。第16回は壱劇屋の大熊隆太郎さんが登場です。
わたげ隊がゆく!
ストレンジシード静岡2022 アーティストインタビュー
ゲスト:大熊隆太郎(壱劇屋)
聞き手:わたげ隊(天野、リョウゴ)
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「歩く」ってどうやるの?
天野:『Team Walk』に出演する皆さんは、先日静岡にお越し頂いたという事ですが、その時はお稽古を?
大熊:そうですね。実は僕、ストレンジシード皆勤賞(※)でして。もう下見する事ないやろって思ってたんですけど、今年は初めて「駿府ホリノテラス」という場所を使うことになりました。「じゃあ、やっぱり現地に行って見ておかないと」と思って。今年も出演して頂くSPACの大内さん(大内智美さん)と、春日井さん(春日井一平さん)。あと壱劇屋のメンバー、サファリ・Pのメンバーと一緒に作品の大枠を決めていきました。
※ 大熊隆太郎さんは2016年から毎年ストレンジシード静岡にご出演いただいており、2022年で7年連続出演になります。
天野:今までは大階段という場所でパフォーマンスをされることが続いていましたが、今回 “移動型” にしようと思ったきっかけはなんですか?
大熊:過去2回上演した『Team Walk』では「テクテク、スタスタ」という擬音語に合わせて歩くパフォーマンスをしてきました。すると、お客さんの中で「私もやってみたい」っていう感想が結構ありまして。じゃあ、今年はお客さんと一緒に歩きながらやってみるのはどうかなと思い、事務局の方と相談して決まりました。
天野:出演者の大内智美さんと春日井一平さんは、静岡で演劇をしている私としては「SPACの俳優さん」というイメージがあります。共演される大熊さんから見て、お二人はどんな印象ですか?
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左:大内智美さん 右:春日井一平さん
大熊:僕は逆に、SPACさんの公演はストレンジシードに参加してから知りました。演劇祭(ふじのくに野外芸術フェスタ、ふじのくに⇄せかい演劇祭2022)でやっている公演っていつも規模がすごいですよね。SPACは「異国の人々」みたいな印象でしたが、実際の皆さんは静岡に根付いて、演劇を仕事として生活をしている。「同じ仲間だったんだなぁ」と思いました。最初はすごい緊張しましたけど、実際は物腰が柔らかくアイディアもたくさん出してくれる、とても優しい人達です!
天野:良かったです!前回、春日井さんが出演された時、パフォーマンスとして 腰が痛い動きをする、キャッチーで可愛らしいシーンがありましたね。
大熊:あれ実は、春日井さんリアルに腰が痛かったんです(笑)
天野:そうだったんですか!
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大熊:ただ、今回「歩く」というパフォーマンスなんですけど、”歩けない人” とか ”歩きたくない人” を無視した作品になってしまわないかな、と思ってたんですよ。そういう事を考えていた時に一平さんが腰を痛めてしまったので、その部分を担って頂きました。
天野:パフォーマンスとして取り入れたんですね。
大熊:歩く」って日常的なことですが実はすごいことで、二足で歩くことだけが大事なんじゃなくて。休みながら歩くっていう、対極の意味での「進む」という事も重要だなと。
天野:二足歩行で「歩く」時、何か特別な指導ってされたんでしょうか?
大熊:すでに力のあるメンバーだったので、何かを矯正するような事はありませんでしたが、研究はしていました。
天野:研究というと?
大熊:「どうやって歩いてるんだ?」という事ですね。歩く時って重心を右から左に乗せ替えてからじゃないと、片方の足を前に出すことが出来ないんです。
天野:確かに!
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大熊:研究をしていく中で「前に行く時は腰で後ろのバランスをとってるんだね」っていうのが分かったり。稽古の時、腰に紐を回して3〜4方向から引っ張り、前に進むにはどこが一番安定しているのか実験しました。そしたら、意外と後ろから引っ張る力が無いと進めなかったんですよ。片方の足が浮く瞬間、重心を後ろに残しながらじゃないと倒れてしまうんです。
天野:それを聞くと、普段歩いている時も意識してしまいますね。
広いジャンルで、みんな自由に
天野:パントマイムをやるには、筋力はやはり重要ですか?
大熊:筋力や体幹は必要ですね。筋力が無いとボディコントロールが出来ないので。例えば、僕はゆっくり動く時も身体を制御しながら動いています。止まってる時って筋力めっちゃ使ってるんです。「しんどくないように、しんどい事をしてる」ので。体幹と脚の筋力は必要だと思います。
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天野:これからパントマイムを初めてやりたい人がいたら、まずどこから取り掛かれば良いのでしょうか?
大熊:難しいですよね、狭き門だと思うので。ストリートダンスやバレエダンスは街中に教室があったり、検索したら出てくるような時代ですけど。パントマイムをやりたいってなったら、ほとんどの人が独学からスタートすることになると思います。
天野:独学の方が多いんですね。
大熊:僕が活動している関西だと、以前ストレンジシードにも出演されていた、いいむろなおきさんがシアターマイムを教えているクラスがありますね。でも僕は最初は独学でした。
天野:そもそも、パントマイムの定義って何ですか?
大熊:まず「マイム」っていう括りがあって、その中にダンスっぽい分野、パントマイムっていう大道芸っぽい分野、コーポリアルマイムという所作を突き詰めた分野やクラウンとか道化の分野があったりします。僕が「パントマイム」って言っているのは、一番ポピュラーで分かりやすいから名前を借りている感じなので、定義っていうのは案外曖昧だと思います。
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天野:(このインタビュー企画で)コンテンポラリーダンスをしている方に「コンテンポラリーダンスの定義って何ですか?」と質問すると『何なんでしょうね』という回答が多かったんです。
大熊:コンテンポラリーダンスって別に「コンテンポラリー」なんて付けなくていいですもんね!その言葉で通じるイメージもありますけど、実際は「ダンス」ですよね。
天野:広い括りの中で、それぞれ演じているという事ですね。
人間のフシギ。『Team Walk』の原点
リョウゴ:「歩く」っていうことをパフォーマンスにしようと思ったきっかけは何ですか?
大熊:普段から身体を使うことを研究してるんです。パントマイムをやっている時に右足と左足を乗せるとか、踵は踏ん張れてないとか、つま先だと地面を掴むような感じで踏ん張れるなぁとか。そういった事を考えている内に「立ってるのって難しいな」って。
リョウゴ:普通に立つだけって事ですよね。難しいですね。
大熊:二点で立っているのって、物理的におかしいなって。自分で研究していく中で二本足で立って歩くっていうことが、いかにすごいかっていう事を作品にしたい!って思ったんですよね。
リョウゴ:なるほど。
大熊:歩く時に重心をスムーズに移動させて、踵やつま先のバランスを取ったりするってすごいなぁと思いました。普段、当たり前にやっている事が“すごい”っていう部分に感動して作り始めました。
リョウゴ:そうなんですよね。僕は整体院をやってるんですが、身体の構造を勉強すると、いつも「人間ってすごいな」って思います。
大熊:整体をやってたら、より感じますよね。こんな所とこんな所が繋がってんの!?みたいな。
リョウゴ:神経も、ここがこうなってるんだって思いますね。面白いお話をありがとうございます!
これからのテクテク
天野:これからの『Team Walk』で取り入れていきたいものはありますか?
大熊:「歩く」事を突き詰めていると、音に合わせて歩くような「音で遊ぶ」ことへの興味が強まっているんです。(物体が動くということは)人間の “音感” が密接に繋がっていると思うので、今は「どうやったら楽しく歩けるか」を考えている気がしますね。
天野:参加人数が増えているのも、そういった部分が関係しているんでしょうか。
大熊:今回みたいに「移動する」っていう行為は、移動する先々で何が起こるかわからない不確定要素が多いので4人でやるのは相当大変だろうなと思います。なので、今回は7人にしてみました。
天野:7人でホリノテラスから練り歩きですね。
大熊:やっているパフォーマンスをただ見るというよりは、お客さんも一緒に歩いて、一緒にパフォーマンスをやってくれたらいいな、と思って作っています。
天野:子ども達も一緒になって歩いてくれそうですね。
大熊:そうなったら一番いいですよね!
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天野:皆勤賞の大熊さんから見て、ストレンジシードや静岡のおすすめポイントはありますか?
大熊:やっぱり「一泊はしてほしい」ですね!と言うのも、朝から晩まで多種多様なアーティストが街中でパフォーマンスをやっていて、夜はSPACの公演がある。静岡駅周辺には美味しいお店もいっぱいありますから、アートと静岡の街に触れる一日をガッツリ過ごせると思います。分からないものにこそ飛び込んで、観て行ってほしいですね。
天野:嬉しいお言葉をありがとうございます。わたげ隊のInstagramでもおすすめ静岡グルメを紹介していく予定なので、そちらの方もぜひチェックしつつ静岡を楽しんで頂ければ嬉しいです!
『Team Walk』に出演する大熊隆太郎さん(壱劇屋)、佐々木ヤス子さん(サファリ・P)、SPAC俳優・春日井一平さんがゲスト出演したSPAC公式YouTube番組 「石井萠水は主役になりたい!」
壱劇屋
2008年に高校演劇全国大会出場メンバーで結成。枚方の河川敷で稽古を重ねる日々より10年後には、記念公演として森ノ宮ピロティホールで公演するほどに成長した関西屈指のエンタメ劇団。複数の作家・演出家が在籍し、 様々なジャンルの作品を生み出している。2019年には東京支部も発足してますます勢力的に活動中。代表の大熊はパントマイムを使った作品を得意とする他、イマーシブシアターやオンライン演劇など観客と共に楽しむ作品も多く上演している。ストレンジシードには開催初年度から出演しており、静岡が大好き。2020年には静岡で単独公演も行い、早くコロナが収まってまた静岡公演をやりたいと思っている。
https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya
ストレンジシード静岡2022
『Team Walk』
壱劇屋 × サファリ・P × SPACストレンジチーム
テクテク歩くパフォーマンスです。一人でテクテク、チームでテクテク。ゆっくり歩いたり、四つ足で歩いたり、時には走ったり。テクテク、ノシノシ、いろんな擬音に合わせて歩きます。このパフォーマンスは2020年→2021年とストレンジシードで上演され、今2022年も更に進化させて上演します。今年はみんなで一緒にテクテクしましょう。
日程:2022年
5月3日(火・祝)12:40 / 17:30
5月4日(水・祝)11:50 / 14:00
5月5日(木・祝)13:40 / 17:30
会場:駿府城エリア[駿府ホリノテラス出発→お城→ガーデンへ練り歩き]
作・演出:大熊隆太郎
出演:大熊隆太郎(壱劇屋)/北脇勇人(壱劇屋)/谷美幸(壱劇屋)/佐々木ヤス子(サファリ・P)/達矢(サファリ・P)/大内智美(SPAC)/春日井一平(SPAC)
インタビュー・記録・テキスト:天野(わたげ隊)
編集:山口良太(ストレンジシード静岡 事務局)
編集協力:柴山紗智子