【グッドプラン・フロム・イメージスペース】Episode.5 「今から数年後・・・」第11章 Part.2 (No.0223)
Part.1のつづき
下手側から現れた男たちは講演台を挟んで反対側にいるミドリミチを、やって来るなり黒い32口径スナブノーズで撃ち始めました。
2丁の拳銃による計12発の乾いた発砲音が撃ち終わるまでのその僅かの間に、舞台上で唐突に繰り広げられた惨劇を目の当たりした聴衆達は即座に行動を起こしました。
全ての聴衆が隣り合う者たちとアイコンタクトと、一言二言のやりとりで役割を決めました。
全体の3分の1が避難と救援のために外へ走りだし、また3分の1がスマートフォンを取り出して撮影を始め、残りの3分の1の半分が通報をし、残りの者たちが壇上へと駆け出しました。
新しい政府の時代では、特に若い者たちはこのような事態への演習を充分に済ましていましたから誰一人慌てることなく成すべきことを成せました。
壇上で男たちが全ての弾丸を撃ち終え目の前に白煙が立ち込めたなか、黒い目出し帽ごしに標的であるミドリミチの姿を確認しようと煙を手で払いながら一歩ずつ近づくと、そこには全く無傷のミドリミチが強力に彼らを睨みつけたまま立っていました。
男たちは顔を見合わせ、次の一手を検討している刹那にミドリミチは背中に用意していた警棒を取り出し、彼から見て右側に位置する大柄の男へ駆け寄りその警棒を振り下ろしました。
しかし、その動作が緩慢なうえに大げさであったため、ミドリミチの放った警棒の一撃は大柄の男にあっさりと左手で掴まれてしまいました。
ミドリミチは全身の力を込めて強く警棒を引っ張りますが、大柄の男は相当に力が強いようで全く警棒を離しません。それどころかミドリミチが両手で引っ張っても男は左手一本で警棒を引き寄せ、ミドリミチはズリズリと身体ごと引きづられる始末です。
ミドリミチは賊が警棒をしっかりと掴んだことをこうして確認した後、警棒の握りに取り付けられたスイッチを押し、男に7万ボルトの電流を浴びせました。
男は強力な電流を浴びた衝撃で、固まったまま垂直に飛び上がりそのまま壇上に倒れました。
自分の胸元に手を入れ、何かを取り出そうとしていた小柄な方の男は、崩れ落ちた相棒を確認するなり、すぐにしゃがみ込み足元へ手をやりました。
男はアンクルホルスターから予備の22口径を取り出し、顔を上げて講演台の向こうにいる標的へ視線を向けたところ、そこには誰も見えません。
しかし首を上げ更に視線を上に向けると、そこには舞台を照らす強力なライトを背中に受け、講演台から飛び上がって警棒を振り上げるミドリミチの姿がありました。
ミドリミチは講演台から飛び降りる勢いに合わせて警棒を振りおろし、体重を載せた強烈な一撃を賊の頭部へ叩き込みました。
聴衆が素早く判断し、壇上へ上がって講演者を助けようとするその僅かな間に、初老のミドリミチは自らの手で2人の賊を完全に倒してしまいました。
聴衆は壇上へ上がるなり、すぐに倒れた男たちを取り押さえましたが、もう全くその必要はありませんでした。
そこへ物音と救援の声で駆けつけた警備員たちが会場へ飛び込み、取り押さえている聴衆に代わり犯人の身柄を押さえつけました。
「マスクを外せ! 上着を脱がせるんだ! ボディチェック! 持ち物を奪え! 足と手を拘束しろ! 」
ミドリミチは警備員に鋭く指示を出し、警棒を背中に戻しました。
警備員はその指示に従い行動しました。
ミドリミチはスマートフォンを取り出し、目出し帽を外された犯人の顔と全身を撮影し始めました。
それを見た壇上にいる聴衆たちも同じようにしました。
警備員がボディチェックで押収した犯人の持ち物が床に投げ出されます。
財布、スマートフォン、使用した拳銃、身体に直接ガムテープで貼り付けた刃渡り約10インチのククリナイフ、22口径のポケットピストル、プッシュダガー、クイックローダー2つ、ムーンクリップ4つ、自害用と思われる手榴弾・・・
ミドリミチは犯人の財布を取り、中から身分証などのカードを取り出して床に並べて撮影します。
次に犯人のスマートフォンを確認し、それぞれの指紋を使ってロックを開けるとすぐに指紋認証からパスワードロック「0000」へ変更し、メールとアドレス帳をゆっくりとスライドさせながら自分のスマートフォンで動画を撮影しました。
ひと通り撮影が終わるなり、ミドリミチは新しい政府と新しい警察へ直接情報をやり取りできる専用のアプリを使い、今撮影した画像と映像を送り情報の保存と共有を行いました。
それを見ている聴衆たちも同じようにしました。
そのやり取りを行っている間に、今度は通報を聞きつけた警察と特殊部隊が突入し、素早くミドリミチを保護すべく武装した隊員たちが彼の元へ駆けつけました。
この会場の外では特殊部隊の車両が7台やってきて、付近の警護と犯人組織の仲間がいる可能性を考え捜索が行われています。
いつの間にか頭上にもヘリコプターが数台飛んでおり、同じように会場の安全を確認しつつ、不審な車両や人物の捜査が行われていました。
部隊の責任者が壇上へ上がりミドリミチの身体を心配しましたが、賊の弾丸が全て外れていましたから全くの無傷でした。
責任者はすぐにこの場を自分たちとともに離れて安全な場所へ避難するようにと話しましたが、ミドリミチはそれを強く断りました。
「私は無傷だ。それにこの会場で行われるべき講演はまだ途中である。もしこの講演が途中で終わったとしたら、私の命こそ取れなかったものの、こうして真実を伝える行為の妨害には成功したということになり、悪人側には手柄になってしまうだろう。」
その言葉を聞いた責任者は納得し、自分たちの部隊に無線で連絡を行い、更に倍の人数をこの会場近辺へ配置し、講演が終了するまで誰にも妨害をさせないように安全を確保することを指示しました。そして騒音で講演に支障をきたしてはならないのでヘリコプターを遠ざけるようにも伝えました。
こうして物々しい騒動が起きてから5分後に、講演が再開されました。
ミドリミチは賊に襲われた事実など無かったかのように壇上で平然と立ち、聴衆が元の席に戻るのを見届けていました。
会場の中は聴衆の周りをぐるりと囲むように武装した警官たちが配置されています。
また、壇上には特殊部隊の隊員が複数名おり、さっきとは打って変わり物騒な雰囲気になっておりました。
そこへ舞台袖からスタッフが現れ、武装した隊員に止められた後、ミドリミチのもとへアイスティーを届けてくれました。
ミドリミチはこれ幸いとばかりに顔をほころばせ感謝して受け取り、すぐに一息で飲み干して更に彼にお代わりをお願いしました。
その姿を見ていた聴衆も、彼と同様に顔をほころばせ穏やかな笑いが場内を包みました。
「人は真実によって成長し賢くなり、嘘によって道を誤り愚かになります。これには年齢性別は一切関係なくいつでも起こりうるものです。
そして嘘偽りを並べ立てるものたちは常におりますから、そのためにも人は常に真実を求める必要があるのです。」
ミドリミチはさっきまでの騒動が無かったかのように話し始めました。
2人組のヒットマンに至近距離で12発も弾丸を放たれたのに、その言葉にも仕草にも一切の恐れも不安もありませんでした。
「そして人が嘘偽りに溺れ、愚かになることで真っ先に苦しみ死んでいくものがあるのです。
それが子どもたちです。
トンネルのカナリヤのように、何か危機があったときはまず最初に一番弱いものが苦しみ、死んでいくのです。
しかしその弱い者たちは一番罪がありません。
しかし苦しめられ死んでいくのです! 」
ミドリミチはフリーの講師として長年生徒の確保や雇用契約の継続など、生活の為に一体どうしたらうまくやっていけるだろうか?と苦労を重ねながら研究をしてきました。
そしてその経験から現在のような授業スタイルになっていったのでした。
挨拶もなく、いきなり本題から入り、前置きや寸止めは一切なく大切なことだけをドンドンと矢継ぎ早に伝えていく方法になったのです。
本日は講演なのでやっていませんが、授業などの場合は生徒たちにドンドンと質問を問いかけて答えさせる方法をとっています。
誰もお客様にさせず当事者、参加者にさせるのです。
「大人が愚かであると子供が死ぬのです! これは時代も国も関係ありません。永遠に続いてきた不幸な事実なのです。
先ほどお話したあの愚劣極まりないウイルス騒動のとき、ゲームやお酒や食べ物や動画に染まっていた愚かな大人たちのせいで、一体どれだけの子供が苦しみ殺されたことでしょうか!
子どもたちは自分で自分を守ることが出来ません。
だから保護者がいるのです。しかし、その保護者たちが愚かであったなら、一体誰が彼らを守るのでしょうか?!
そうです、誰も守れないのです。
だから殺されました。
幼い子どもたちが自殺に追い込まれていきました。
当り前です。街を歩けばあまりにも愚かな大人たちが、誰も彼もが真夏でも強風のときでも麗らかな春日和でも、湿気の舞う雨の日でも、路上でマスクをしていたのですよ! 気が狂っているのがよく分かるはずです。
あの時代であっても、そのウイルスなんて存在しないことがすぐに暴かれていました。そもそもちょっと考えれば誰にでも分かるものなのです。
与党政権のものたちが誰一人としてまともにウイルスを警戒せず感染もせず、連日高級レストランやホテルなどで税金を使って飲み食いして遊び呆けていたのですよ。年末には芸者を呼んで忘年会もしていたのですよ。
どうして彼らには感染しないのでしょうか?
ガバガバに空いた紙っ切れのマスク一枚で防げると本気で思っていたのでしょうか? 忘年会で芸者がマスクをしていたのでしょうか?
それなのにどうして地方都市の庶民たちは電車やスーパーや路上で一日中マスクをつける必要があるのでしょうか?
与党政権に属する政治家には感染しないという忖度ウイルスなんて、どうやって信じることが出来るのでしょうか?
例年みんながかかっていたはずのウイルス性の病気はこの年から激減しました。バカバカしいです。単にすり替えているだけです。
挙げ句にはそのウイルスの存在を証明することが、世界中の誰も出来ないのです。論文が存在せずしてワクチンを作り、子供にまで打っていたのですよ。どうやって作成できたのでしょうか?
しかも前例の無い急ピッチの作成なうえに、これによって人体に悪影響があっても訴えないという書類にまでサインをさせられていたのです。
そのウイルスの感染を識別する検査は、10種類以上のウイルスで陽性結果を出すのです。つまりどのウイルスに反応したのかは分からないのです。
でもこれだけがこのウイルス騒動の根拠だったのです。
何しろ論文すら存在せず、誰一人として分離に成功したものもいなかったのです。
それらしい不気味な画像が流布しましたが、それはただのCGです。
しかしCGとも言わず、雰囲気と圧力で人々に思い込ませ続けたのです!
そんなことを本気で信じることが出来ますか?!
今ここにいる方たちには不可能でしょう。当時の私にも勿論不可能でした。しかし、多くの人々は本気にしたのです。
そして真実を知っている者たちを虐めました。
マスクをせずにいる者たちをイジメ抜き、睨みつけ嫌がらせをしました。
いいですか皆さん。これが愚かな人たちというのです。
テレビを見て、ゲームをやって、動画を見て、お酒を飲んで、食べ物や見た目にだけ人生を使っているものたちというのは必ずこうなるのです。
それがこの国の人々の大多数だったのです!
皆さん、このことは絶対に忘れないでください。
これはいつでも起こりうることなのです。
この国にはそういう下地があるのです。恐ろしいことですが、これを忘れた時は、また起きると思っていただきたい。」
壇上の上手側には先ほどミドリミチへ向かって発砲された弾丸を回収する鑑識がおります。彼らも時折手を止め,思わず振り返って彼の話を聞いておりました。
「私は最初にお話しました。それは悪人との闘い方。闘う時の武器についてです。その武器についてお話します。」
ミドリミチはホワイトボードの空欄に大きく、後ろの人でも見えるように文字を書きました。
『思い』
Part.3につづく
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