【2つめのPOV】シリーズ 第2回「手」Last Part(No.0159)

パターンD〈ホロウマンのネガフィルム〉


いや 知らなかった

ずっと ずっと 知らなかった

全く知らなかったんだ いや本当だよ オカシイと思うかも知れないけどそうなんだ

ああ たしかに 自分のことなのに 知らないなんて言い訳にならないだろうな

でも 本当なんだ 想像すらしていなかった


ああそうだよ 確かに見たことはあるさ そういう人は沢山見てきたよ そりゃそうさ 山ほど見てきた 誰だってそうだろう こんな世の中じゃそんな奴ばっかりだ


何処行ったってそいつ等はいたさ 

俺はそいつ等をどこかで馬鹿にしてすらいたよ

ああ 今なら正直に言えるよ 本当だ

どこか下に見ていたさ 情けない奴らだって

弱い 根性の無い奴らだって


でも今じゃそれがどんなに傲慢な事だったかが解るよ

偉そうに何言ってんだって思うよ その頃の自分自身を思い出すと怒りやら恥ずかしさやらで冷静になれない程だ


おい お前はそうやって笑っているが そんな態度こそが 以前の俺ソックリなんだよ 

そうやって世の中を俯瞰してニヒルに決め込んで どんな事にも気持ちを許さず頑なにしたその姿勢だ


それこそ前までの俺だ ああ こうして客観的に見ると何だか恥ずかしさ以上に哀しいな ああ 哀しさの方が強いや 全く自分自身が見えてないのが解るよ ああ そうだろうな お前にはこういう俺の態度は気に要らないだろうな それこそ傲慢に 生意気に見えるだろうな


でも滑稽に見えるんだよ だってあまりにも幼稚に見えるから 頑なな心は恐怖ゆえだろ 怖いから気持ちを見せないように 隠す為に気を配っているんだ でもどうしても出す瞬間もある だって本当は出したいからな そして出したら今度は呆れるほどガキなんだ それが滑稽に見えるんだよ


いや 怒るな よせよ そうじゃない そうじゃないよ

お前を馬鹿にしているんじゃない


今言ったことは 要は以前の俺の事だよ


つまり 誰でも同じって事なんだ そうだろ 同じようにして生きているんだから 同じようになるに決まっているだろ 叩こうが刻もうが丁寧に整えようが 最後にミキサーに入れちまえばみんな結局ジュースになっちまうのと同じなんだよ


だから 俺やお前に限らない 同じ時代に生きている皆がそうなんだよ 結局一緒 お前や俺と同じなんだ


それだから俺には他の奴らの気持ちも良くわかる そのつもりだ まあ 確かにこういう考えは少し傲慢かも知れないけどな 


えっ 何が言いたいかって だからさ 俺がそうだったように みんなもあるんだよ どんな奴の中にもあるんだ でもそれに気付けないんだよ 気付けないようにされてるんだ その辛さにすら気付けないんだ だから何時までも解決なんかしないんだよ


つまり部屋に虫が出たようなもんさ お前どうする

そうだ スプレーやらスリッパやらで対処するだろ

そうするよ 誰だってな 


でも もし虫が部屋にいるのに その存在に気付けてなかったら どうする


ああ ははは そうだな そのとおりだな 存在に気付けてないなら 無いのも同然だから気にしないか 確かにそうだな 


でも 時々 足音がするんだよ ガサガサって 姿は見えないんだ でも気配はするって訳だ


いいか つまりな 気付けないっていうのは 認識すら出来ない事なんだから マイナスなんだよ 向こうからは見えているけど こっちからは見えないんだ 


でも 確かに存在しているんだ でも何の対処も出来ない 


虫の話で云えば 安心して部屋に居たいのに 何時でも何か分からないモノがウロウロしてたり 自分にまとわりついていたりするって訳だ テーブルに出した食べ物だって 安心して食べられるかわかったものじゃない


でも 何の対策も出来ない 


これが皆の状態なんだよ 少し前の俺もね


辛いだろ そうさ苦しくって当然さ


でもな ちょっと前の俺も お前も 他のみんなも

誰もがその苦しさにさえ気付けずにいるんだ


その苦しさに気付かないと 何時までも解決なんか出来ないんだ


そういう我慢大会にいつの間にか いや産まれた時から参加させられているんだよ みんな 強制的にな


恐ろしいのはな 大会がある事も 参加させられていることも 既に始まっている事も 誰一人知らないって事だよ


だから拒否すら出来ない 好きも嫌いも無いんだよ

合う合わないも無い 酷いものだろ 


でも俺は気付けたんだ 本当の事を知る事で 分かったんだよ ああモチロン時間もかかったし 大変だったけどな 


でも誰にでも出来ると思うよ 経験者は語るってやつだ


その為にどうするかって そりゃ何よりも先に自分の中にあるものに気付く事が必要だよ


だって 何よりも それが求めるんだからな

じゃあな ピッ



【2つめのPOV】シリーズ 第2回



「手」(No.0159)



おわり

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