革命的パフォーマンス DANCE PJ REVOインタビュー
リョウゴ 田村さん、お久しぶりです。覚えていますでしょうか?
田村興一郎 ご無沙汰しております。もちろん、めちゃめちゃ覚えてますよ!
REVO:革命は自分の中に
リョウゴ まずは自己紹介をお願いします。
田村 僕は振付作家として横浜を拠点に創作活動をしていて昨年は田村興一郎の個人名義でストレンジシード静岡に参加させていただきました。今回は僕のセルフプロデュースカンパニーの『DANCE PJ REVO』として参加します。
リョウゴ カンパニーの名前の由来を教えてください。
田村 「REVO」という言葉を名前として使い始めたのは大学生の時です。京都造形芸術大学在外中ダンスサークル活動の一環で使うグループ名を考えていた時に、僕の中に浮かんだ言葉が「レボリューション(革命)」でした。
何も起こせない歯がゆさで藻掻いていた時期だったのでその状況をひっくり返すような力が欲しかったんです。だから大学名にレボリューションの「REVO」をつけて「京都造形芸術大学 REVO」という名前にしました。
大学卒業後は「DANCE PROJECT REVO」として京都を拠点に活動を始めて、3年前に拠点を横浜に移してからはPROJECTをPJと略して今の形に落ち着きました。
「REVO」という言葉を名前として使い始めてかれこれ12年経ちますね。
リョウゴ 12年の中で革命を起こせた感じはありましたか?
田村 ありますね。「革命」って世直し的な感じに聞こえるけど僕の中では「自分を変えていく」という意味が一番強いんです。抽象的ですけど凝り固まって深く沈殿した自分のアイデアや価値観が上にバサッと舞い戻るような、自分の中が一新するイメージ。そういう瞬間は色々な現場で味わいました。
12年前に自分がこの名前にしたからこそ、些細なことでも大きなことでも「革命できてるな」と感じられましたね。
リョウゴ 今回の作品にも革命的な要素はありますか?
田村 今回やるのは段ボール箱を100個使うパフォーマンスです。僕のカンパニーのコンセプトは〈物と身体の関係性〉。物から生まれる可能性やそれに応じて身体から生まれる可能性の追求なのですが「STUMP PUMP」はそのコンセプトを軸にした代表作です。
革命的なニュアンスは作品作りにおいていつも大事にしているので今回の「STUMP PUMP SHIZUOKA」にも価値観をひっくり返すような要素や見応えが大いに含まれています。
人を引きつける「キャプション」と「迫力」
リョウゴ 今回静岡で上演される「STUMP PUMP SHIZUOKA」は今までの「STUMP PUMP」と何か違うところはありますか?
田村 「STUMP PUMP」はこれまで劇場で二回と野外(嵐山)で一回上演しましたが本格的に野外でやるのは今回が初めてです。
初演と再演は劇場で作品の構成やドラマをしっかりとやり切りました。嵐山で上演したのはその抜粋のようなゲリラ的なパフォーマンスだったんです。観光客を驚かせるためのイベントのようなイメージですね。
今回は初めて野外で本格的な構成で上演します。やりたいことがうまくやれない可能性も想像できるからこそそういう不安を抱えながらもワクワクしています。
リョウゴ 唐突に何か他のことが起こるんじゃないかっていうドキドキですね?
田村 そうですね。段ボールが吹き飛ばされてしまうかもとかり下手したらお客さんに当たってしまうかもとかそういう危険性もあるので。そのあたりを考えるのが楽しそうですよね。
リョウゴ 田村さんの作品を拝見して観客の感じ方に委ねられている部分がかなり多いなと感じたのですが、作品を理解してもらうために意識しているポイントはありますか?
田村 僕の場合は二つあります。一つめはキャプションをしっかりと出すこと。美術館って作品自体についてよく解らなくても知的好奇心をくすぐられる面白さがあると思うんです。でも「ダンス」って言うとポピュラーな形のダンスをイメージされがちなんですよね。だから僕は一旦そのハードルを下げて……むしろ上げてるのかもしれないですけど入り口を大事にしています。
たとえば「STUMP PUMP」を京都の嵐山で上演した時には今まで舞台やダンスに触れたことがない人がパフォーマンスを目にした時に何を感じるか?そこを大切にしたいと思ったんです。それで僕は美術館に掲示してあるキャプションのように作品のテーマや意味合いを書いた紙を置いて読んでもらえるようにしました。
リョウゴ それは面白いですね。
田村 観光客がパフォーマンスを見て「なんだろう?」と立ち止まると足元には何か書いてある紙が置いてある。そうすると目の前で起きていることに理解が追いつかない状況が生まれるんですよね。理解は追いつかないけど、気になる。
そして僕が書いた文章を読んだ瞬間にその人の理解とイマジネーションがピシッとハマって「あ、面白い!なんだこれ!!」ってなる。それを狙っています。開かれた美術館のように普段あまり作品に触れていない人たちに対していかに丁寧に仕向けるか?それが鍵だと思っています。
リョウゴ なるほど。
田村 もう一つはシンプルに「解らないけどなんだか見応えがある!」ということ。よく分からなくても迫力があったら人って拍手出来ると思うんですよね。
単純に段ボールを11段くらい積み上げたものを持っていたら人は見るじゃないですか、「うおー!たけー!」って。僕の作品がどれだけコンセプチュアルでも人を引きつける力っていうのは作品自体に内包されているものなので、解らない人にも見応えを保証出来るように頑張っています。
削ぎ落として、際立たせる
リョウゴ 少し気になったんですが今回の作品で使う段ボールの規格って決まっているんですか?
田村 120サイズの普通の段ボールです。投げたりキャッチしたりするためには大きすぎると難しいし、けれど頭にかぶせたりもするから頭よりは大きくないといけないし。
リョウゴ そこに至るまでには色々なダンボールを試したんですか?
田村 そうですね。最初は稽古場近くの八百屋やドラッグストアに行って小さなやつから大きいやつまで試しました。
リョウゴ みかんの箱とかキャベツの箱とかカボチャの箱とか色々試したんですね?
田村 そうそう。たくさんお世話になりました(笑)。その中で大きさや色やデザインが一緒の方が、身体がちゃんと見えてくる……ということに気が付いたんですよね。
リョウゴ 邪魔なものを削ぎ落としていかないとパフォーマンス自体が引き立たないということですかね?
田村 仰る通りです。お客様に自由な角度から鑑賞してもらうならば段ボールが違っても面白いかもしれないけれど、同じ場所から見てもらうには段ボールの種類や数をきっちり決めないと「どこを見て良いか解らない」ということになりかねないので。
リョウゴ 余談なんですが、田村さんって今は髪が伸びてるけれど出演する時には坊主にするんですか?
田村 そうなんですよ。僕、キャストになると坊主みたいになるんです。
リョウゴ やっぱりそれも「省く」ってことですか?
ハボ ははは。
田村 これはあながち間違っていなくて、僕は良い意味でも悪い意味でも目立っちゃうんですよね。『DANCE PJ REVO』で作品に出ると主宰だし振付してるし身体も大きいから目立っちゃう。目立つからこそ見ていられる体というか何か特徴的なものが良いなと思って。それで四年前に坊主を試したらしっくりきて。
リョウゴ それまでは坊主じゃなかったんですね?
田村 それまではむしろちょっと長くて赤髪で斜に構えて調子に乗ってましたね。4年前に研修で3ヶ月間パリへ行くことになった時に「ちょっとヤバそうな日本人」で売り出そうと思ってバリカンを持って3ヶ月……シャンプーがとても楽でしたね。
リョウゴ 田村さんは坊主になると強いイメージがありますよね。
田村 結構怖いと思いますが、自分の踊り方に合ってるんですよね。僕はタイヤとかダンボールとかコンクリートブロックとか、そういう「物」を使ってパフォーマンスをするので、先ほどリョウゴさんが言った通りに情報を削ぎ落として「なんだろうこの人?」って思わせたいんですよ。
アーティスト性があるというか……まぁ、坊主の自分が好きだったんでしょうかね。この世で一番かっこいいヘアスタイルです、坊主。
リョウゴ ではまた今度も坊主にして挑まれると。
田村 いやー、どうだろう、ちょっと悩んでます。いや、いきたいかな……うん、いこう(笑)。
ハボ なんか無理矢理に約束させちゃいましたね。
田村 確約は出来ないですけど(笑)。
「物」と「身体」の可能性
ハボ ダンスパフォーマンスや振付のコンセプトはどういう風に思いつくんですか?
田村 最近はダンサーの身体を見て、そこからダンスを作る意識をしています。僕が与えたものをダンサーがどう咀嚼してどう吐き出してくれるかを見届けて、それを脚色する。
「最初に自分が何を与えるか」はもちろん大事ですけど、僕はダンスに物を使うので物自体のイメージが強ければ強いほど身体が薄くなっちゃう。そうならないようにまずは物の使用用途を外します。
例えばホウキだったら使う時には手に持って掃く動きしか出てこない。だから「床のゴミを掃く」という考え方を一回外して横向きに持ってみようとか頭に乗せてみようとかちょっと咥えてみようとか……そういうところを探っていくとホウキの意味がどんどん変わっていく。
身体の可能性は物の存在と意味を変えることが出来るんだなとていう気づきがある。僕はそういう〈物と身体の関係性〉にフォーカスを当てているので、ダンサーに物を持たせたら早いかなという感じです。
ハボ なるほど。
田村 ダンサーに物を持たせて用途を外して物と身体の関係性を見た時に「あ、君のその持ち方面白いね!」「君のこの動きが面白い。」という気付きがあったらそこからダンスを作ります。
作品を作る時にコンセプトやメッセージは後付けでも構わないと思っています。、作品コンセプトよりも自分のパフォーマンスコンセプトを先に作る。物から派生した動きやその人の生い立ちを聞いてそこに動きを足してみるとか。
ハボ 面白いですね!
田村 自分が一定のダンススキルや歴史を持ち合わせてなくてダンスカルチャーがゼロなので、だからこそ何か「物」や「言葉」を与えながら自分のやりたい方に持っていくというのが自分のパフォーマンスコンセプトなのではないかなと。
リョウゴ 今回のストレンジシード静岡は田村さんにとって2回目の出演になりますが、作品を作る中で前回と違う心構えはありますか?
田村 昨年の楽しさと充実感を味わっているからこそもっとクレイジーなことをしたいという欲望がふつふつと湧いていて、「STUMP PUMP」という作品がそれにふさわしいと思っています。
プログラムディレクターの若林さんから昨年と同じ遊具の場所(駿府城公園エリア/児童公園)を使うことを提案されたので、前回とは別の遊具でよりスペクタクルなものが出来るんじゃないかと。
一度現地に行っているからこそ絶対に面白くなるという確信があるので、そこに忠実に従ってクリエイションをしていきたいです。
リョウゴ ありがとうございました!