【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「狩人の朝」:前編 (No.0168)
全く世の中は忙しい。
何にでも金が必要だし、その金を手に入れるには仕事が必要だし、仕事には嫌な事がついて回ってくる。
やっとの思いで金を手に入れ欲しい物を買っても、それが必ずしもその苦労に見合うとは限らない。買ってすぐにゴミになっちまうものも普通にある。
そのゴミになっちまうものだって、買うのに苦労したってのに今や捨てるのにも一苦労する。
やれ燃えるだ燃えないだ、金属だ粗大だっていちいち面倒くさいったらない。
この古臭い木造のアパートなんて、部屋も廊下も狭いが、ゴミ置き場はもっと狭い。おまけに蓋も無くて緑色の網を被せるだけだ。
回収の日になりゃ、マナーにうるさい住人のおばはんが毎週騒ごうと関係なく、前日の夜にはゴミ置き場は山盛り一杯になっている。
しかも厄介なことはおばはんのヒステリーだけじゃなく、そのゴミを荒らしに来る狡猾で憎たらしい " どす黒いアイツ " ・・・
そう、カラスだ。
アイツらだけはどうにも我慢がならない。
俺は生物にも詳しくないし、化学なんて縁もない。あいにく教育というものには遠い世界にいた。
だが、世の中には塵や屑を片付けてくれる存在が居ることは知っている。
やれウジ虫やら、カビやら、海ならフナムシやら小魚やエビやカニだってそうだと聞く。
若い頃、豚箱に入っていた男から聞いた話では、シャコなんかは死体を食うらしい。
うまい具合に世界はこうしてお片付けをしてくれる奴らがいて、バランスとって仲良くやっているってのに、あのカラス共ときたらどうだ?
俺たちが必死になってまとめたゴミを、テメェの都合で好き放題にバラバラに散らかしやがるんだ! あのおばはんでなくたって頭にきて当然だ。
これは許されない。
誰かが ” 解らせて ” やらなければならない。
正義の鉄槌が必要だ。
俺は狭いアパートの天袋からでかいダッフルバッグを取り出した。
久しぶりに開けたが、中には油紙に包まれた長い " 棒 " がちゃんと誰にもバレずに入っていた。
もちろん単なる棒の訳はない。
バリバリと油紙を剥がすと、昔ちょっと仕事で地方を回っていた時に知り合った野郎から花札でせしめたライフルが出てきた。
もちろん実銃だ。そして実弾もある。
かなり気に入っていたが、流石にやばい代物なんで今まで一度も試したことが無い。
しかし男にはやらなければならない時がある。
こいつだってちょっと使い込んでいて古めかしいが、まだまだ現役だ。
きっと鳥や獣をシュートしたいに決まっている。
田舎だが一応は東京である、ボロアパートの2階の室内の窓を少し開けて隙間を作る。
俺は腹ばいになって、そこに突き刺すようにライフルの銃身を出し、その先にあるベランダの柵の隙間から適当なところに狙いを付け、構えてみた。
うん、いい
これは、いい
今月の家賃も危うい台所事情が、すぐに胸から吹き飛ぶほど気合が漲ってきた。
なんだ、もっと早く出せば良かった、そう思えるほど力が湧いてきた。
しかしこのライフル、確かイノシシの頭も吹き飛ばせるほどの威力らしい。
流石にカラス相手には強すぎるし、ボール紙程度の厚さしかないこのボロアパートの壁が、この発砲音を近所から防ぐとはとても思えない。
一発でも打とうもんなら真下に生息するカルト宗教にご熱心なマナーババアからの反発は確実だ。
これは " 工夫 " がいる。
つづく
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