「怖さを乗り越えたところにある、特別な非日常」Co.SCOoPPインタビュー
Co.SCOoPPを覗く
天野 では最初に、自己紹介をお願いいたします。
安本亜佐美 はい。Co.SCOoPP(カンパニースコープ)代表の安本亜佐美です。サーカスが好きでイギリスに留学してました。そこから日本に帰ってきて、日本で現代サーカスをどうやって広めようかなと思って作ったカンパニーが「Co.SCOoPP」です。サーカスだけじゃなくてダンスや映像の方とコラボしたりとか、いろんな形式で幅広い表現が出来るように作りました。今は「バーティカルダンス」をメインに作品を作ってます。
天野 「Co.SCOoPP」さんの「スコープ」という単語を調べると、色々意味が出てくるんですが、どういう意味でつけられましたか?
安本 仲良くさせてもらってる、現代サーカスのお仕事に関わっている方につけてもらったんです。「スコープ」は「Searching COntemporary of Physical Performance」の頭文字を取ってます。身体的なパフォーマンスの現代性を探る、みたいな意味をつけてくださって。あと(字面に)丸が多いのも楽しいなと。
天野 確かに色んな形状の丸がありますもんね。私は現代サーカスについてあまり詳しくなかったんですけど、イギリスでは現代サーカスは有名なんですか?
安本 イギリスは勿論、ヨーロッパの各国で盛んでしたね。
天野 もともと日本にいらっしゃって、イギリスに渡ったということですが、イギリスで活躍するのではなく、それを日本に持ち帰りたかったんですね。
安本 そうですね。私はもともとウェブデザインをやっていて、その前は日本画を書いていたんですよ。
天野 多彩ですね。すごい。
安本 そうなんです。だからもともとアーティスト気質ではあったんですけど、小さい頃から体操をやっていたわけでもなかったので、ヨーロッパの本場で戦っていけるようなスキルではなかった。30歳ぐらいから向こうに行ったこともあり、現代サーカスだったら、シルク・ドゥ・ソレイユみたいなスキルがなくとも、自分の表現をやっていける場だなと思って。あとは、日本だったらバーティカルダンスやってる人あんまりいないからやってみようかなという感じで。
天野 私もバーティカルダンスというのは一年前ぐらいに初めて知りました。人口としてはまだ少ないんですね。
安本 そうですね。
空を漂う白いモケモケ
天野 イギリスで現代サーカスを学んで、どうやったらあの白いモケモケ…って言っていいんですかね。
安本 はい、大丈夫です。
天野 どうやって白いモケモケにたどり着いたのかなと思いまして。
安本 あれはもともと、2022年8月から2023年3月までDANCEBOXの『国内ダンス留学』という長期プログラムでお世話になりました。その最後に成果上演を演出したのですが、その作品で使ったキャラクターですね。
安本 難しいことはちょっと置いといて、セサミストリートとモンティ・パイソンが好きなんですけど…。
天野 あ、なんかすごい理解しました!
安本 まあなんかモフモフしててちょっと皮肉なところがあって、みたいな。可愛いけれどちょっとシニカルなところのある作品を作りたいなと思って、あのビジュアルを選びましたね。
天野 先日、アワフェス(2024年3月 OUR FESTIVAL SHIZUOKA2024 ARTIEステージ。アシスタントスタッフとして天野も参加)で『まちなかサバイバル!』を披露してくださったときに、会場にいる子どもたちが「マヨネーズが踊ってる!」って言ってました。
安本 マヨネーズですか?あははは、それは初めて聞きました!
天野 ちなみに、白いモフモフのお名前はあるんですか?
安本 えっとね、名前は特にはないんですけど、便宜上「ギリーズ」って呼んでます。衣装のもとがギリースーツって言う、サバイバルゲームで使われるような隠れられるスーツなんですね。有名なのは迷彩柄なんですけど、あれは雪中戦用です。
天野 なるほど。
安本 サバイバルスーツなのに隠れられないの面白いなと思って。本当はスーツを青色に塗って空中に浮かべたら、空に隠れられるかなと思ってたんです。でも安い素材だし全然青色に染まらなくて。でも隠れられない感じが、逆に哀愁があっていいなと思ってそのままにしました。5月に雪が降ってくれたら隠れられると思うんですけど。
天野 ちょっと静岡だと望みが薄いかもしれないです…。
地上の日常、空中へ解放。
天野 私は空中で踊ったことがないんですが、やっぱりすごく怖いんじゃないかなと。
安本 そうですね。やっぱり高さに慣れないうちは、道具も経験も、全てを信頼して踊らないといけないっていうのは怖いです。ただ、空中パフォーマンスをやっていると、設置のために屋上とか舞台裏とか普段は立ち入る事の出来ない特別なところに入ることが出来るんです。それに高い所にぶらさがるってすごく気持ちいいんですよ。空中からの景色が見れたりとか、風に揺れる時のふわふわした時間感覚とか、特別で好きなんですよね。それって通過儀礼に似ているというか。怖さを乗り越えたところに何かがあって、ちょっと違う感覚を味わえる、ある意味で日常から逃げることができると思っています。
リョウゴ パフォーマンスをしていて、「これは危険すぎた」っていう経験はありますか?
安本 今まで一度もないですね。危険要素をはらんでいると信頼して踊ることができません。危険な要素はあってはならない事なので、準備を含めリスクマネジメントやレスキュー講習を行うなど、安全対策は確実に行ってから踊っています。
天野 作品を観させていただいた時に、ギリーズのビジュアル含めてアニメーションみたいだなというか、ストーリー性があるなって感じました。先にストーリーを考えて作品を作るのか、それともパフォーマンスをしていく中で、「これはこういう物語性があるね」ってなるものなのか。
安本 両方ありますね。エアリアルとかバーティカルダンスで言うと、ロープを使って上下することに、どういう意味があるのかというのを最初に考えますね。あとはあのスーツから色々着想を得ています。可愛いけどちょっとバカバカしくて、みたいな。
安本 人って「コミュニティに属さないといけて生きていけないだろうな」って個人的に思うんです。属したいけど上手く行かない、みたいな。でも、哀愁のあるあの白いキャラクターを見て、誰でも共感できるような、共感してほしいようなパフォーマンスにしようと思って作りました。
天野 今回のストレンジシード静岡でも白いモケモケを着てくださると思うんですけど、どういったパフォーマンスを持ってきて下さる予定ですか?
安本 今回は五人の大所帯でパフォーマンスをするから、よりワシャワシャできるなっていうのと、みんなで静岡の街を混乱に落とし入れられたらなと思ってます。
天野 ストレンジですね。
安本 あと今回やってみたいのは、折角五人いるので、横断歩道の白線を五人で作りたいねっていう話をしています。
天野 ビートルズみたいな(笑)。
安本 そうそう。ビートルズになれないビートルズです(笑)。地上でのパフォーマンスを多くしようかっていう話もしています。私は基本、地上が苦手なんです。空中の方が逃げれるから楽しくて好きなんですけど、もうちょっと地上で苦しんでみようかな、みたいな話をしてます。
天野 地上の苦しみから、空中への解放みたいな感じですね。
安本 そうですね。空中に解放なんだけど、降りてこないと終われないので結局解放されない、みたいな。寂しいというか悲しすぎますよね。
天野 あははは。ちょっと世知辛いですね。
安本 なんか今喋ってて思ったんですけど、私、幼稚園がカトリックで、小学校が浄土真宗、中高はプロテスタントだったんですよ。だからそういう、現世は辛いみたいな価値観が植え付けられちゃってるのかもしれない。
天野 人は生まれながらにして罪なのだ、みたいな感じですかね。
安本 あるかもしれないですね。「そんなことないぜ」って言いたいですね。
常識があるから反骨できる。
天野 プログラム紹介のクレジットに「アコーディオン」の方のお名前が書いてあったんですけど、どういった感じになりますか?
安本 私も今回初めてコラボレーションさせていただく方なんです。コンテンポラリーダンスとコラボされていた方で、そういったところに造形のある方で、白いモフモフを着てもいいよって言ってくれる人です。ちょっと変わった演奏をしてくれるかなっていうのは期待しています。
天野 Co.SCOoPPさんのパフォーマンスを見ていると、民族系の音楽を使用されているイメージでした。個人的には選曲がすごく好きだったんですが、選曲も安本さんがされてるんですか?
安本 そうです、ありがとうございます!民族系の、ちょっとポップだったり、エレクトロっぽい曲がすごく好きで。でも音楽を作ってもらうとか、作品に合わせて一から作ってもらうということはあんまりやったことがないので、今回はチャレンジしてみようかなと思っています。あと、アコーディオンってなんかサーカスって感じしません?
天野 します!
安本 ボードビルというか、哀愁漂う感じもあるし。あと”サーカスと一緒に逃げる”っていう意味の「Run away with the circus」っていう言葉があるんです。パイド・パイパーの「笛吹き男」の話があるじゃないですか。そんな感じで、みんなをどっかに連れていきたいなっていう気持ちもあったので、アコーディオンだったらいい感じになるかなと思いました。
天野 確かに、パフォーマンスが終わって、次のパフォーマンスの場所に向かっていくのはみんなを引き連れている感じがしました。
安本 あ、よかったです。こっち側に来いって思ってやってます。
天野 空中で音合わせするのって難しくないですか?
安本 はい。めちゃめちゃ難しいので、出演者のお二人には無理な事をたくさん言ってました。
天野 アワフェスの時は、パフォーマンスの近くに木があって苦戦してましたね。
安本 そうなんですよね。練習含め十回ぐらい登ってるんですけど、毎回「もうちょっと上、もうちょっと上」言ってるのにだんだん下がってくるっていう(笑)。
天野 あははは(笑)。
安本 「上って言ってるのに!」って思いつつも、そういうところもちょっと愛らしいっていうか。あれを着てたら許されるなぁって思います。モフモフだし。何やっても失敗しちゃうみたいなのも可愛い。
天野 ビルから降りてきたり、柱に登ったり。安本さん的にはどこに登るのが好きですか?
安本 私はやっぱり建物とかに登るのが好きですね。建物の壁に人がいるって意味不明じゃないですか。
天野 意味不明ですね(笑)。
安本 そうですよね。意味不明だし、いいなって思うんですよね。『インセプション』(クリストファー・ノーラン監督の映画)みたいに次元が変わるというか、非日常な感じがして。あと、私がひねくれてるのもあると思うんですけど、建物って壁に人が立つように設計されてないじゃないですか。そこに登っていくっていうのが好きですね。
天野 全体的に、反骨精神が強いんですかね?
安本 ああ、そうかもしれないです!なんかそういう気持ちがあると思います。
吹き溜まりのギリーズ
リョウゴ 衣装の重さはどのくらいなんですか?
天野 確かに重さ気になります。
安本 衣装の重さはね、そんなに重たくないんですけど嵩(かさ)があってすごい大きいんですね。移動して持って行くのは大変です。あとは大変なのは、パフォーマンスする度にちょっとずつ毛が抜けて、街中にどんどん落ちてっちゃうんです。だからたまに後説で「ラッキー抜け毛なので是非持って帰ってくださいね!」ってちゃっかりお客さんに掃除してもらおうとしたりして。そんな感じでどうしても抜けてっちゃうので、最近は植毛をしてます。
天野 植毛…。
安本 いらない白いリボンとか布の切れ端とか可愛いでしょ。どんどん、”真っ白でなんか綺麗なゴミの集まり”みたいにしたいなと思ってます。
天野 かわいい!じゃあストレンジシード静岡来たら、「あれ?前回とビジュアルが違うぞ」ってなってる可能性もありますよね。
安本 ありますね。ビルの隙間に吹き溜まったホコリみたいにしたいなと思ってます。窓掃除とかさせたいですね。
天野 窓清掃の方とコラボしちゃうかもしれない。
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