【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「永遠のお客様 :前編」(No.0100)

 マモルは児童館の催し物で模擬店をやりました。

父兄や職員の作るホットケーキを盛り付けたり、お客さんに渡したり、小銭の受け渡しなどを手伝いました。
とても楽しかったし、目当てのホットケーキも満足でしたが、この経験はマモルに色々な考えを思わせたのです。



「マモルはとても良い経験をしたものです。私はその楽しみを味わう事が出来ませんでした。全く羨ましいです。」

やや不貞腐れたヨシオは愚痴をこぼしながら、マモルが良き友人の為に多めに残しておいたホットケーキを頬張っています。

「ヨシオ。君は先約があったのだから仕方ありません。それにヨシオの分を残しておいたのです。」

マモルは自分用とヨシオ用のホットケーキを児童館の職員さんから貰っていました。
トッピングもお客さんより豪華に盛りました。

「マモルがホットケーキに塗れてお祭りを楽しんでいた時、私は塾でした。」

マモルは冷蔵庫からよく冷えたミルクを出し友人に注いであげました。

「ヨシオ、確かにホットケーキを売ったり盛ったりは最高に楽しかったですよ。でも今回の経験は楽しさだけでは無かったのです。ある意味、ヨシオの方が幸せなのかもしれませんね。」
「なかなかに聞き捨てのならない話しぶりですね。何があったのがお話いただきましょうか?」

ヨシオは口に付いたチョコレートホイップクリームをハンカチでゴシゴシ拭いました。

「ヨシオ、私と君は同じ人間です。」
「当然ですね。私達以外もみんな同じ人間ですよ。ただ私達はホットケーキの好みもほぼ同じなのです。」
「ええ、しかしどうやらこんな崩し難い事実も、案外簡単に変えられてしまっているのです。」

マモルはトッピングのスライスしたイチゴをフォークですくい取り一度に食べました。
その思い切りの良い食べ方にヨシオは驚き、真似しようと考えましたが、勇気が出ませんでした。

「ああ、つまりマモルは同じ人間同士では好ましくない様な出来事を経験したということですか?」
「そうです。そして色々な考えが浮かんできて複雑な気持ちを抱えているのですよ。」

ヨシオはスライスしたイチゴを一枚だけ食べました。
しかし大粒のイチゴなので一枚でも充分に爽やかな甘みを楽しめます。

「ヨシオ、私はこの美味しいホットケーキを友人である君に食べて欲しいと思いました。」
「うむ」
「このホットケーキは焼かせてはもらえませんでしたが、しかし生地を混ぜたりはしたのです。盛り付けだって手伝いました。みんなが一生懸命に作り、売ったのですよ。」
「私にはその言葉に嘘偽りが無いことがわかります。このホットケーキには愛があるのです。」
「ヨシオは良いことを言います。そのとおりです。」

マモルは1切れを頬張りながら言いました。

「私に限らず、このホットケーキに関わったものはみんな思っていたのです。このホットケーキは、これを作ることの素晴らしさや大切さ、価値がわかる人に味わって欲しいと。」

ヨシオはよく冷えたグラスのミルクをこくこくと飲み干しました。

「はぁ、全くよくわかりますよマモル。全くそのとおりなのです。これほどのホットケーキをおいそれと軽々しくいただいてはならないのです。これは良いものなのです。」

マモルはまた友人にミルクを注ぎました。

「うれしいことを言ってくれます。しかし、私はホットケーキを売っている時に、その中にはこの価値がわかっていない、つまり相応しくない存在もいることに気づいたのです。」


つづく


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