ダンスに思いを仕込む振付作家 田村興一郎 インタビュー
ダンスで芸術作品を作る“振付作家”
リョウゴ:まずは自己紹介と、普段どんな活動をされているのか、教えてください。
田村興一郎:僕はダンスアーティストと振付作家として活動しています。
ダンスアーティストとしては、小学校でダンスを教えたり、福祉施設でワークショップを開いたり…「ダンスを通じてコミュニティを広げる」「ダンスを使って社会と繋がる」ということをメインに活動しています。
振付作家としては、ダンスアーティストという地域にコミットする仕事とは違い、“アートを作る”ことを軸に活動しています。
田村:今回のストレンジシード静岡にも、そういうアート作品みたいなものを作りたいなと思って応募しました。僕の作品を初めて見る人は「何だろう?」って思うかもしれないのですが、美術作品を見る感覚に近いのかなと思っています。単純に格好良く踊るだけじゃなく「ダンスで芸術作品を作りたい」という気持ちがすごく強いんです。そういうわけで“振付作家”という肩書きで活動しています。
シビウでの感動をもう一度
リョウゴ:今回、ストレンジシード静岡の公募枠「OPEN SEED」にご応募頂いたきっかけは何ですか?
田村興一郎:去年の夏頃に、ルーマニアのシビウという街に舞台作品を上演しに行きました。シビウ国際演劇祭という、ヨーロッパの中でも“三大演劇祭”と言われるくらい、規模の大きいフェスティバルです。シビウ国際演劇祭では、野外上演・劇場上演が、街のあちこちで開催されていました。僕はお客さんとしても歩き回ってすごく楽しかったんですよね。ダンス・演劇・パフォーマンス・サーカス……色々なパフォーマンスで街全体がすごく盛り上がっていて。
リョウゴ:お祭りなんですね。
田村興一郎:そうです!それと同じような規模のパフォーミングアーツフェスティバルみたいなものがないかなと探したときに、ちょうどストレンジシード静岡の出演者公募を見つけました。いろいろな所でいろいろなアーティストがパフォーマンスを上演して、サポートしてくださるスタッフもたくさんいらっしゃって、それがシビウと似ているんじゃないかと思ったんです。静岡の街と、日本ならではの独自のフェスが観られるのかなと思って、観客としても参加したいなと思いながら応募しました。
リョウゴ:ご自身でパフォーマンスをされるのも楽しみだけど、一観客としてもいろいろ観てみたいんですね?
田村興一郎:そうです。時間があったら。
リョウゴ:観客として観たいパフォーマンスって、もうチェックされましたか?
田村興一郎:contact Gonzoさんにすごく影響を受けているので、時間が空いたらパフォーマンスに参加したいですね。渡邉尚さんも、今回はパフォーマンスではなくワークショップとのことで、そちらにも行きたいです。あとはモモンガ・コンプレックスさんとか……コンテンポラリーダンスの第一線で活躍されている方々が参加されているので、そこは押さえておきたいです。それから、野外でやっているお芝居をあまり観たことがなくて、それは非常に楽しみだなと思って……どれも観たいですね。
踊り続ける原動力
リョウゴ:田村さんがダンスを始めたきっかけは何だったんですか?
田村興一郎:一番最初は単純に「格好良いな」という憧れです。高校生の時、勉強もスポーツも、何も得意なことがなくて。それで「何を始めよう?」って考えた時に、新入生歓迎会のステージでダンス部が踊っていたのがすごく格好良くて。それがきっかけでダンス部に入部して、ダンスを始めました。
リョウゴ:先ほど、スポーツも出来なかったとおっしゃっていましたが、上手く踊れたんですか?
田村興一郎:全く。最初はめちゃめちゃ下手で顧問の先生をイラつかせるくらいに全然踊れなかったですね。ダンス部でやっていたジャンルが、モダンダンスというか……バレエに近いような綺麗で柔らかい動きをベースとした創作ダンスだったんですよね。自分は部活だけだとついていけないかなと思って、早弁して、昼休みにストリートダンスを独学で学んでいました。
リョウゴ:独学というのは、自分で考えて、っていうことですか?それとも誰かに教えてもらって?
田村興一郎:先輩から直々に教えてもらっていました。ストリートダンスと言っても、本当に簡単な基礎レベルですけど。当時は今みたいに簡単に見られる動画もなかったので、ダンスのDVDを友達から借りて、それを真似したりして、一人でコツコツやっていました。
リョウゴ:ちょっとモノになってきたというか、自分の中で腑に落ちたのっていつ頃ですか?
田村興一郎:今でも腑に落ちていないかもしれないです(笑)。
リョウゴ:それは、自分の表現に納得がいっていない、っていう感じですか?それとも、自分が思っている以上のものを出したいがために、腑に落ちていないのか……
田村興一郎:どっちも…なのかもしれないです。だからこそ続けていく原動力になっているのかなという気がします。…これだとすごくストイックに聞こえるんですけど、実際、そうでもなくて。大学3年生の時は「自分より動ける奴いねぇだろ」ぐらいにつけあがってはいたんですけど(笑)。
大学の時はすごく尖っていましたけど、卒業してプロでやっていきたいと思ったときに、思った以上に出来なかったり、お金がないことに悩んだりして…ダンサーとしての立ち位置をうまく確立できないというか。「踊れる俺を見てくれ」っていう自信が欲しかったのかなと思いますね。
作品作りに対する自分の在り方
リョウゴ:ダンスに限らず、田村さんが今までやってきた中で、「これは1番ハマったな」というものはありますか?
田村興一郎:やっぱり、“作品を作ること”かな。自分の思いを、思い描いて作品を作る…いわゆる、アーティストとしてのやりがいみたいなものは10年ぐらい変わらずに続いているので。
リョウゴ:作品を生み出す時って、どういうふうに形になっていくんですか?
田村興一郎:思いをそのまま表現することは無いですね。あえて逆のことをしてみたり、抽象的にしたり、変換しています。分かりやすく言えば、“海”を表現したいとき、僕は海の音は使わないし、海の匂いも演出しない。砂の感じとか青色とか、海に直結する要素を全て、あえて使わない。むしろ、黒だったり、わけのわからないものが置いてあったりとか。全然違うものを選んで、「こいつ面白いな」と思われたいっていうのがあるんですけど。そういう違うものを選んで、自分の表現にしています。
リョウゴ:ストレートに言わないことでその意味合いを人に考えてもらったり、自身もそれに対して面白さを感じながら表現されているんですかね。
田村興一郎:そうですね。でも最初はもっとストレートだったんです。芸術大学に行って舞台芸術を学んで、その時の出会いや刺激に影響を受けました。大学の中が既に美術館だったんですよ。芸大らしい魅力に囲まれて生活をしていると、「アートってなんだろう?」ってすごくワクワクドキドキして。思えば自分は、勉強もスポーツもできなかったけど、美術の成績は良かったなぁと気づいたり。絵を描くのも好きで、今でもたまに描いてるんですけど。そういう芸術に囲まれた生活をしたことで、自分の作品も次第に芸術的なものになっていったんじゃないかなと。
リョウゴ:田村さんのウェブサイトに載っている絵も、ご自身で描かれたものですか?
田村興一郎:ピンク色のやつですよね。僕が写真を編集して作りました。
リョウゴ:めちゃくちゃセンス良いですね!
リョウゴ:踊っている時や作品を作っている時は、普段の自分とは違ったりしますか?
田村興一郎:ごく最近、ちょっと違う形になってきたかもしれないです。以前はオンとオフとか特になくて、ありのままの自分で、そのままのコンディションで稽古場に行って、作品を作ったり踊ったりしていたんですけど。今は、稽古場に行くときの“自分の正しい在り方”みたいなものが見つかって、若干厳しくなったりしています。
リョウゴ:正しい在り方?
田村興一郎:自分にとっての、自分が作る作品を良くするための、在り方です。普段の私はフワフワとした感じなんだけど、このままだと良くないなということに気づいて、やるときはギアを上げて厳しくするというか。
リョウゴ:やる気スイッチをもう一段階上に入れる感じですね?
田村興一郎:そうですね。本当に、タレントがカメラ向けられた瞬間に笑顔を作ってバキッとするのと全く同じような感じです。作品作りになったときは、声のトーンも、若干、下がったりハッキリ喋ったり…そういう自分のクリエーションをするための在り方っていうのを最近ようやく見つけて、大切にしています。
リョウゴ:今、ご自身がすごくいい感じなんですね。
田村興一郎:そうですね、いい感じですね!(笑)
直面している社会問題を作品に
岩井:今回の田村さん作品『メイケルムフォ』は、どういう作品なんですか?
田村興一郎:ストレンジシード事務局の方から、児童公園の遊具を使ってのパフォーマンスを提案されて、面白いなと思ったんですよ。まず、遊具を使う=ダンスではないので、そこを解体して、自分の表現にどうやって落とし込むか考えて……今はまだ模索中なんですけど。僕は今、学童で指導員の仕事をしていて、毎日自分も公園に行っているんです。その時に強く感じたことを、ダンスパフォーマンスにしようと思っています。
公園って、子どもたちがワイワイキャーキャー楽しく遊んでいるようなハッピーな印象ですが、結構リアルな社会問題があって。僕の身近な公園では今、高校生ぐらいの子たちが、素行の悪いことをしているんです。食べ散らかしたまま帰ったり、煙草を吸っていたり、爆音で音楽を流したり、バイクでベンチを占領していたり……公園にそういう人たちがいるとすごく目につくし、子ども達も「遊びにくい」と言っていて。子どもは遊んで成長するものなので、それを妨げられているように思えて、これって社会問題だなと。ちょうど自分が公園や遊具に対してそういう思いを持っていたので、遊具を使ってパフォーマンスをしませんかっていう提案をいただいたときに、これをメッセージとして中核に捉えた作品にしたいと思っています。
リョウゴ:ご自身がちょうどリアルタイムで思っていることをパフォーマンスできる、良い機会になるんですね。めっちゃ観たいです。
田村興一郎:頑張ります(笑)。
リョウゴ:お子さんたちを見るお仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?
田村興一郎:それもダンスです。京都に住んでいたとき、お笑いダンスユニットみたいなものを作りたいと思ったんです。福祉施設や保育所を訪問して、子どもたちと楽しめるダンスを。ずっと難しい作品ばかり作っていたから、切り替えて明るいダンスをやろうと思って。それで、そこでの活動が自分の中でヒットしたんですよね。「子どもたちと関わる仕事って良いな」っていうのが、徐々に芽生えてきて。それまでは居酒屋とかでバイトをしていたんですけど、本格的に手に職をつけるというか。ダンスしかしてこなかったっていうのもあって、何か軸となる仕事はしっかりと持っておきたいな、と。それで子どもと関わる仕事を探して、療育もしたり、いろいろやってきました。今は放課後児童支援員という資格を持っているんですけど、その仕事が天職だなと思っていて。今は子どもと関わる仕事にどっぷり漬かっていますね。
リョウゴ:ワークショップもその派生で始めたんですか?
田村興一郎:小学校にダンスを教えに行くワークショップは、そうですね。そこからの繋がりで。子どもにダンスを教えたり一緒に踊ったりするのが楽しくて。今でも子どもにダンスを教えるのは守りつつ、子どもたちと関わる仕事を続けていきたいなと思っています。
リョウゴ:田村さん、子どもたちの話をしたときに一気に顔が柔らかくなりますね。
田村興一郎:二面性があるのかなぁ(笑) 今回は社会的問題を扱う作家として参加させて頂くので、作品ではそういう一面も見せられたら良いなと思っています。
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