『もしも KADOKAWA の担当編集が SAO のデスゲームに巻き込まれたら』第四話
第四話:「あの有名なカップルと知識の力」
ヤマダリョウコは、大広場の喧騒の中、目に留まった二人組の姿を確認するや否や、勢いよく駆け出した。
ダダダッとその二人に向かって走り寄り、呼吸も整えぬまま声を上げる。
「あの!!」
息を切らしながらも、ヤマダの声には力がこもっていた。
その勢いに二人組が振り向く。
現れたのは現実の姿に戻った男性プレイヤー二人組。だが、ヤマダの目には別の存在として映っていた。
「ネカマカップルさんですよね!!」
彼女の言葉に、二人は顔を曇らせる。
『ネカマ』として知られる二人組だと認識されたことに困惑を隠せないようだ。
しかし、ヤマダは興奮した声を止める気配がない。
「ファンなんです! 握手してください!」
熱意たっぷりの言葉と、差し出された手。
それに対し、二人の反応は冷ややかだった。
「な、何、この人」
「い、行こうぜ……」
戸惑いと困惑をにじませながら二人はその場を離れる。
ヤマダはそれを追おうともせず、その場に立ち尽くしたまま大きく手をブンブンと振った。
「これからデスゲーム頑張りましょうね〜!!」
満面の笑みで送り出した彼女の顔は、ハッとして真剣な表情へと変わる。
「しまった!! ついミーハー心が!! なんだデスゲーム頑張ろうって!!」
ヤマダは頭を抱え、セルフツッコミを入れる。
「くそ、落ち着け……」
彼女は深呼吸をし、気を取り直した。口元を引き締め、冷静な思考を取り戻していく。
「初期タイミングでSAO主要キャラと仲良くなるっていうスタートダッシュはもう諦めよう」
彼女は状況を整理し、再び自分に言い聞かせる。
「今頃将来攻略組になるプレイヤーたち……つまりベータテスターはとっくに街を出てどんどん先に進んでるはずよ……」
広場を見渡しながら、彼女は眉間にシワを寄せた。
「そんな中で私が生き残るためにできること…… 私が他のプレイヤーよりも有利なこと……それは……」
ヤマダはメニューウィンドウを開き、画面に映し出される情報を確認する。
「頭の中にあるSAOの原作知識」
その決意を胸に秘めると、ヤマダは次の一手を探し始めた。
「この知識で私はデスゲームを乗り越える!」
◾️アインクラッド第一層 はじまりの街 宿屋
宿屋の部屋を借りたヤマダは、椅子に腰かけ、黒パンを手に取りかじりつく。
もしゃもしゃと咀嚼しながら、メニューウィンドウを開いて何かを書き込んでいる。
指先は画面を滑るように動き、画面の端には彼女の必死な表情が映っている。
「まずは 状況整理だ。この世界はどのSAOに準拠してる?」
彼女の目に浮かぶのは、さまざまなSAO関連作品の記憶。
「初代『SAO』? リブートシリーズ『SAOP』? 流石にウェブ版や『マテリアル・エディジョン』は除外していいよね」
頭の中で可能性を絞り込みながら、自問自答を繰り返す。
「スピンオフ作品の可能性もなくはないかも? でも『オルタナティブ』シリーズやコミック『ガールズ・オプス』はSAOクリア後だから気にしなくていい」
ぶつぶつぶつ。
「ゲームはどうかな? 『インフィニティ・モーメント』『ホロウ・フラグメント』はアインクラッド74層以降の物語、『ホロウ・リアリゼーション』以降も無視できる」
呟きは、部屋の中に響きわたる。
「さっきの茅場イベントの時にミトちゃんを見つけられてたら『SAOP』だったし、コハルちゃんなら『インテグラル・ファクター』だったけど……」
しかし、声は次第に小さくなり、最後にはため息混じりの言葉が漏れる。
「つくづく誰も見つけられなかったのは惜しい」
黒パンを大きくかじりつつも、その悔しさは隠せない。
「これから出会うプレイヤーたちにはより一層 注視しておくことにしよう」
そう結論づけると、黒パンの最後のひとかけらをかじった。
と、そこで黒パンを食べ終わり、ハッとするヤマダ。
「この黒パン……キリトさんとアスナさんと同じもの食べてるなんて……感激だ!!!」
うおおおおお、といきなり立ち上がり雄叫びを上げる。
「『クリーム乗せ』じゃないけど! でもそこがいい!!」
興奮を隠せない声が、部屋中にこだまする。
「ハッ! また私、変な癖が……!!」
ヤマダは正気を取り直し、ウィンドウを再び確認する。
「よし、次の目的はこれにしよう。とにかく今は……」
彼女の目がウィンドウに映し出された情報に集中する。
「『アニール・ブレード』だ!」