【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.9(No.0183)
Part.8のつづき
遅れて来といて大声を張り上げる無遠慮なこの若カニに、少々目くじらを立てる古カニもおりましたが、しかしその質問に答えるられるカニはおりませんでした。
この若いカニはズイズイと集会の中へ中へと進みながら声を張って皆に尋ね回りましたが、やはり答えられるものは誰も居ない。
やがて長老の前まで来た若カニは
長老さん、どうやらこの中には誰も理由を知るものはおりません。
理由がわからないことには対処も出来ないのでは無いでしょうか?
と話しました。
すると長老は少々不躾なこの若カニの話に深く頷き、
では解るものを探そう
となりました。
そして、さっきの韋駄天に
今一度隣の磯まで急いで行って、この理由がわかるものに話を聞いてくるように
と言いました。
一息ついてた韋駄天は、冷えた海水を一杯飲むなり、ヤレヤレと思いつつも8本の足を慌ただしく動かして飛んでいきました。
やがて戻った韋駄天の報告によりますと、同じように隣の磯でも理由を探し回っているそうですが、しかしまるでその理由がわからないとのことでした。
韋駄天はヤドカリの長老とも話をしており、どうも向こうの長老が言いますには
我々ヤドカリが貝を被るのは、それが家であるからだ。我々はカニ達のように硬い殻を持っていない。だから貝殻を拾って被るしか無いのだ。それなのにカニ達が我々から貝殻を奪っている。それは我慢ならない。我々の子供達から貝殻を奪わないでほしい
と言われたそうです。
彼らの怒りも当然です。必要な者たちに行き渡らないうえに、不必要なものたちが奪っている有様なのですから。
韋駄天の話を聞いた若カニは、今の話から自分達には貝殻は不要である事を改めて知りました。
しかし 不必要なのにも関わらず、みんなが我先にと奪い合うという事は・・・
と、考えたところでこの若カニ、ポンとハサミを打ちまして
そうだ 夜中の声が原因である!
と、またまた大きく声を張り上げました。
その若カニの声に皆がハッと目を覚ましました。
思えばあの声が聞こえるまでは一度だってこんな事は無かったのです。
ならばあいつらが原因である。
あいつらは一体誰なんだ?
どうしてこんな事をしやがるんだ?
と、皆が話し始め、集会全体がザワザワ泡々と騒がしくなりました。
長老は
では今夜、その声の者たちを捕まえてやろう
と皆に言い、長老や若カニ達が捕り物の計画をその場で練り始め、それぞれが慌ただしく準備を始めました。
そして、月の光るその日の晩、またしてもいつもの声が聞こえてきました。
危ないぞー 気をつけろー
危ないぞー 気をつけろー
いつもどおりの声でした。
しかし、この声が夜の磯に響いたその瞬間、周りに潜んでいた若カニ達が一斉に声の主たちに横っ飛びかかりました。
声の主たちの姿は暗い上に、コイツらも貝殻を被っているのでハッキリしませんでしたが、弱々しいながらも月の光に照らされてハサミの存在は確認できました。
どうやら彼らもカニのようでした。それも思ったより数も少なかったのです。
磯の岩陰から一斉に現れたカニ達によって、この声の主たちは次々と取り囲まれ、路地に逃げ込んだ者たちも、勝手知ったる地元のカニ達にアッサリとハサミうちとなりました。
彼らを一匹ずつ昆布で締め上げた後、長老の元へと連れていきました。
Part.10につづく
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