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ストレートエッジコラム第十二回『こうすれば企画書は必ず通る。「読みやすさ」のコツとドラマ的テクニック』
先月(株)KADOKAWAを退社、作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げた三木一馬と申します。最終職歴は電撃文庫編集部編集長です。主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。
※この記事は、東洋経済オンラインに掲載させていただいたものの再編集版です。
前々回は、「何人ものベストセラー作家に触れて気づいた共通点」について書きました。
僕はこれまで、編集者としてたくさんの小説原稿を読んできました。その内容は、まだまだ人様にお金を出して買っていただく「売り物」としては不十分な詰めの甘いものから、出せばヒット間違いなしという完成度の高いものまでさまざまです。
一方で、僕はひとりのビジネスマンとして企画書もたくさん読んできました。その内容は、小説を売り込むために作品内容を説明する企画書や、総予算数億円規模のメディアミックスプロジェクトの企画書などなど、こちらも多岐に渡ります。
同じように、企画書にもよい企画書と悪い企画書があります。今回は、多くのビジネスパーソンの方に応用していただけそうな「よい企画書の書き方」についてご紹介できればと思います。
よい企画書の書き方1:読み手の思考の「半歩先」を意識する
企画書とは、相手に自分の意図を十全に伝えるための手段です。そのため多くの人に、限られた時間の中で、簡潔に言いたいことを余すことなく伝えられる内容にする必要があります。
極端なことを言えば、「この企画書をお読みください」という一言以外、口頭で何も付け加える必要がない、というのが理想的な企画書のあり方です。
僕は「読みやすさ」に気を配って企画書を書いています。たとえば、僕が以前、自分が所属していた小説レーベル「電撃文庫」の企画書を作ったときは、まずレーベルコンセプトを説明し、次に対象とする想定読者(ターゲット)、そしてタイトルラインナップや歴史、最後に具体的なメディアミックスの実例……といった順番でまとめました。
これは、「読み手の思考の半歩先」を意識した結果です。まずレーベルコンセプトから始めたのは、キャッチコピーなどを使って印象強くレーベルを紹介できるからです。次に、「そのキャッチコピーは誰に伝えるべきか」という思考から、想定読者の説明をしました。
そして「その読者が実際に読んでいる作品例」として複数の文庫タイトルの紹介し、「それら作品の具体的な盛り上がり」に繋げてメディアミックスの実例を記述しました。読み手が「ひとつ知ったらその次に知りたくなること」を意識して項目の順番を組み立てると、心地よい「読みやすさ」を持つ企画書になります。
よい企画書の書き方2:お行儀は後回し!最初に「結論」を書く
僕は、よく他社から、担当作品の漫画化オファーや映像化オファーといった、メディアミックスの企画書をもらいます。その中には、読みやすい企画書と読みにくい企画書があるのですが、多くの場合、読みやすい企画書=よい企画書です。
よい企画書は、まず冒頭に、「キーワードは○○!」とか「この物語は××で売っていく」といった具合に、必ず「やりたいこと」が書かれています。
そんな身もふたもない記述が冒頭から書かれていると、「お行儀が悪い」印象を受けるかもしれません。ですが、だらだらと前書きやら基礎知識やらが最初に書かれている企画書のほうが、むしろ質がよくないことが多いのです。
というのも、たくさんある企画書を読んでいく際、すべてのものを最初から最後までをじっくり精読でき、総合的に判断できればベストですが、どうしても時間が足りず、かいつまんで読むことしかできない状況もあります。そんなとき、結論が最初に書かれている企画書は、そこで内容の大目的がわかりますし、その目的を達成するための詳細がこの後に書かれているということも類推できます。
企画書に行儀のよさは必要ありません。明確な意志をより迅速に伝える手段と考えるとよいでしょう。
よい企画書の書き方3:デメリットや悪いところをしっかり書く
お見合い写真やそのプロフィールなら、悪いところはなるべく隠して相手方に渡したくなるところです。企画書も同じく、「絶対に通して欲しいから、よいことしか書かないでおこう」と考えてしまうものでしょう。しかし、それは逆効果です。「見栄え良く」着飾っていることは、判断する側も見抜くからです。
僕は年々、企画書を読む機会が増えていますが、読む数が増えれば増えるほど、「よいことしか書いていない書類」はどこか納得できない、腑に落ちない感覚を覚えます(もちろん本当に欠点のない企画もありますが)。
デメリットや企画の落ち度、不安要素などがしっかり書かれている企画書のほうが、むしろ信頼感を与えてくれます。とはいえ、開き直ってやたらデメリットを書き殴ればいいというわけではありません。
たとえば、同業他社の存在がデメリットならば、それを隠すのではなく、その他社が結果を出している勝因を分析して書く、という具合に「なぜデメリットになっているか」も併記しましょう。それによって企画者が第三者視点で物事を見ることが出来ている証左となり、少なくとも悪印象だけにはなりません。
優れたエンタメ小説では、ヒーローは大活躍の前に必ずピンチに陥るもので、ヒロインとカップルになる前には必ず波乱が訪れるものです。これらのアクシデントは、その後のハッピーエンドをより盛り上げるための演出としてあえて用意されているのですが、企画書にも同じ事が言えるかもしれません。
デメリットや不安点、未完成な部分が正直に書かれていた方が、メリットや利点がより際立って見えることもあります。負の側面は、隠してもいつかは分かってしまうもの。ならば、自分がその「出しどころ」をコントロールし、利用するくらいの心づもりで考えるべきではないでしょうか。
よい企画書の書き方4:印象を決める「細部」に気を遣う
小説では、些細な表記統一に、とても気を配ります。たとえば各キャラクターの人称表もそのひとつです。女性の人称で説明するなら、「私」を汎用的な表現とすると、「わたし」は柔らかな印象、「ワタシ」は理屈っぽい、「わたくし」はお上品そう、「あたし」は天真爛漫……など、細かな違いですが、それだけでキャラクターに抱く印象はガラリと変わります。
大切なのは、一度自分でそのルールを決めたら必ず守ることです。表記不統一は、「読みにくい」という、本筋に関係ないストレスや読むテンポを阻害するノイズを生んでしまうからです。「読みにくい」は、積もり積もって「面白くない」と判断されてしまいます。
企画書も同じく、細かな部分にこそ気を遣うべきです。誤字脱字や表記不統一を避けるべしというのは、その象徴的な例に過ぎません。「細かすぎる」と思われたかもしれませんが、企画書をたくさん読んでいる人ほど、些細な部分にも目がいきます。そんなどうでもいい部分で「この企画書をつくったヤツは気が利かないな」と悪印象を抱かれるのは損です。些細な違いが致命的な判断材料にならないよう、きっちりとチェックをしておきましょう。
よい企画書の書き方5:企画が成立したあとのビジョンも描く
先ほど、僕は以前「電撃文庫」の企画書を作ったと書きました。実はその最後の項目には、「電撃文庫を手に取った(購入した)読者がどのように幸せになったか、楽しんだか」という「夢の姿」についての説明も加えていました。
その理由は、企画書がいかに見栄えよく、さまになっていたとしても、大事なのは企画が成立した後だからです。自分たちの仕事の結果が、どのように影響を与えていくのか、その時は「読者の夢の姿」が最終目的だったため、それも含めてプレゼンをする必要があると判断しました。
「そんな想像の話、無駄じゃない?」と思うかもしれませんが、企画が成立したあとのビジョンがない企画書は、小説でいうなら、エンディングがない物語のようなもので、個人的にはもったいないと感じます。
たとえば新規商品開発の企画書の場合、その商品ができた結果、どういったムーブメントが世間で起こることが理想なのか、そこまで考えてこそ、共有するビジョンも確かなものになるのではないでしょうか。
よい企画書の書き方6:企画書は必ず一晩寝かせる
企画書に限った話ではありませんが、締め切りギリギリで仕上げるものは、心に余裕がないからか、どうしても完成度が低くなりがちです。誤字脱字のチェックすらできません。理想は、一度完成させた企画書を一晩寝かせ、翌日もう一度第三者目線で読み直し、ケアレスミスを見つけて完成度を高めることです。この過程によって、新しい着眼点をみつけることも少なくありません。
これは企画書ではなく小説の話ですが、僕は大抵、最後の見直しのタイミングで作品タイトルを決めることが多いです。電撃文庫『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という作品のタイトルは、小説本体が完成してからもしばらくはまったく決まらなかったので、凝り固まった考えリセットするためにしばらく原稿を寝かせました。
そして、もう一度読み直したときに、このタイトルをひらめき、作家からも賛同を得、最終決定したのです。結果、この作品は大ヒットしただけでなく、タイトルに対する高評価をたくさんいただきました。
企画書がよくなるか悪くなるかは、ちょっとした工夫で変わります。みなさまも試してみてはいかがでしょうか?
次回の記事では「生産性の高い人と忙しい人の違い」についてお伝えします。
■ご質問への回答
> こづゆさん
> 質問ではなくお願いでもいいですか? 僕はnoteで、「アイディアを出版社に渡すだけの簡単なお仕事です」とゆうコラムを書いているのですが、そのコラムを、三木さんに読んでほしい!
→拝見しました。うーん、なんというか、「偉そう」じゃないですか(汗)? とくにコラムタイトルが、出版社で働く人間を小馬鹿にしている印象があります。もし成就したとして、そこに携わるクリエイターだけでなく、陰で支えるスタッフの人たちにも良い印象を与えないかと思いますので、気をつけた方がいいかもしれません。
> どるん。さん
> 1.note経由でお仕事を受ける可能性はありますか?
> 2.新規依頼について、費用としておおよその目安はありますか?1時間当たり○円など?
> 3.契約作家を増やそうとする場合、どのような手段をお考えですか?
→1については、あります。
2については、一概には言えないのですが、そういう時間換算ではありません。
3については、できれば自分の目で探し出して、お声がけをするということをやりたいですね。その方法は、まだまだ模索中です。
> room1977さん
> このシャンプーとコンディショナー欲しい。
→うちにももう見本はないのよね~……。
> すずきさん
> 三木さんは仕事の合い間にさまざまな映画や小説などを鑑賞されていますが、その作品をどのように選んでいるのか知りたいです。賞をとったものから選んでいるのか、ランキングから見つけたものなのか、知り合いのオススメからなのか・・・ぜひ参考にしたいです
→これは皆様にお勧めしたいのですが、「自分が頼れる、自分と波長の合うアンテナ」を見つけると良いと思います。僕の場合は、僕とエンタメの趣味の波長が合うセンスの良い友人がアンテナ役です。もちろんアンテナはサイトや雑誌でも構いません。自分のお気に入りのブロガーを見つける、というのも手だと思います。ただランキングだけでは、画一的になりすぎるので、個人的にはあまり信用していません。
■今日のストレートフォト
2016年3月に、アメリカのシアトルで行われたアニメイベント『SAKURA-con』に、『ソードアート・オンライン』チームで参加したときイラストレーターのabecさんが描いた色紙です。すみません、これが本当のラスト! キリトとSDアスナさんです! abecさん、本当にありがとうございました!!
■『ストレートニュース』
すみません! これを読んでいただいている皆様にご相談です。ブログ書き続けていると絶対にネタが枯渇するので、心優しい閲覧者の皆様、質問とかいろいろ送ってください。それに答える形で記事を書いていきたいと思ってまして……!! 罵倒・糾弾・誹謗中傷も大歓迎です!! ヘイトを浴びるとなんか気持ちいいよね。よろしくお願いいたしますm(_ _)m