【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「雛鳥のルール」:中編 (No.0131)

 しかしまた数日後に同じ事が起きたと言い始めました。

今度もみんなの記憶に無いうえに、弟も同じようにお腹を空かせた雛ですから、流石にそうは簡単に餌を差し出せません。

ついに餌の奪い合いで兄と弟が揉めだしたのです。


親鳥達もなだめてみたり手をかけてみたものの、取り分け兄の雛の怒りは収まらず、仕方なく父鳥の餌をクチバシの短い兄の雛が貰い、母鳥の餌を足の大きな弟の雛が貰うルールを設けました。


親鳥からすればどちらも愛しい子供なので仲良くしてほしいものですが、どうもそうはいかず、またノンビリとしているわけにもいきません。

この近所は宅地開発が年々進んでおり、空き地や野原はどんどんと減っているために餌となる小虫はあまり多くないのです。また他の家族もこの近辺には沢山いて、どの親鳥達も必死になって雛たちの餌の確保に駆けずり回っているのです。


同じ家族ですが、理想を押し付けてはいけませんから親鳥達も泣く泣くこのルールに従うことにしたのです。


毎日毎日、雨の日も風の日も親鳥達はそれはそれは必死になって餌取りに飛び回りました。


親鳥達の餌を待つ間も、この兄弟たちは打ち解ける事はありませんでした。特に兄であるクチバシの短い方は、やれここの線からこっちに入るなとか、この抜け毛はお前のだからそっちで片付けろだとか、またしても色々と細かなルールを押し付けて来るのでした。


足の大きな弟はこれ以上揉めても困ると思い、それらのルールを逐一受け入れていきました。


この巣は親鳥達が出入りしやすいところに作られていますので、駐車場の入り口から強い風が吹き込んできます。


クチバシの短い兄は風下を自分の場所だと喚き散らし、こっちは寒いと文句を言う足の大きな弟にギャアギャアと屁理屈を言って風上を押し付けました。


親鳥達も足の大きな雛鳥が寒がっているのをとても気の毒に感じましたが、毎日何百回と餌取りに飛び回るために何もしてやれませんでした。


そしてある日、この家族にとって、特に足の大きな雛鳥にとって大変不幸なことが起きてしまいました。


母鳥がカラスに捕まり死んでしまったのでした。


この訃報は、朝一番の餌を取りに行った親鳥達の帰りがとても遅く、兄が痺れを切らし弟の場所が汚いから自分のところにまでチリや羽毛が入ってくるのだからお前がこっちの場所も掃除しろ、と文句を言っているときに、やっとの事で帰ってきた沈んだ表情の父鳥の口から聞かされました。


それを聞くなり2羽の雛鳥達も青ざめて黙り、その場で崩れました。


しかしその沈黙を早くも破ったのは、いつもやかましい短いクチバシでした。


兄の雛鳥は、母鳥の不幸を嘆くのでも父鳥の悲しみを慰めるのでもなく、父鳥の取った餌は約束通り私だけのものであるからお前にはやらないぞ、とメソメソと泣いている足の大きな弟の雛鳥に強く言い放つことでした。


この期に及んで自分の餌の心配を第一にするなんて、と弟も父鳥もショックを受けました。


流石にそれは出来ない、そんなことをしたら弟の雛鳥は飢えて死んでしまう、と父鳥は兄の雛が言うことを強く否定し、すぐさま悲しみを拭い去るかのように巣から飛び立ちました。


つづく

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