【グッドプラン・フロム・イメージスペース】Episode.2「シャケは成長の為に」(No.0041)
言葉を人に話すとき、伝える内容を考えて話す場合とただのノリやテンションで話してしまうときがあるかと思います。
前者は言語ですが後者は「鳴き声」だと思います。
音楽のようなものでしょうか。
彼らは夕飯が終わりました。
男は明日炊く麦飯を取りに食料庫へ行きました。
女は食器をかたし洗い始めます。
子供が女の後ろに付いてきて背中に向けて話しました。
「シャケの皮をもう一枚ください」
「はなこちゃんご飯終わったでしょ?だめよー」
子供はまっすぐに立ったまま、話を続けます。
「はなこにもう一枚シャケの皮をください。おねがいします」
女は顔を崩して洗い物を続けながら振り返りつつ
「だーめ、明日にしましょーねー」
クスクスと笑みをこぼしながら伝えます。
子供は尚もまっすぐに立ちまっすぐに女の頭を見つめたままグーを握りしめ堪えています。
「いけません」
麦飯の袋を抱えた男が言いました。
「ほらおとーさんもダメって言ってるわよー」
女が言いました。
「違います、私はあなたに言ったのです。座りなさい。」
男はキッチンに座り女も洗い物を止め、向かい合って座りました。
「妻、あなたは悪い事をしました。」
「夫、何がいけなかったのですか。」
「あなたは子供が真剣に話しているのに軽口を聞きました。」
「はい。」
「我々大人にとって、子供や犬や猫の振る舞いは愛らしく見えます。」
「はい見えます。」
「しかし彼らは真剣なのです。彼らの言動が幼稚で愛らしく見えてもその表現方法しか知らないし出来ないのです。」
「はい。」
「人の真剣な訴えに対して軽口を聞きボンヤリと受け答えをするのは相手を軽んじている証です。自分の真剣な訴えを軽くあしらわれた人は心を傷つけます。今あなたは私達の愛しい子供の心に傷を付けました。」
「すみませんでした。」
一連のやり取りを呆然と子供は見ていました。
話をやめた女は座ったまま向きを変えて子供と同じ目の高さになり、真正面から向き合いました。
子供が戸惑っています。
男は言いました。
「子供、あなたの母に今一度お願いしてみなさい。」
子供はグーを更に強く握りしめました。
「お母さん。はなこにもう一枚シャケの皮をください!」
「ダメです。」
さっきより厳しい声に子供は驚きました。
子供はすぐに男の顔を見ました。
「あなたの母に従いなさい。」
助け舟を期待していた子供は、まさかの裏切りで泣き出しワーとなりました。
女は目の前で泣く娘の全身から溢れる思いを、厳しくも優しい眼差しで見守り真剣に全てを受け止め続けました。
次の日、父と母は自分の分のシャケの皮も愛する娘にあげました。
とても喜びました。
おわり
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