【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.1(No.0175)


パターンA〈ユスタシュの鏡〉


[side:D]


 もう、時間の感覚は無かった。


あるのは右手に握られたスナブノーズのリボルバーに取り付けられたクルミ材の握りが放つ暖かな感触だけだった。
ポケットにあるのは満タンのスピードローダがあと1つと、バラの9ミリ弾が僅かだけ。


もうだいぶ前からこのショッピングモールの空調は止まっているらしい。
風が無く、熱気がまとわりつく。

分厚いガラス窓から入ってくる日差しから今が昼間なのは解るが、しかしこの施設内はとっくに照明が途絶えており、奥まった場所や非常階段では暗闇が広がっていた。


今は何の物音も聞こえない。
さっき倒した『ヤツ』もとっくに活動を終えていた。


始めの頃は一匹に何発も使ったが、さすがに今はもうこの程度なら一発だった。


だが今は一発でも惜しかった。
相手にせず走って逃げればよかったが、こっちも疲労が激しい。
この場所は休むには良かった。


この先に行けばアイスクリーム屋がある。
あの冷凍庫がまだ生きていれば、アイスクリームがたらふく食えるだろう。
しかし照明も落ちてだいぶ立つし、アイスクリームの冷凍庫だけが無事と考えるのは少々都合が良い考えだろうか?

だが、2011年の地震の時、その後停電が行われたときも冷蔵庫の中身は全て駄目になったが、冷凍庫は2,3日は無事だったという話を聞いたことがある。


よし、行くか。


俺は歌い叫ぶアホみたいな店員の居ないアイスクリーム屋を目指して喫煙所のドアを開け歩き出した。

突き当りを曲がればすぐにメインの通りに出れる。
その先にお目当てがあるのだが、ここは奴らの巣窟だろう。
しかし、ここを突っ切らなくてはチョコミントには出会えないのだ。

俺は走った。
だが疲労のせいなのか?
何故か上手く走れない。

まさか、知らぬ間に『奴ら』に噛まれでもしたか?!

俺は両手で構えた銃を下に向けたまま走りつつ、半袖から出ている腕を確認するため目線を下に向けたが、腕に傷は無かった。

どうやら無事らしい、と安心して目線を前に戻すとお目当てのアイスクリーム屋の手前に設置されているソファの横に『奴』がいた。

くそ、どうする?!

左右に素早く視線を向けるが、他には見当たらない。
ならば、撃ち殺すか?!

俺は走る速度を落とし銃を視線の高さに上げようとしたが、その時になってある事に気づいた。


さっき撃ったあとに残弾の確認をし忘れていた。


そういえば心なしか何時もより銃が軽い気がする。

もしかして空か?

いや、そんなことはない。
たしか満タンからさっきの奴を撃ち倒したはず。だから今はまだ5発残っているはずだ・・・

でも・・・


俺は立ち止まり、シリンダーをスライドさせた。

良かった。

きちんと計算通り5発残っていた。


俺はすぐにスライドを戻しつつ視線を上げた。


!?

なんてことだ。
さっきまでソファの近くに立っていた『奴』が、俺に向かって突進してきているのだ。


しまった!
こいつは走るタイプの『ゾンビ』だった!



Part.2につづく

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