【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Last Part(No.0184)
Part.9のつづき
長老の巣穴に連中を入れ、皆で囲むようにして集まりいざ数えて見ますと、なんとあれだけの騒ぎを起こした張本人達の数はたったの6匹だったのです。
奴らの貝殻を取り払い、よくよく姿を見てみますと、自分達と似ているようで似ていない、あまり見かけない種類のカニ達でした。
しかし、中には同じ種類のカニ、それも顔なじみのカニもおり、それに気づいたカニ達は
裏切り者!
と罵声を浴びせ、ひと騒ぎが起きる始末でした。
皆を鎮めた長老と若カニ達が、リーダーと思しきカニに質問を始めました。
このカニ達も観念した様子で、ペラペラと泡を吹きながら悪びれる事無く話し始めたのです。
どうやら彼らの目的は、この浜をそっくり自分達の物にすることだったようです。
彼らは3種類のカニたちで構成された組織だそうで、小柄で貧相だがカニ味噌タップリの上海カニがリーダーで、その部下たちには沢山のミドリガニがおり、そしてこの乗っ取る予定の浜に詳しい現地のカニで作られていました。
どうやらこの計画というのは、まず皆を脅かして貝殻を被せる事から始まるのだと言いました。
そして姿かたちが解りづらくなったところで、現地のカニとは似ても似つかない沢山のミドリガニ達が次々と浜に干潟に磯にと住み始める。
その間もドンドンと脅しを続け、貝殻も売って儲け、この浜にいたら危ないぞと思い込ませ、地元のカニたちを追い出す。
こうして浜を乗っ取る事が目的だったと、リーダーの上海カニは訛りの強い言葉で話しました。
このリーダーはアッサリと話し出したものの、その内容は大変恐ろしいものでした。
聞いているカニ達はまたしてもハサミをカチカチと鳴らし、固まっておりました。
さすがの長老もこんな話は聞いたことがありませんでした。
周りのカニ達は、
やい よくも騙してくれたな
と、怒りをぶつけるものもおりました。
しかし、その声を聞いても当の上海カニは
そんな根拠の無い声に騙されるカニミソの無い奴らが悪いのさ。ちょっと考えればわかるだろう。
と、すっかり開き直っておりました。
この話は若カニも勿論初めての内容でしたが、しかし幾つも疑問が浮かびました。
それは
このカニ達の計画には仲間が他にもいるのではないか?
と、いう事でした。
尋ねてみると、そのとおりで、仲間がかなりの数居るそうでした。
つまりこれは巨大な組織的な計画だったということです。
それを聞いて益々ハサミの大合奏が鳴り響きましたが、若カニは納得出来ませんでした。
何しろ他所でも同じことが同時に起きていることは昼間に確認しているのです。
しかし同時にやってしまったら、追い出したカニ達の逃げ場所が無いわけです。
つまり磯のカニが追い出されても、干潟にやってくるし、干潟に居たカニが追い出されたら磯にやってくるわけです。
もし浜を奪う計画であれば、ひとつひとつやっていくのが筋だと思うが、どうして同時にやったのだ?
と、若カニは尋ねました。
すると、さっきまで自慢気に話していた上海カニは何だかバツが悪そうに顔を歪め、
本当はそうしたかったのだが、他の連中と話が合わず、結局それぞれが好き勝手にこの乗っ取り計画を進める形になってしまったのだ
と言うのです。
その回答には若カニも驚きました。
何だか偉そうに気取った身なりのこのリーダーカニは、これだけの計画を立て実行までしておいて、仲間たちと話を纏める事すら出来ない連中だったのです。
その話を聞いた後に改めて彼らを見てみますと、さっきまでインテリぶって見えた姿も、今ではただの貧相で中身のない、まるで茹でて出汁を取り終えた後の出涸らしに見えてくる始末でした。
一通り話を聞き終えた若カニ達は、この連中の処分の許可を長老からもらうなり、すぐさま網焼きに処しました。
地元の先導役をやっていた顔なじみのカニは、炭火の準備の最中に情けを求めてハサミを合わせておりましたが、仲間を裏切ったカニへの皆の怒りは収まることはありませんでした。
連中ともども香ばしい香りを浜に漂わせることになりました。
そして次の日、この事実を韋駄天だけでなく、若カニ達も一斉に浜辺中に伝えて回りました。
そして行く先々で裏切り者や侵略カニたちを次々と網に乗せていきました。
やがてお日様が7回ほど昇ったあと、この浜辺にはかつての平和が戻ってきたのでした。
しかし、やってしまったことや起きてしまったことは、決して無くなるわけではありません。
いくら悪カニ達に乗せられていたとはいえ、生まれた時から硬い甲羅を持ち続けたカニ達が、ヤドカリさん達にご迷惑をかけながらも貝殻を奪い合って被り続けていた事実は消えません。
騙されていた彼らも彼らで、あの時の事を思い出しながら、
はて、何であんなことをしてしまったのかなぁ?
なんて他カニ事みたいにボヤいていますが、その時に周りに苦しい思いをさせ、醜態を晒した事実は消えないのです。
重い貝殻を引きづって学校に通わされていた子ガニ達の辛さはイカほどだったことでしょう?
まんまと周りの波に乗せられたカニ達は、その恥ずかしい経験から、余生を茹でた後の様に真っ赤な顔で過ごすことになったそうです。
彼らはきっとこう思ったことでしょう。
ああ、今こそ顔を隠せる貝殻がほしいって。
【2つめのPOV】シリーズ 第4回
「波」
おわり
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