嘘のない野外で、嘘のない舞台を。マームとジプシー インタビュー
一人から始まって広がっていく創作
天野 自己紹介と、団体名の由来を教えて頂けますか?
藤田貴大 演劇作家の藤田貴大です。「マームとジプシー」を始めて、今年で16年になります。
天野 おめでとうございます。
藤田 〈マーム〉は母体という意味で、〈ジプシー〉は放浪するみたいなイメージですね。僕が22歳の時に始めました。劇団ではないので、メンバーは僕しかいないですね。
天野 そうなんですね。
藤田 僕自身がそんなに人を率いるタイプじゃないから、いわゆる“主宰”みたいな立場にならなきゃいけないのは嫌だな…っていうのも当初から思っていて。それと、僕一人から始まって誰かと出会ったり、色んな場所に出会ったりしながら創作するんだろうなと想像して付けたのが「マームとジプシー」という名前です。
天野 でもプロフィールを見ると、藤田さんは主宰という名前にはなっていますね。
藤田 企画ごとにメンバーがまるで違う製作を行っているけど、やはり中心になるのは僕なんですよね。でも、レパートリーのメンバーがいますね。劇団員というわけではないんだけど、僕のパーソナルな題材を扱った作品のことをレパートリーと呼んでいて。それらの作品はいつでも再演出来るようにしています。
天野 今回の作品も、レパートリー作品の一つですか?
藤田 正確には、海外にも持っていけるようなレパートリー作品を、今年もう一つ作ろうという段階です。丁度ストレンジシードさんにお声掛け頂いたから、その第一弾の短編を作ってみよう、と。今回出演するメンバーは、かなり長くやってるメンバーです。
出来ないことが面白い
天野 今回の作品について色々と触れていきたいんですけど、そもそも野外で公演をするっていうのは…
藤田 マームとジプシーのオリジナル作品は野外ではないですね。新潟の港でワークショップしたりはあったけど。一昨年、ファッションブランドの〈ミナ・ペルホネン〉とのコラボレーション作品は長野の信濃大町の野外劇場で発表しました。
天野 野外だから意識する演出ってありますか?
藤田 なんて言うんだろうな…すごい天候に左右されるから。
天野 そうですね…。
藤田 僕たちの作品って、僕だけがデザインしてるんじゃなくて、例えば衣装さんとかも、いわゆるスタッフとしての衣装さんというよりも、デザイナーなんですよ。だから(出演者は)雨が降って濡れたらまずいものばっかり着てるんです(笑)
今回も、足元の靴は〈trippen〉というドイツのシューズブランドに参加してもらっているんですけど、革なので雨が降ったら終わりだなあ、と。そういう屋内だと気にしない大変なことはいっぱいあるんだけど、劇場だったら完全に暗闇を作れる黒い壁の中、ピンスポットが当たればその人が喋るみたいなことを、野外ではそういう記号的なことが出来ないから面白いなあと思っています。天気もそうだけど、わざわざそこまで足を運んで来てくれた観客の皆さんのその日の気分もあると思いますし。音も、散漫としていて、静かな空間を作りづらい。演劇の人たちって、「環境を作る」みたいな言葉をすごい使うけど、野外だと当たり前に作れないことがあるっていうのが、ノイズっぽくていいと思いますね。
天野 きっと三日間とも違う環境になりますもんね。
藤田 なると思いますね。あと静岡って夕立とかあるんですか?
天野 東京ほどは無いと思います。
藤田 そうなんですね。長野の時は山の中でかなり夕立の影響があったので。
天野 大変でしたね…。今回は駿府城公園エリアの芝生での出演ということなんですけど、藤田さんの方から「芝生でやりたい」と仰ったんですか?
藤田 そうですね。この半年間ずっとテントを集めてたんですよ。
天野 大きい一つのテントではなくて?
藤田 結構な数のソロキャンプ用テントを集めてたんですよね。なんか、漠然と。なので、お話を頂いた時に、僕のテントのコレクションをとにかく張ってみたいなと思ってたんですけど、(駿府城公園には)遺跡が出てくる可能性があるからペグを打っちゃダメらしくて。確かにな、と。
天野 なるほど。
藤田 でも、なんとなくテントを立てるイメージはずっとあったんです。送ってもらった場所の候補を見たところ、芝生が一番映えそうだなと思って選びました。
舞台という空間に嘘は欲しくない。
天野 これまでの作品を観ると、照明や映像など、視覚効果を強く意識した作品づくりをされているように感じました。今回そういったものを取り入れたりは?
藤田 出来ないですもんね。照明でシーンを切り替える、みたいなことは。劇場の中でやるような明かりはできないにしても、ランタンの光源を見せるようなことは出来るかなと思ってますね。
天野 劇場でやる時も視覚効果に重きを置いているんですか?
藤田 ただ順番としては視覚効果がやりたくて、というよりも、作品がどんなモチーフを掘り下げていくかという中で「これは映像で語った方が早いよね」とか、「衣装で作ったら綺麗だよね」ってことを演出の段階で選んでいく感じですね。
天野 照明や映像で生まれる影の演出がとても印象的でした。吊り物の影が、後ろに写っている映像に入っていたり。そういった事も計算しているんですか?
藤田 照明さんと、そういう計算高い話をしたことはないんですよね。結果、そうなっただけであって。今回の『equal/break-fast』で描こうとしてるのは僕の地元の北海道なんですけど、それを改めて描くということはどういうことなのかな?と考えた時に、例えば場を明るくするための照明というよりは、影を意識してみるというふうにはなる気がするけど。たしかにそう言われると、マームとジプシーの明かりはいわゆる演劇っぽい感じじゃなくて、美術に近いような照明なのかな。
藤田 屋外でやる場合、そういうこともうまくいきそうな気がしてますね。計算ができないっていうのは、実は劇場の中でもすごい大切な気がしていて。計算高いものって確かに見やすいんですけど、さっきも話した通り「この人が喋るから明かりを当てる」っていうのはあまりにも記号的というか。
他の部分も見えてていいじゃんって思います。折角そこに観客を立ち会わせているのに、見せないところを作るのが僕は好きじゃないんですよ。僕の場合、舞台袖(客席から見えない舞台の両脇の部分)を作らないんですよ、どんな大きな劇場でも。
天野 確かに作品の映像を見るとなかったですね。
藤田 役者がインしたりアウトするっていうのは一回もやったことがないです。上演時間中、待機してる役者のことも、観客には見えている状況を作ってます。屋外だとどこにハケるんですか?って話ですよね。圧倒的に遠い(笑)
天野 多分テントの裏しかないですね(笑)
藤田 テントの裏でも、「今ハケてしゃがんでんだな」とか想像させちゃうじゃないですか。だから嘘のない空間を作りたい。まあ、そもそも物語自体が色んな意味で嘘なんだけど。野外では、特に嘘をつけないと思う。
天野 丸裸にされる空間ですもんね。
藤田 今回会場になる芝生って段差もなく、客席とフラットなのも楽しみですね。
静岡に来てくれる日を待ってました
天野 今回のインタビューをやるにあたって、一般の方から質問を募集しました。「マームとジプシー」がすごく好きな静岡市在住・40代男性からいくつか熱い質問を頂いておりまして。
藤田 (今回は藤田さんの地元である北海道をモチーフにした作品なので)ないんですよね(笑)でも静岡は行きたかった土地なので、滞在製作とかに呼んで頂けたら行きます。つい最近まで、沖縄を描いた作品に十年間取り組んでいたんですよ。現在も、これから描くであろう土地に滞在して、図書館に篭ってみたり、実際に歩いて映像撮影してみたりとか。一つ一つの土地に対してのリサーチを個人的なワークとしても取り組んでるので、ぜひそういう機会があれば静岡も行きたいですね。
…って伝えておいてください(笑)今回上演する会場(駿府城公園)も歴史があるとこなんですよね。
天野 工事中に見えるところで実は遺跡発掘をしている、とかありますね。
藤田 あ、やっぱそれぐらいやってるんだ。確かにペグ打っちゃダメだよね。
藤田 マームとジプシーって20代・30代と結構忙しくやってきた方だと思うんですよね。一週間稽古してもう本番…っていう作品づくりをしてきたんだけど、やっぱり時間をかけて作品を作るってすごい重要な気がしていて。
今回の『equal/break-fast』も、一年とか一年半くらいかけてアプローチしています。ストレンジシードで、クリエイション第一弾として上演したあと、来年の2月に(新作として)初演するので、それくらい時間をかけて製作しようとしている僕らの意図としても、タイミング的に良かったなと思いました。
天野 これは私からの質問になっちゃうんですけど、藤田さん的に演出をやりやすい環境、やりにくい環境とかはあるんですか?
藤田 意外とない気がします。マームとジプシーは、すごい小さい空間での発表から始まったんです。カフェやギャラリーで上演するとか、窓のある空間が好きだから自然光が入ってきちゃって照明が作りにくい場所とか。
でも、大きい会場での作品がストレスだとも思わないタイプなんですよね。野外フェスとかだとイメージしやすいと思うんだけど、大きいところで聴く音楽ってすごく気持ちいいじゃないですか。その気持ち良さも分かるし、小さいライブハウスとか、プライベートな空間での音楽もすごくいいなと思うのと同じで、小さい・大きいとかあんまり関係なく活動しています。
野外がやりにくいっていうのは色んな技術スタッフからは聞いてるけど、憧れはあったんですよね。大道芸みたいなことは出来ないけど、マームとジプシーとして作品を野外でアプローチするのはずっとやりたかった事でした。
天野 ありがとうございます。最後の質問です。
藤田 全員同じ人ですよね(笑)
天野 そうです(笑)熱めの質問が3つ送られてきたんですよ。
藤田 大学の時に何回か、なんの縁なのかわからないんですが、伊東へは合宿に行ってるんですよ。伊東と静岡市は、結構離れているとは思いますが。石井くんとはすごい仲良くて、当時は週7くらいで会っていたくらい苦楽を共にした、(人との関係性を形容するのに軽々しい表現は避けたほうがいいという前置きはあるにしても)「親友」と呼ぶに相応しい存在なんですよね。だから石井くんが傷つくところは、一番見たくないというか。しかも彼は漁師の息子らしいから、お父さんお母さんが美味しい魚とか送ってくれていたんですよ。それを食べていました。
天野 良いですねぇ!
藤田 伊東辺りの事は詳しいわけではないんですけど、静岡って言っても大きいわけだし。
天野 そうですね、横に広いですね。
藤田 だから色々と調べてみたいなっていう気持ちはすごくあります。
天野 ありがとうございます!駿府城公園も色々な歴史があったり、今は大河ドラマ「どうする家康」の影響で家康ブームがあるので、ぜひ観光できる時間があればと思います。静岡でお会い出来るのを楽しみにしています!