【2つめのPOV】シリーズ 第3回 「仕切り」Part.3(No.0162)


パターンA〈ユスタシュの鏡〉


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 今の暑い季節で無くたって、何時でもアイスクリームは人気です。


子供はもちろん、大人も大変好んで食べるお菓子です。居酒屋などの大人達が集う場所にもアイスクリームは人気メニューとして並んでいるほどです。
華やかな街にはアイスクリーム専門のお店があります。各地の観光名所にはその土地ならではのフレーバーを施したアイスクリームやソフトクリームが名物として定番で、映画「ローマの休日」でもジェラートが登場します。


そしてこの郊外の街にも、みんなに人気のアイスクリーム屋さんがありました。

これはそこでのお話です。


このお店は沢山のフレーバーがある事が売りのお店で、全種類試すのも大変なくらいでしたが、どれも美味しそうにショーケースを兼ねた冷凍庫から綺麗な色艶をお客さんに見せていました。
お店の外を歩く人達もガラス窓越しについつい覗き込んでしまうくらい無視できない人気スポットです。


沢山のフレーバーがありますが、そこでもやっぱりシンプルなフレーバーが人気でバニラ、チョコ、ストロベリー、チョコミントなどなど昔からの味を選ぶお客さんが多くいました。ですからこれらの人気フレーバーはショーケースの中の区切りを2つも3つも使って常に売り切れる事が無いように店員さんたちによって用意がされていました。


店員さんも店長さんも毎日各種のフレーバーアイスたちを大切に管理していたのですが、フレーバーアイスの中には店員さん達の気持ちを理解せず勝手な振る舞いをするものたちも現れたのです。


ある日、一番人気のバニラの横に不人気のフレーバーが並べられました。
これは人気フレーバーの横に並べればお客さんもきっとこのフレーバーアイスも気にしてくれるだろうという優しい気持ちからでしたが、この不人気のアイスクリームは来るお客さんがみんなして自分ではなく隣のバニラを選んでいく事が我慢ならなくなっていたのでした。


夜になりお店が閉まった頃、この不人気のアイスクリームは隣のバニラに言いました。


「なあ、あんたはいつもお客さんに選ばれて羨ましいな。」
「え、そうかな。他のフレーバーだって沢山減っているよ。向こうの端っこにいるチョコなんて大分減ってるよ。僕なんか全然さ。」
「いいや、あんたのほうが減ったよ。大したもんだな。本当に人気なんだな。全く羨ましい。」
「あはは、有難う。君だって味のわかるお客さんは買っていってるじゃないか。そんなに僕を羨む事はないと思うよ。」
「俺なんか変な客しか買っていかないよ。子供はみんな君やチョコたちばかりさ!  なあ、ところで相談なんだが・・・」
「ん?なんだい?」
「ここのお店はフレーバーの種類の豊富さが売りじゃあないか?」
「うん、そうだね。」
「でも、ちょっとマンネリじゃあないかな?」
「え? そう?・・・」
「そうさ。何しろ君やチョコみたいな単純なものばかりが売れていくってことは、他のフレーバーが飽きられているって証拠じゃないか。」
「うーん、それは違うんじゃないかなぁ・・・わかり易さとか好みとか・・・」
「いいやそうだね。ここいらのお客はみんなこの店のフレーバーに飽きちまったのさ、間違いないね。  でさ、そこで相談なんだが、一緒に混ざらないか?」
「え?!」
「だから混ざるんだよ。僕のフレーバーと君のフレーバーが混ざれば、君は更に人気になるはずさ。もうチョコ味なんか敵じゃないよ。」


そう言うと、この不人気フレーバーは区切りを跨いでバニラのエリアに入ってこようとしてきました。


バニラはビックリして必死になって止めました。


「おいおい!それは辞めてくれ! 冗談じゃないぞ、何を考えているんだ?! そんな勝手なことが許されるわけ無いだろ? 仮に混ざるとしてもそれは君の判断じゃ駄目だ。店員さん、いやこれはもう店長さんじゃないと出来ないことだよ。それをただのフレーバーアイスが決めることは認められないよ!」
「何を言ってるんだ?怖いのか?なあに心配要らないって。大ヒットして売れちまえば店長だって大喜びさ。在庫が捌けて一石二鳥さ。」
「いやいやそんな事は無い!僕はバニラであって君じゃないんだ。間違えるなよ。君は君の役割があるじゃないか。それと同じで僕には僕の役割があるんだ。それだから君と僕の間にはこの区切りがあるんだろう? それを勝手な事を言って区切りを無視して跨いでくるなんて絶対に許されない。いいから自分のところに戻るんだ!二度とここを跨いでくるな!」


普段温厚なバニラの大変な怒りっぷりに、傲慢な不人気フレーバーも流石に諦めて戻っていって、それきりバニラに話しかけては来ませんでした。


バニラは安心していたのですが、何やらゴソゴソとささやき声のような話し声がバニラの耳に入って来ました。しかし何を話しているのか聞き取れませんでした。


Part.4につづく

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