にじみ出る、根源的な懐かしさ。天野天街(少年王者舘)インタビュー
創立40年の老舗劇団
八木:自己紹介をして頂いてもよろしいでしょうか。
天野:少年王者舘という劇団の主宰をやっています、天野天街というものです。
少年王者舘は1982年に創立して、今年で40年になります。名古屋を拠点に始めて、2年ぐらい経ってから、東京や大阪などそこらじゅうで公演をするようになりました。40年もやっているのでね、ま、どうでしょう、だらだらだらだら続いているような劇団ですね(笑)
八木:劇団の名前はどういう理由で付けられたんですか。
天野:なんとなくです。山川惣治という絵物語作家がいるんですが、『少年王者』という作品があるんですよ。そこからとりました。そこに舘を付けただけ。
日本語で言うと根源的な懐かしさみたいなことは、ずっとやっていこうと思ってます。過去に向かうベクトルの懐かしさではなく、未来とか、ベクトルをあまり発生しない懐かしさのようなものをやろうとはしてます。ただ、少年時代の郷愁みたいなイメージは全くないです。
静岡に思いを寄せる
八木:2017年、2018年にストレンジシードに参加されましたが、その際の印象はいかがでしたか?
天野:もともと個人的に、静岡市街地へよく行くんです。とても良い街なので大好きなんですよ。お酒が好きなので、いい飲み屋もいっぱいあるし、雰囲気がすごく良くて、なんか落ち着くんですね。
(ストレンジシードは)お誘いを受けてやらせていただいたんですけど、ちょうど5月という風光明媚な良い季節であり、また木や草が生えているような場所でやらせてもらったので、のんびり、雰囲気の良い感じですることができました。何をやってもいいというか、自由なことをやらせて頂けたんで、とても良い印象が残ってます。
八木:もともと静岡がお好きなんですか。
天野:例えば、僕、名古屋に住んでいて、東京の人間と会う時にちょうど静岡が真ん中なんですね。だから静岡でお会いしたり。そういう事があって、よく行かせてもらっていました。だからそんな遠い場所ではないというか、身近な雰囲気のある場所ですね。
八木:静岡のどういったところを良いと思っていらっしゃいますか?
天野:山があって、海があって、綺麗な川があって、街中がギスギスしていないですね。ゆったりして、かといって全然寂しくない。人の多さはちょうどいい加減で、自然も融合していて、僕は一年中いるわけじゃないんだけど、いいバランスで色んなものがちょうど揃っている感じが気持ちがいいと思ってます。
八木:そういう所で公演する時には気持ちが違ったりするんですか。
天野:ウキウキしますね、行くだけでウキウキする感じがしますよ、静岡。
八木:それは嬉しいです。
天野:褒めすぎてるようですけど、本当にね、本当に好きなんですよ(笑)
八木:これは嬉しい(笑)静岡市民からすると逆に何もない、みたいに自虐的に思う所があるので。
天野:凄い贅沢だな(笑)一緒に行く人間、初めて行く人間、みんな褒めます。一番みんなが言うのは「なんか落ち着く」です。
八木:住んでいる場所は作品を生み出すうえで大事な要素ですか?
天野:あまり意識してないですが、例えばですよ、静岡に移り住んでしまう方が気持ちがいい、いろんなことができそう。
巨大なガラガラ?爆発する美的センス
八木:今回は学校の椅子を用いるということをお聞きしていますが?
天野:それは借景と一緒で、こちらから持って行かずに何か利用できるものはないかなと、人工物で用立てできるようなもので何かいいものは…といったときに、近くに学校があるから学校の椅子はどうかって案が出て、じゃあそれでってことで使わせてもらうことになりました。
何でも利用できるもんは利用しようと。(前回のように)自然の木々を借景にやることはできないので、何か空間を埋めるものはないかと考えた時に、学校の椅子ってポツンとあるだけですごく絵になるんですね。そこから出発して。それだけのことですよ。
こういうイメージがあるからこれをくださいというのではなくて、こういうものがあるならこれを利用しようという感じでストレンジシードではやろうとしています。
八木:流れの中でだんだんと作品が産まれてくるんですか?
天野:そういうわけでもないですけど。今回は江崎武志君という人に頼んで舞台美術としてこっちで作ったものも持ち込む。要は殺風景なところをちょっと埋めたいなっていうような、そこから出発した考えです。
ハボ:前回の白い衣装と緑と青空のコントラスト、風が流れる時間がとても心地よくて大好きだったんです。今回は石舞台(静岡市民文化会館 野外ステージ)なので堅い感じの場所で、前回と随分イメージが違いますよね。江崎さんはどんなものを作って持ち込まれるのでしょうか。
天野:1.8mくらいの高さの八方形のガラガラですね。(福引でガラガラすると回って玉が出てくる抽選器)そのデカいやつが真ん中にドンとあります。すごい凝った作りになってますよ。江崎君の美的センスが爆発して。ちゃんと回るんですよ。それから、古い自転車。あと、最初のシーンでは大半を布で隠してあるちょっとしたモノがあります。
ハボ:すごく楽しみですね。
千変万化、瞬く間に暮れる20分
八木:今回の作品『トオトオデン』をストレンジシードでやろうと思った理由を教えて頂けますか。
天野:どんな感じにしようかと決まったのが、結構最近なんですよ。開演時間は18:00からとして、SPACの公演(※)との兼ね合いで20分で終わらないといけない縛りがあるので。20分って短いですよ。公園の石舞台で何もなしでやるから、20分を埋めるのが大変かなと思ったらすぐ埋まっちゃって。はみ出さないようにするのが大変、意外と思っていたより20分は短かった。
※少年王者舘の公演後、18:40から駿府城公園で『ギルガメシュ叙事詩』の公演がある
八木:密度の濃い20分なんですね。
天野:濃いといえば濃いかもしれない、薄いといえば薄いかもしれない。どういっていいかわからないですね。
八木:今回の公演は18:00からですが、夕方の時間がよかったんですか。
天野:夕暮れの頃に開演して、最後の7~8分で薄暗くなって…カンテラとか松明とか使おうかなって思っていたんですけど、(時期的に)太陽の高さの関係で無理になったんで、そういうのは一切やめました。トワイライトというか逢魔が時というか、暮れなずむあの感じにはならない。だから方針を変えちゃった(笑)
八木:屋外の作品と劇場の作品を作るのとでは全然違う感じなんですか。
天野:違いますね。空が抜け出る、というのが一番大きいですね。天井がどこまでも広がっている。声が空まで届くような感覚があるので、筒抜けになった空の下で風と共にいろんなことをやってみる。気持ちいいんじゃないでしょうか。
八木:今回の作品は大人から子供まで、どの世代の方にもおすすめできますね。
天野:20分、ポンポンポンポン状態が変わっていくので、ぼーっと見ていたら知らぬ間に終わっている感じだと思いますよ、いわゆる演劇や会話劇でもない、見世物ではないし芸があるわけでもないし、色んなことが起こりますよ。
八木:無茶苦茶楽しみです!どんな作品なんでしょうか。
天野:演劇というかダンスに近い20分、言葉はあるけど会話はない。
退屈してるような時間じゃない、見てたらあれよあれよと終わっちゃう感じかな。
八木:作品や映像を見させていただくと、リズムが気持ちよくて時間も過ぎて行ってる感覚があるんですが、それは意識して?
天野:意識ではなく知らぬ間にそうなっちゃってる感じです。大したことをやってるわけじゃないんだけど、するっと行くような気がするな。
皆が一体となり「楽しむ」
事務局:過去に出演された際の『アサガオデン』という作品は、公園の中の木々を借景にしてやることを前提に作られたと思うんです。最近の少年王者舘は劇場で上演することが多かったと思うんですが、野外は新鮮でしたか?
天野:少年王者舘って40年もやってるんで、昔はよくやってたんですよ。野外というか何にもないとこでやるとか、街中でやったり。『アサガオデン』は東京のザ・スズナリでもやったんですね。その時は「そらみれど」っていう台詞、空を見て発する言葉を、屋内で「空見れど」ってやっても天井が見えるだけじゃんっていう、ある意味、逆の切なさみたいなものがありました。筒抜けの空があって気持ちよかったものがおおわれてしまった。閉塞感、切なさみたいなのを出すっていう方向で。
あれからほぼ公演をやっていないんですが、今回のストレンジシードで野外上演をすることで、なにがしかこれからの作品に影響はあると思います。
事務局:今までの40年の歴史の中でも、新しい感覚があったんですかね。
天野:そうですね。出る人間、劇団員も少ないからこそだけど、ピクニックに行って自分達でレクリエーションみたいに楽しく踊って…という、お客さんに見せる観点においては、失礼な話だけど、楽しんでましたね。ものすごく。役者が、出る人間が一体となって「楽しむ」という自己満足の限りですけども。それがちょっとでも見る側のお客さんにも伝わっていれば嬉しいです。
事務局:演者自身が心の底から楽しんで、喜んでいるというのがお客さんにも伝わっていたんじゃないかと思います。
天野:それは嬉しいですね。今度もそうなればいいなと思ってます。
事務局:あの場所、空が広くて風も気持ちいい場所なんですよ。ちょうどあの時間帯だったらとても気持ちいいシチュエーションになるんじゃないかと思います。
天野:期待して準備しています。
わたげ隊:楽しみにしています。ありがとうございました!
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