【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「永遠のお客様 :後編 Part.2」(No.0103)
後編 Part.1のつづき
「別の考えとは何ですか?」
「彼らにはお金を持っているという特徴がありましたから、気づくことが出来ました。つまり殆ど働いていないのです。私のようにホットケーキを楽しむ目線と、提供する目線、これを両方獲得するには両方の経験がいるのです。しかし働く必要がないものたちには、提供する目線は理解できないのです。」
ヨシオは黙って聞いていました。彼のお皿には、まだホットケーキが余力を残していましたが、手は膝の上で固まったままでした。
「確かに人はその両方を同時に持つことは出来ないのですが、しかしその両方をバランスよく経験し理解できるようになりますと、その瞬間瞬間に切り替えるようにして両方を把握することが出来ると思ったのです。」
ミルクのグラスが大粒の汗をかき、テーブルへ流れ落ちました。
「ヨシオ、このグラスのミルクがまた鋭く冷えていた頃に私は言いましたが、私もあなたも同じ人間なのです。これは仮に店員さんとお客さんという立場に分かれていたとて変わらないのです。」
話題に出て気持ちが向いたのか、ヨシオはミルクをぐっと飲み干しました。
「しかし、私のやったような模擬店位ならいざ知らず、もっと高度な存在となると、その2つの関係は距離を深めるのですよ。しかしだからこそ、その双方の目線、気持ちは必要に成るのです。そうして理解がし合えないと、何か『別の存在』になってしまうと思うのです。」
ヨシオは視線をマモルに向けたまま、ミルクグラスの汗で濡れた手のひらをハンカチで拭いました。
「別の存在とはなんです?」
「ええ、それがお客さんです。」
マモルもミルクをひと口飲みました。しかし少し温くなっていたのが気になり、冷凍庫から氷を出してきて2人のグラスに入れて、残りを戻しました。
「つまりマモルが言いたいお客さんとは、作る人の苦労を気に掛けないで自分のことばかりを気にするお金持ち、ということですか?」
ヨシオは2人のグラスにミルクを注ぐマモルに言いました。
「まあ、そうですね。でもそこからまた考えは先に進みました。」
トン、とミルクのパックはテーブルに置かれました。なんとも心もとない音でした。
「世界中でお客さんと店員さんという関係が作られます。そして世界中どこでもそのどちらもが同じ人間です。でも世界中どこでもお客さんが偉いのです。」
「まあそうですね。そして経済的な話をすれば、お客さんが偉いというのも取り敢えず納得は出来るでしょうね。」
「そうかもしれません。しかし私は今回の模擬店での経験で不思議な感覚を得たのです。私は店員さんでしたし、来る人はお客さんでしたが、私を含めたそのどちらもがその立場を『演じて』いる感覚に襲われたのです。」
「それはお芝居のようなことですか?」
「全くそのとおりです。つまり店員さんは店員さんらしく、お客さんはお客さんらしく、という演技をさせられている事に気づいたのです。」
またしてもヨシオは固まってしまいました。しかし瞳はホットケーキを見つめていたあの頃のように熱く燃えていました。
「そして、そのお芝居が一番下手だったのが、さっきから言っている『お客さん』だったのです。」
ミルクの熱で氷がバシッと割れる音がしました。
つづく
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