【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「視野の味:後編 Part.1」 (No.0095)

 2人はいつも通りの簡単なサンドイッチをぱくぱくしています。

「んん。おいしいおいしい。んん。どおですかヒナタ。景色を変えて食事をすると変わりますか?」

ヒナタは頬をふくらませたままウンウンと頷いています。

「ヒナタのやつは、いつものジャムサンドイッチですか?」
「んん。ブルーベリーです。」
「今朝は図書室で食べていますし、窓も開けて景色を変えて食べています。ヒナタのブルーベリーは甘みを強めたり弱めたりしてますか?」
「んん。ナツオ、せっかくこうして気遣ってくれたのに申し訳ないですが、いつものブルーベリージャムは景色やテーブルが変わったことでは甘みを上げ下げしません。私の知る限り、これは昨日と同じ甘さですね。」

ヒナタはいつも欲張ってジャムを多く塗るので、サンドを噛むたびに持ち手からジャムがはみ出て手を汚すのでした。

「ヒナタ。謝ることはありません。あなたのジャムは指摘通りいつだって同じ甘さを楽しませてくれます。それは決して食べる階数で変化なんてしないのです。」
「そうですね。しかし、ならばナツオはどうして景色を変えて見せたのでしょうか?もし私の気分を和ませるためなのならば、それはとっても大成功ですよ。私は見晴らしの良さに喜んでますから。」

ヒナタは漏れ出して利き手を赤紫色に汚したジャムをぺろぺろと舐めながら、同級生に気遣いの言葉を掛けました。

「ヒナタ。もしサンドイッチの味を変えるなら、パンに塗るジャムをブルーベリーからキウイやパインに変えると早いかもしれませんね。」
「うん。でもキウイのジャムは見たことありません。でも確かに味は変わりますね。」
「ピーナッツやチョコならば、もっと変わります。」
「うん。とくにピーナッツバターは塩っ気があるなぁ。」
「ピーナッツバターを片面に、もう片面にブルーベリージャムならば・・・」
「それはもう本当に素晴らしいと思いますよ!」

二つ目のサンドを両手に持ったヒナタは瞳を輝かせて答えました。

「ヒナタ。私たちがさっきから話している味は『味覚』と言います。知ってますね?」
「んん。もちろんです。」

ヒナタはお茶を少し飲みました。

「味覚は舌ですね。いろんな味を受け取ります。」
「ほかにもあと4つあります。嗅覚、触覚、聴覚、視覚です。」
「はい。わかります。それぞれに身体の部位が担当してます。私はナツオより視覚が良いですよ。」
「そうでしたね。」

ナツオも少し冷めたお茶を一口飲むと、リュックからバナナを取り出し、一本をヒナタにあげました。

「ヒナタ、それはご存じのとおりバナナです。聞くまでもありませんが、甘いです。」
「もちろんです。それもお気に入りの甘さなんです。」
「このバナナはまだ2人とも食べてはいませんが、しかしもうすでに甘さを受け取ってます。」
「はい」
「何かの味を受け取るときには身体の部位でいうと舌が必要だとヒナタは言いました。」
「はい」
「でも食べずとも、もうわかっているわけです。」

ヒナタはもらったバナナをぷらぷらさせつつ、

「ナツオ、私がこれまで食べてきたバナナの数を伝えれば、きっとこのバナナを食べずとも甘さが理解出来てしまう理由が分かるはずですよ。」

ヒナタはとても誇らしげに言いました。

「ヒナタがバナナに詳しい事は、わざわざ本数を聞かなくても分かっていますよ。」

何だかナツオは顔がほころびました。


後編Part.2へつづく


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