「伝統と革新のコラボ。ストリートに広がる人生の圧縮。」BONG n JOULEインタビュー
俳優だったからできる、新しいトレーニング
えり 最初に劇団(カンパニー)の紹介をしてもらってもいいですか?
アン・ジェヒョン BONG n JOULE(ボン エン ジュール)という名前についてご説明します。韓国語と英語が混ざった名前で「棒」と「綱(ワイヤー)」という意味です。チャイニーズポールのポールと、ワイヤーを使ったサーカスパフォーマンスをして、他のジャンルの芸術家の方とコラボをしながら作品を作っていく団体です。2016年に設立して、ジャンルとしては現代サーカスに入るんですが、BONG n JOULEならではの作品を作っていけるように頑張っています。
アン 簡単に特徴をいくつか言うと、トレーニングは毎日してます。作品の意味とかメッセージというものから始めるのではなくて、動きやイメージ、現象といったものから何かを創造するようにしています。その理由というのは、私はもともと演劇をやっていたんです。俳優というのはテーマがあって作っていくんですけど、演劇をやっていく中でそういうものにマンネリを感じたので、イメージとか現象から作ってみたいと思ってやり始めました。
えり 私も俳優として舞台に立った経験があるので、トレーニングというのはどういうものか興味があります。
アン 私はポールに登ったり綱を渡ったりするので、それが上手にできるようなトレーニングをします。具体的に言うと、登ったり下りたりするのが上手になるような呼吸法や、筋力トレーニング、綱を渡る時にうまくバランスが取れるような練習です。
えり 実際のポールの長さが7mだと聞いてとても高いなと思ったんですが、怖くないんですか?
アン 確かに怖いです。けど、その怖さを克服するためにトレーニングをしてるので。
えり サーカスのようなパフォーマンスを野外でやると聞きましたが、私の中ではサーカスはテントの中でやるイメージでした。どうしてサーカスのパフォーマンスを、野外でやるということを思いついたんですか?
アン 正直に言わないといけないんですよね?(笑)。色々な理由があるんですが、実は最初から野外でやろうと思っていたわけではないんです。なぜかと言うと、韓国では室内でできるような環境があまりないんです…。その代わり、韓国ではストリートシアターフェスなどの機会がたくさんあるので、それに合わせてやっていくうちに、野外でやるようになりました。
えり 他の国で野外のパフォーマンスをしたことはありますか?
アン 2019年に、ブラジルのサンパウロとハンガリーのブダペストでやりました。
えり 野外パフォーマンスをする上で、韓国と他の国とで違いはありますか?
アン このパフォーマンスは韓国の伝統音楽とコラボしているので、韓国の人たちにとってはなじみがあると思います。ですが、他の国の人にとっては「ちょっと変わったもの」と受け取られていると思います。細かいところで言うと、韓国の観客と違う部分は、ブラジルとかハンガリーの観客はとても極端でしたね。最後までスタンディングオベーションをしてくれる人もいれば、途中で帰ってしまうような人もいたり。日本の観客はどんな反応をしてくれるか楽しみです。
えり 日本に来たらどんなことを楽しみにしていますか?食べたいものとかありますか?
アン 日本には有名なウイスキーがあるって聞いたんですけど…
天野 「白州」とか「山崎」が、いま日本では有名だと思います。
アン ああ!確か山崎だったと思います。
天野 日本ではすごくポピュラーなので、ぜひ飲んでみてください!
チャイニーズポールと伝統
えり どうして自分のパフォーマンスと韓国の伝統的な音楽を結びつけようと思ったんですか?
アン 最初にチャイニーズポールを習ったのは、2016年のフランスでした。そこで他のチャイニーズポールの作品もたくさん見たんですけれど、ほとんどクラシック音楽のような西洋の音楽でパフォーマンスをしてたんです。なので、「じゃあ僕は韓国の伝統音楽と一緒にコラボしたらどうかな」と思ってやりました。いろんな楽器や音楽があるので、どれにしようか悩んでいたんですけれど、チャイニーズポールっていうのはパイプじゃないですか。つまり”菅”。なので管楽器はどうかなと思って探したところ、韓国の伝統楽器で「テグム」っていう管楽器がありまして、それとコラボすることになりました。
アン 同じく韓国の伝統の音楽で民謡があるんですけれど、それは伴奏なしで、声だけで歌うんですね。なので、一緒にコラボするのにちょうどいいんじゃないかなと思ってやりました。もう一つは太鼓ですね。それは、後輩が太鼓ができる人だったので、一緒にやることになりました。
えり 私は韓国の伝統音楽を聴いてみたいと思っていたのに聴く機会がなかったので、今回その夢が叶ってとても嬉しいです。
アン 伝統音楽の歌の中には、パンソリと民謡の二種類があるんです。今回は民謡の方になります。
えり パンソリと民謡って何が違うんですか?
アン パンソリは女性がやって※民謡は男性がやります。公演の内容とか、日程によってはパンソリになることもあるし、民謡だったりすることもあります。
チョ・ヨンソン パンソリと民謡の違いを男性と女性の違いって説明したんですけれど、それは今回の『The Rode to Heaven』の場合のことです。パンソリと民謡の正確な違いを言うと、パンソリの方は物語に節をつけた感じで、民謡っていうのはもっとメロディーに重点が置かれた伝統音楽になります。
えり なるほど!
駿府城公園への道
えり ストレンジシード静岡では、多くの演劇団体やパフォーマンス団体が野外でパフォーマンスをするんですけど、路上でやるときに重要だと思っていることはなんですか?
アン 街自体が会場になると思うので、道を舞台にすることが大事だと思います。そこにある街灯や木などを活用したパフォーマンスにしたいです。人為的に何かをするのではなく、そこにあるものを活用して舞台にすることが大切ですね。なので今回も、自分がパフォーマンスするところにある道の様子を(ストレンジシード静岡の事務局の方に)あらかじめビデオに撮ってもらって、どこに何があるかを把握して、そこで何をしてどこを登ればいいか、ということを考えながらやろうと思っています。
えり じゃあ、韓国で見るものとはまた違う雰囲気のものが観れるということですね。
アン そうですね。駿府城公園に合った『The Road to Heaven』になるはずです。
えり 駿府城公園は、私が高校の時に毎日通学路で通っていた道なので、その道がステージになるのがとても楽しみです。
アン 今おっしゃったことが、まさにストリートシアターの魅力の一つだと思います。いつも通っているところやいつもの木などが、また新しいものに見えてくるというのがストリートシアターの魅力です。なので、決まった場所で公演をやるのではなく、道などを移動しながら舞台を作っていくのが好きです。
えり ストリートシアターの魅力は、私もそこにあると思います。毎年5月、ストレンジシード静岡でいつもとは全く違う雰囲気になるこの時期が私は好きです。
なんで僕は・・・
えり 今まで大きなハプニングとかありますか?
アン 一番大きなハプニングは事故ですね。これは、サーカスをやる人だったら避けられないことです。わたしはこのパフォーマンスを8年間やってきたんですが、二度怪我をしました。怪我っていうのはサーカスをやる上で一番のリスクであり一番の危険性なんですけど、でもそれこそが、サーカスをやる一番の原動力になります。その怪我したというトラウマを克服するために練習を重ねて、実力であったりとか、精神的なものが成長していくと思ってます。
えり なるほど。
アン 一番大きなハプニングは、ちょうど一年前に起きた怪我ですね。その怪我をどのように克服したかを、今回のストレンジシード静岡でお見せできるんじゃないかなと思います。一年前、ちょうど『The Road to Heaven』を準備している時に怪我をしてしまったので。
えり 楽しみにしているので、どうかご安全にパフォーマンスしていただけたらなと思います…。
アン はーい!
えり 今年のストレンジシーシード静岡のコンセプトが「なんだ?なんだ?なんだ?」というものなんですけど、最近「なんだ?」と思ったことはありますか?
アン うーん……なんで僕はポールに登ってんのかな?
えり あはは!
アン なんで僕は落ちるのに、また登るのかな?ってところですかね(笑)。
えり 確かに「なんで?」かもしれないです…。では最後に、お客さんへのメッセージや作品のアピールポイントがあったら教えてください。
アン 私は、この作品は人生を圧縮したものだと思っています。
パフォーマンスの最初は、洋服も着ず、靴も履かずに道や街を歩くところから始まります。白いシャツを着て最終地点にたどりつくと、ポールに登り、落ち、また登りを繰り返し、最後に横になる頃にはシャツは破れてボロボロで、靴もすり減っている。そういうところが人生を表しているのではないかなと思います。そんな短い瞬間の連続を通して、観客の皆さんが自分の人生や生活などを振り返ってくれたらなと思います。
えり ありがとうございます。静岡でお待ちしています!
アン ありがとうございました。
天野 まだまだ静岡だとこういったパフォーマンスは珍しいと思うので、私も楽しみにしています!
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