想像力の中に立ち上がる “演劇“。宮永琢生(ままごと)インタビュー
「物語」を身に纏う
「演劇を ままごとのようにより身近に。より豊かに。」
劇団のウェブサイトにそう掲げるのは、ストレンジシード静岡の常連アーティストである、「劇団ままごと」(以下、ままごと)。今回は、その結成メンバーであり制作を担当する宮永琢生さんにお話を伺いました。
ままごとは、2009年に劇作家・演出家の柴幸男さんを中心に旗揚げされた日本の劇団です。
当初は東京の小劇場を中心に演劇活動を行っていましたが、2013年の瀬戸内国際芸術祭での滞在制作(小豆島)をきっかけに、劇場公演に留まらず、様々な土地で滞在制作を行うようになりました。
今回、ストレンジシードで上演する作品『マイ・クローゼット・シアター』も、2度にわたる静岡でのリサーチを経て生まれた滞在制作作品と言えるでしょう。会場に用意されるたくさんの服を観客が自身で選び、服に記録された「物語」を身に纏う…
ストレンジシードのウェブサイトには、こう書かれています。
「ストレンジシードに出演させてもらった過去2回は、いわゆる《演劇》作品や《パフォーマンス》作品を上演させて頂きましたが、今回はコロナ禍での開催ということもあり、参加者が一人で体験する《演劇》作品の上演を模索してみたいと思いました。
本作の衣裳演出を担当する瀧澤日以(PHABLIC×KAZUI)さんは、服飾デザイナーを生業としています。わたしが彼に初めて出会った時、彼は服のデザインをする前に物語を創っていました。そして、その物語に登場する人物が着ている服をデザインする。その過程を経て生まれた服を見せてもらった時、それはもうただの服ではなく “演劇” 作品だったんですよね。」
服を使った展示作品という事もあり屋内の会場を想定していたそうですが、ストレンジシード事務局からの提案を受け、展示会場は駿府城公園の「東御門・巽櫓」に決定。
宮永さんいわく、「ストレンジシードは陽の光を浴びているイメージ」。静岡にやってくる服たちが、たくさんの観客と共に、太陽の下を歩く姿が目に浮かびます。
「新しい静岡」を発見する
2022年4月、宮永さんは創作のためのリサーチとして静岡にやってきました。リサーチには、地元の方との交流が欠かせません。自身も小豆島で「喫茶ままごと」兼「ままごとハウス」(現在休業中)のマスターを務める宮永さんに、地元の方と交流するコツを伺いました。
「なるべくいろんなお店に行って散財します(笑)。そんなことしてると、やっぱり “どっから来たの??” って話しかけたりしてくれるんですよね。いろんなお話をお伺いする流れで “この辺で昔の話が訊けるとこないですかねー?” って訊いたり。」
おかげでレコード屋の店主とお話が弾み、美味しいクリームあんみつの純喫茶に辿りついたそうです。そのほか、静岡にある劇場や、静岡おでん、カレー屋、カトリック教会など、静岡に住む人間にもあまり知られていないような場所やお店のお話を聞くことができたとのこと。
「お客さんがストレンジシードをきっかけに、観光ではなかなか行かない場所や、日常に溶け込んで見過ごしてしまうような街の風景や時間を再発見してくれたら嬉しいですね。」
静岡で暮らしているとなかなか見えてこない「新しい静岡」に気づかせてくれる。静岡在住の私たちにとって、ストレンジシードはそんなフェスティバルなのだと改めて感じました。
お客さんの想像力の中に立ち上がるものが “演劇“。
わたげ隊・八木「以前、ままごとは豊橋で手紙を使った作品(※)を創られていましたよね。そして、今回のストレンジシードでは衣裳の展示です。このようなアプローチから、ままごとはいつも “演劇” の枠を拡げている印象があります。ままごとにとって “演劇” って何なんでしょうか?」
※穂の国とよはし芸術劇場PLAT「LANDMARK/ランドマーク」プロジェクト『タイムカプセル封印式』
「いい質問ですね……難しいな、どうしよう(笑)。」と宮永さんは言葉を探します。そこで話は、ままごとの『戯曲公開プロジェクト』に。現在、戯曲を公開するという試みは様々な団体が取り組んでいますが、ままごとは2014年から劇作家・柴幸男さんの戯曲を無料公開し、今ではプロの劇団から高校の演劇部まで、年間100件近くもの戯曲使用の問い合わせがあるそうです。
「自分たちの作品が多くの人を通じて広まってくれる。そこでお客さんの想像力の中に立ち上がったものが《ままごと》の “演劇” になっていたら嬉しいな、と思います。だから私たちにとって “演劇” は、人の想像力を生み出す装置なのかな。上演方法や上演形態は関係ないかもしれないですね。」
『その時、その場所で、その人たちとしかできない演劇』
静岡の人にこそ感じて欲しい演劇を、ままごとは届けてくれそうです。