「街角で紡ぐ主人公たち。耳と目にのこる後味」第二次谷杉 ≒ ミミトメ インタビュー
これから生まれるたくさんの主人公
ゆか まずお二人の自己紹介をお願いいたします。
第二次谷杉 第二次谷杉名義で作品をつくっています。演劇を始めたのは遅くて、五十歳頃からなんです。今回は全体の構成と脚本をやっています。
ゆか ありがとうございます。ではソンブレロさんお願いします。
ソンブレロ はい、ソンブレロです。よろしくお願いします。谷杉さんの友人ということで、今回もお声がけいただいたので楽しくやらさせてもらおうと思っています。1995年あたりから脚本を書き始めて今に至っています。今回の作品も任せていただきます。あまり書きすぎないように気をつけようかなと。
谷杉 ソンブレロさんと私は2006年くらいに知り合ってるんですよ。ソンブレロさん、真面目な顔して結構ウソを言うので気をつけてください(笑)。
ゆか わかりました(笑)。今回の『すべての主人公はこの通りで』はどういった作品なんですか?主人公を公募されている(3月24日現在)とのことですが。
谷杉 そうですね。出演者全員、タイトル通り主人公なんです。だから出演者は全員「主人公さん」という役名です。構造から説明すると、青葉シンボルロード全体を使って、主人公さんがウロウロしてます。QRコードがついていて、観客の方はそれを読み込んで、登場人物の思いとかセリフとか、あるいはナレーションのようなものを聞く作品です。ちなみに観客は「観客さん」という役になって欲しいと考えてます。その辺にいる、自分と関わりのない人もみんな物語を持っていて、その人はその物語の中では主人公、という作品です。
ゆか 脚本はどうなるんでしょうか?作品紹介文には「主人公さんにひとつだけ質問できる」って書いてあったんですけど。
谷杉 基本的に、一人の役者さんに30秒から3分くらいの音声をつけるんです。主人公さんはは10人から20人くらいを想定してるんですけど、30本くらい役を作っておいて、その中から役を選んでいただく。「私こんな役はやだな」って思うようにならないようにしようと思ってます。あるいは、そういう嫌な役がやりたいっていう人も時たまいるんで、そういう人にはもっと嫌な役にしてあげようかなって。それと当初はひとつだけ質問と考えていましたが、主人公さんが話しかけたり、観客さんにこう言ってください、というパターンもつくりました。
ゆか じゃあ出演者さんが決まるまで、どんなお話が生まれるかは全然わからない。
谷杉 そうですね。いろんな小さなベクトルであちこちにブレるのを良しとしています。
ペンとパン。破天荒な出会いと共通の価値観。
ゆか 演劇を始めるのが遅かったっておっしゃってましたけど、始めようと思ったきっかけはなんですか?
谷杉 私はもともと、お芝居を観るのが大好きで。最初はダンスや舞踏をみていたんですが、突然演劇を集中的に見るようになりました。そのうちに、「もしかしたら自分でもこういうものって書けたりするのかな?」って思って書き始めました。甘い考えだったとすぐ気がつきましたけど。
ソンブレロ 僕も実は演劇とは全く縁がなく、ふと物語っていうのを作ってみたいなって思って始めました。そういうところが、ちょっと共通している感じがあるんです。
谷杉 ソンブレロさん、役者やってた時期もあるよね?
ゆか えっ?そうなんですか?
ソンブレロ あれはまあ…。でもお芝居を見て「自分もやってみたい」っていう始め方じゃなくて、物語を作りたいなって思いついてから、協力者として劇団に入りまして。役者も制作も協力という形で携わった結果、「いずれは本を書きたいな」っていうところにまた戻ったっていう感じですね。谷杉さんとちょっと似てるのは、嫌いなものがすごく似てて。そこが価値観で共通するところかなって感じてます。
ゆか お二人が知り合われたきっかけは何だったんですか?
ソンブレロ 「戯曲を書く会」という場所で書き手が集まって、一方的に講義を受けるだけじゃなくて、作品を持ち寄って評価し合うっていう会があったんです。そこで谷杉さんと初めて会いました。谷杉さん、当時非常に天狗な人でね(笑)。最初から書く台本が、いろんなコンクールで評価を得て、かなり天狗になっていてですね。これはちょっとね…「この人にとってもまずいんじゃないかな」と。谷杉さんの鼻をへし折らなくちゃいけないなっていう。
ゆか なるほど(笑)。
ソンブレロ そういう義務感というか。だから谷杉さん、僕に対しての印象は当初悪かったと思います。
谷杉 そうですね(笑)。
ソンブレロ 谷杉さんのためにも、演劇のためにも、早いうちに鼻をへし折って、ギャフンと言わせないといけないなっていう感じで知り合いました。
谷杉 ソンブレロさんいつもウソを言いますけど、今のは大体あってるよね。
ソンブレロ そうですねー。
ゆか ソンブレロさんと第二次谷杉さんの、名前の由来をお聞きしたいです。
谷杉 じゃあ私から。戯曲賞に応募する時、今までの自分とはちょっと違う自分を出していけたらなっていう気持ちから、第二次谷杉っていう名前で応募して、今もそのまま使ってます。美術作品を発表する時は第二次谷杉、演劇っぽいものをやる時は、関わってくれた人全体のイメージとして「ミミトメ」っていう、劇団というか、集まりの名前をくっつけてます。
ゆか ”耳”と”目”ってことですか?
谷杉 そうですね。演劇を見て思わず泣いてしまったとか、そういう感情に訴えかける感動的な演劇もいいんだけど、見えたり聞こえたりしたものが単純に作品になるような、バカバカしいけど知的なギミックがある、少し引いたところから見たような作品を作っていこうと思っていたので、そういう名前にしました。もともと情念とか感情がむき出しのお芝居が苦手なんです。ソンブレロっていう名前も由来があるよね。
ソンブレロ ソンブレロっていう名前のパンがあるんです。近所のパン屋は必ず売ってたので、誰でも知ってるクロワッサンぐらいのイメージかなと思っていたら、意外に皆さん知らないんですよね。僕はすごく好きなパンなので、それを広めたくてソンブレロという名前にしました。
谷杉 円錐状のやつで、横浜近辺だけにあるローカルパンなんだよね?
ソンブレロ いやー俺はそんなことないと思うんですけどね…。
天野 (静岡在住の)私も、ソンブレロ見たことがないです。
ストレンジシード静岡のつながり、おでんのつながり
ゆか 今回のパフォーマンス会場は青葉シンボルロードとの事ですが、静岡にはどんなイメージがありますか?
ソンブレロ 伊豆とか中伊豆の方の温泉や海に遊びに行ったことはありますし、寸又峡(静岡県川根本町。「夢のつり橋」が有名)の方は何回も行ってたり、掛川っていうところで一週間ぐらい過ごしたこともあります。
ゆか やってみたいことはありますか?
ソンブレロ 出演者を募集しているので、初めて会う方々とのつながりっていうか、他の団体の方々とのつながりとか、このイベントを通した出会いっていうのが一番楽しみにしているところです。やりたいことは、とにかく谷杉さんの意向に沿った形にして、谷杉さんが喜んでくれれば僕は嬉しいです。
ゆか 谷杉さんはいかがでしょう?
谷杉 昨年山梨に引っ越して、静岡が身近になったんです。この間下見で青葉シンボルロードとか静岡の街をウロウロしてみました。小学生の時から行きたかった登呂遺跡に行けてよかったです。あと無人駅の美術展(UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2024)っていう、無人駅を中心に美術展をやっていたのでそれも見に行きました。大井川鐵道自体が好きなんで、面白かったですね。せっかく静岡に来たんだから静岡のものを食べて帰ろうと思ったんですけど、時間もあんまりなかったので、静岡おでんの味噌ソフトクリームを食べました。
ゆか おでんのソフトクリームですか?
谷杉 えっとね、おでん味ではないけど、味噌の味がしましたね。
ソンブレロ 静岡おでんは、おでんの中で一番美味しいんじゃないかと思ってます。
谷杉 会場のすぐそばにも、おでんのお店がたくさん集まった通りがありますよね。
天野 おでん街ですね!
「なんだこれ?」の、ちょっとした後味。
ゆか 今年のストレンジシード静岡、「なんだ?なんだ?なんだ?」といったテーマなんですが、観に来て下さったお客様にどんな「なんだ?」を届けたいですか?
谷杉 私たちのやってる芝居って、「ここが良かったね」とか「感動しました」っていうのがあんまりないので、お客さんが「なにこれ」っていうような感想を持つ方が多いんですね。「なんだ?」っていう部分を、僕らが出してるというか。でもそれは価値のない”なんだっていい”の意味じゃなくて、「これは何だろう?」って好奇心を持つような。だから「なんだこれ?」の”なんだ”だよね。「なんだ?」ぜんぜんうまく言えてないぞ
ソンブレロ そうですね。ちょっとした後味があればいいなと思います。
谷杉 あっ、きれいにまとめた? おあとあじがよろしいようで。
ゆか 当日は静岡で、また色々お話させてください。