「劇場の外ならではの、ほころび」わたげ隊インタビュー|ほころびオーケストラ
SF+労働+ロマンス=???
ハボ 本日はどうぞよろしくお願いいたします。
川口・埜本 よろしくお願いします。
ハボ まずはお二人の自己紹介を簡単にしていただけますでしょうか。
埜本 はい、僕は埜本幸良(のもと・さちろう)と言います。普段は俳優として活動してます。範宙遊泳という劇団に所属していて、ストレンジシードさんには範宙遊泳としてこれまで二回出させていただいてます。今回の「ほころびオーケストラ」というユニットは、川口さんと一緒に作って、二年ぐらいやってます。こちらではパフォーマンスだけではなく、企画や中身の内容、ストーリーとかも考える立場としてやってます。
川口 初めまして。川口智子です。私はフリーランスで演出をしていて、何かの団体に所属したり、自分で劇団を作ったりしてこなかったんですけど、三年前に範宙遊泳の公演を演出させてもらった時に幸良さんと会って。その時に意気投合した記憶もないんですけど(笑)、私が「子どもと一緒に遊ぶ」みたいなワークショップを各地でやらせていただいていた流れで、「なんか新しく一緒にやれる人いないかな?」と思って幸良くんに声かけて、「ほころび」につながっていった、っていう感じです。劇場以外のところで上演するのが好きなので、今回も楽しみにしてます。
ハボ 今回の作品の紹介文に「SF労働ロマンス」って書いてあるんですが、どこからこの三つの単語をつなげる発想が湧いてきたんですか?
埜本 『恋するロボット』初演時(2022年)、「(東京の)立川で、子ども向けで何やろうか」ってなった時に、「ショッピングモールの敷地に、その日だけ何か新しいものが立ち上がったら面白いな」って考えて、「郵便屋さんで働く人がいたらいいな」「それがロボットだったら面白いな」と。
人間が実際に働いているより、ロボット、しかもあんまり仕事ができない、廃材で作られた様なロボットが働いてると、周りの人たちは「おかまい」したくなる。助けてあげたくなる。そういう関係性が作れたら面白いなと。
埜本 実際は僕がロボットを背負ってて、隠れているわけでも何でもなく普通に僕の顔も見えるしロボットの顔もあるんだけど、子どもたちが、「え、人間じゃん」とかそう言うこと一切なく、本当にロボットと接しているかのように一緒に作品に参加してくれて。
ロボットが街の中で「お仕事」しているのを見て、町の人たちが手伝うっていうのがすごく面白いと思って。で、ロボットは「人間のために働きたい」と思っている。っていう意味で絶対「労働」は欠かせないなと思って。
ハボ なるほどですね。では、SFは?
川口 ストレンジシード静岡の作品紹介のところにも「今日の火星の天気は」みたいな謎の一文が入ってるんですけど、通常見えてる地球の風景と、ロボットが生きてる世界観の中での地球の風景がちょっと違ったらどうだろう?と考えたんです。
少し近未来的というか、来るだろう未来みたいな時に、すごいポンコツな、自動でも動いてないし、AIも搭載されてないアナログなロボットが何を人間のためにやろうとしてるかって考えた時に、すごくSF的な考え方を最初に引いてみようというのを、静岡に向けて今考えているところです。
ハボ ロマンスは?
埜本 タイトルにあるように、恋するロボット。恋してるんですね。本当にポンコツというよりは恋をしてしまったからポンコツになってしまう、みたいな。AIも搭載されてないしアナログなロボットなんで、恋っていうものを知らない。けど恋をしてしまうという、すごい矛盾から始まるんですけれども。初演の時、とにかく街の人たちとつながりたいっていう気持ちがあって、じゃあ恋をしたロボットが街の人に恋の仕方を教えてもらってストーリーが進んでいったら面白いんじゃないか、みたいなことを考えました。そうすると先ほど言った「おかまい」というところがすごく大事で。
『恋するロボット』では「街の中でロボットが働いている」ということと「誰かにメッセージを届ける、思いを伝える」みたいなことが大事だなって思っていたので初演は郵便屋さんにしたんですけど、今回は、郵便屋さんは郵便屋さんですけども、宇宙に向かってメッセージを届けるとか、場所も広いし壮大なことができたらいいな、っていうことを考えました。そのメッセージを届ける相手が恋する相手だったりして、そういうのがロマンスではないかと思いまして。で、全部くっつけたらSF、労働、ロマンス。
川口 並べればいいかっていう(笑)
埜本 ストレンジシード静岡の今年のテーマが「なんだ?なんだ?なんだ?」なので、ちょっとぐらいわけわかんなくても許容してもらえるんじゃないか。自分たちからしたら正直に名前つけてるけど、人から見たら説明足らず、みたいなことでも受け入れてもらえるかなって思って。
ハボ 私は初期の頃から「わたげ隊」としてストレンジシード静岡に参加しているんですが、このイベント自体かなり懐の深い企画ですし、静岡のお客様がまたすごく懐深いと思います。(埜本さんは)何回もいらっしゃってるから実感なさってると思うんですけど、静岡のお客様は何でも受け入れてくださるというか楽しんでくださるというか、すごいなぁって毎回思ってます。
「おかまい」と「ほころび」
ハボ 「おかまい」というキーワードが何回か出て来て、この作品における大事な要素なのかなと思ったんですが、この「おかまい」をキーワードに据えた理由をお聞かせいただけますか?
川口 昔だったらいい意味で「おかまい」が地域や集合住宅の中とかでもあったのが、今はすごく見えにくいし、「いいだけでもないよ」、みたいな世の中になってきちゃってる中で、『恋するロボット』という作品が劇場みたいに閉じられてないところ(野外)に出て行って、演劇が起こることで人と人が繋がれる。人と出会って、コミュニケーションが生まれて、「なんかちょっと助かった」「なんかちょっと素敵な気持ちになった」、その光景を見てた人もちょっとだけ違う目線になった、みたいなことが起こるといいなぁって思って。
川口 「ほころびオーケストラ」の「ほころび」って、ほころぶ、失敗しちゃうみたいなほころび、糸が出てきちゃうとかのほころびもあるんですけど、もともとの意味に花が咲くとか、笑みがこぼれるっていう素敵な語源があるんです。ちょっと厄介事でもあるんだけど、そのことによって「ちょっとだけハッピーになる」みたいな事が出来ないかな、って考えた時に、「おかまい」っていう、いつもよりちょっと関わっちゃう、みたいな事は、すごく重要なキーワードかなと。
埜本 お客さんに劇場に来てもらって、僕は劇場でステージに立って作品を見せる、っていうのが普段の仕事なんですけど、ほころびオーケストラでは、東京で作った作品を持ってきたよ、いいでしょ、面白かったでしょ?っていうことになるのは僕は面白くないと思っていて。例えば静岡の公園で僕らが遊具の遊び方を開発して、ロボットは次の日にはいないんだけど、その日を境に子どもたちの遊具の使い方が変わった…とか、僕らが帰った後にどう変化するのかな、みたいなことの方が面白いなと思います。作品の中で、見てる街の人たちが、なんかこう…一歩、もう一歩前へ、作品に近づいてみよう、みたいな。そういう事なら出来るかもしれないという所から、川口さんから出てきた「おかまい」っていう言葉がしっくり来てます。
川口 初演の時、ロボットが「あの子」に恋をしてて、でも「あの子」はめったに登場しないんですね。そしたら子どもたちがあの子はどこにいるんだって、探しに行ってくれて、それをロボに報告してくれる、ということがあったりして。すごく子どもたちも(ロボットを)かまってくれてるし、ロボットはロボットでメッセージを届けるということで何か「おかまい」したいみたいな、「交換」が成立してる感じだったんですよね。
埜本 うん、確かに「交換」成立してた。
ハボ 子どもたちが自然発生的に「おかまい」してくれてお話が「動く」っていうの、すごい素敵ですね。「何か持って来ました、それ届けました、以上。」ではなく、後まで残る「なにか」を一緒に生み出そうとなさってるんですね。
川口 なので、ほころんでることが大事。ほころんでるからこそ助けが必要になる、「おかまい」が発生する。なんか失敗してる、なんか手がかかる状態がそこに起こっているっていうことが大事なのと、「完璧な空間」じゃない劇場の外に出ることもすごく重要かなって思ってます。アンバランスさとかダメなものってすごく愛くるしいし、可愛いですよね。
埜本 確かに。完璧なものにあんまり興味ない。あと、二人ともワークショップのファシリテーター(進行役)だったりもするから、「提案はするけど、好きにやってみて」みたいな、「そそのかす」みたいな事が多分好きなんだと思います。
川口 ちなみに「ほころびオーケストラ」は幸良さんが名付け親です。
埜本 酔っ払ってたんで全然覚えてない(笑)
ハボ おっしゃる通りで、完璧なものを見せられても関われないというか、「おかまい」が発生しないですよね。出来上がっているものだと「ふーん」って、「きれいだね、面白いね」って客観的に見ちゃって、関わっていこうっていう気持ちにはならないのかなと思います。なのであえての「ほころび」と。
川口 見ちゃいますよね、ほころんでると。糸がでてないか一日気になっちゃう、みたいな。
ハボ 見ちゃいますね(笑)
「修行の場」で起こる「化学反応」
ハボ 今回、静岡で特にやってみたいことってありますか?
川口 私すごい東海道が好きで。道としての東海道がすごい好きなので、去年静岡行った時も、どっかで東海道のマークを見て、「ここが一号線なんだ!」みたいなのがすごい楽しかったので、東海道にまつわるところに行く時間があったら嬉しいなって個人的には思ってます。
埜本 僕は今回(ストレンジシード静岡には)三回目の参加で、二回ぐらい観にも行ってるんですけど、毎回楽しみにしているのはおでん!密集してるおでん屋街で食べるのが好きですね。参加しているアーティストたちと知り合うのも楽しみにしています。
埜本 作品のことで言えば、初演の立川を越える景色を見たいな、と。立川で上演した時は、5~6時間のパフォーマンスだったんです。短い10分位の短編が8〜9話あって、合間の30分位で手紙の配達をしたり、子どもたちと過ごせる時間があって。あそこまでの景色を見られたのは、街の中に長い時間居れたことがすごく大きかったんです。
埜本 その時と比べると今回のパフォーマンスは25分位で、多分同じものを一日二回上演することになるからストーリーが進まないし、それ以外の時間も他のアーティストのパフォーマンスが沢山あったり、僕らの活動域も広いので、同じようなものにはならないなっていうのは承知の上で。その中でどれだけ街の人と関われるか、単純に作品としても立ち止まって観てもらえるようなものに出来るかとか、僕らにとってもかなりの挑戦で、未知の部分も多いんですけど、今後別の街でもやっていきたいので、ストイックに言えば「修行の場」でもあると思ってます。
ハボ 「パフォーマンス&ツアー」というメインのパフォーマンスとは別で、「ロボットお仕事タイム」というのがあるとのことなんですが、これは決まった25分のお話とは別に、ロボットが働くんですか?
埜本 はい、その時はもう、お客さんが見てても見てなくてもいいみたいな、街の人が
見てる景色の中にロボットがいる、街の中にその日だけ住人として存在している位なことをやりたくて。今回は(会場が)広いからなかなか難しいかもしれないけど。
ハボ 他のアーティストさんとも一緒に、普段居ないキャラクターとか人たちが普通に存在してて、お客さんたちも普通にそこにいて、みたいな場になって、そこで不思議な科学反応が起こりそうですね!
みんな違って、みんないい。
ハボ 今回のストレンジシード静岡、さっきもおっしゃってくださったように「なんだ?なんだ?なんだ?」がテーマになっておりますけれども、作品を見たお客さんがど
んな「なんだ?」を持って帰ってくれたら良いな、と思われますか?
埜本 ロボットとは?、みたいな?
川口 (埜本さんに)やってもらってて何ですけど、なんでこんなに一生懸命ロボットをアナログに演技してるんだろう?って思う時がある。ふと、なんで人間でやらないんだろう単純に、みたいな。しかもすごく操作しづらい作りのロボットだし。でも私はそこが面白くって作ってるんですけど。
埜本 僕は全然わかんないんだけど、演出の川口さんは俳優の僕がロボットを背負ってロボットを演じているっていうことがすごく面白いらしくて。僕は俳優だからもっと動かしやすいように改良したりとか、もっと自分の顔が隠れた方がいいんじゃないかとか、いろいろこれを扱うパフォーマンスを上げていきたいと思うんだけど、それはダメみたいで。
川口 人形遣いのプロになってほしいわけではなくて、演劇の役者さんだからできるオブジェクトの扱い方みたいなのがあるんです。今回のロボットも、ギターとか掃除機とか廃材で作られていて、そういう一個一個の”マテリアル”が浮き立ってくる瞬間とか、”もの”が喋ってるように聞こえる瞬間とか、役者さんだからこそ描けることがあるんじゃないかなって思っていて。今回25分のパフォーマンスを作るにあたって、そのクオリティを上げたいなって思っております。
埜本 人間とロボットの中間だからこそ見えている景色がある?
川口 お客さんもその中間を見てる気がするんですよね。演じてる幸良さんも見てるし、ロボット自体も見てるし、そのどっちにもつかない「何か」みたいなものも遠くに見えたりする時があるんじゃないかなと思って。今回は野外だから、もっと遠くにいるお客さんとか、遠くの風景も見えていて、幾層にも見えているものが変わっていったら面白いなと…すごい、演出家っぽいこと言えた!
埜本 演劇って何なんだ?みたいなことは、毎日…この作品も果たして演劇なのかもわかんないし、何をもって演劇かとかもわかんないし、なんで自分がよくわかんないものを一生懸命やって、何を立ち上げようとしてるのか…なんかもう「なんだ?」でしかないんですけど。しかもそれでSFって言ってるから、お客さんは見た後「何なんだろう?」って思うと思います。多分すべてに対しての「なんだ?」
自分らも、言葉にして「作品紹介」の文章を書いてみたものの、どうなるかまだ全くわかんないし、あの場所で、当日どういう人たちがいて、子どもがどれだけいて、どんな関わり方をしてくるか…未知数過ぎて。でも、誰も邪魔しない場所(劇場)であれば高品質なものを作れるのはわかってるから、その逆の挑戦を出来るのは本当に楽しい。
川口 パフォーマンスの最後に、お客さんと一緒に移動するちっちゃいワークショップみたいな時間がたぶんできると思うんですけど、その関わりの中でロボットも私たちもお客さんも一緒に何か「なんだ?」って思えるものがあったら面白いよね。「あれなんだ?」って。(埜本さんに)違う?
埜本 お客さんが関わってる間も「俺は何をしてるんだ」ってなると思う。
川口 なるんだ。常になってるんだ(笑)。同じところを見れてたら面白くない?お客さんとロボが。
埜本 みんな同じなんて、無理。
川口 急な全否定!(笑)
埜本 みんな違う人間だから!