【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「モグラたちに気をつけて」 まとめ記事
今は夏です。この季節はとても暑いです、当然ですが。
それにしても今年の夏はとても暑い。
その暑い中でみんな、なにかしかの用事があって、陽に照らされてふらふらしながらも出たり入ったりとしなければなりません。
しかしここにいる3匹のモグラたちが住むこの地面の中はというと、決してそんなことは無いのです。
地面を少し掘っただけで、すぐに冷たく感じるほど外とは温度が違います。
外を歩き回る他の動物たちと違って、涼しい地面の穴の中を行ったり来たりで生活できる彼らは、冬も夏も季節は関係なくなかなかに快適な生活を営んでいるのです。
気取った彼らはそれぞれが地面で拾ったペットボトルのキャップを頭に被り、ヘルメットの代わりにして洒落込んでいる始末です。
そんな生活が当たり前になっていつからか、彼らは地表で暮らしているものたちを小馬鹿にするようになりました。
赤いヘルメットがいいます。「奴らは馬鹿だ。ここはこんなに涼しいのに暑い思いしてあっちへふらふら、こっちへふらふらと歩き回っている。」
青いヘルメットがいいます。「俺たちは長いこと作ったこのトンネルがあるから、何処へ行こうとあっという間さ。雨も風も関係なしさ。」
黄色いヘルメットがいいます。「知能が低いんだ。陽にあたっているから頭が馬鹿になっているのさ。そうだ、空ばっかみて足元を見ない奴らをからかってやろう。足元の大切さを我々賢いモグラたちが教えてやるのさ。」
モグラたちは自分たちの生活に使っているトンネルを巧みに使い、あっちこっちへ走り回り落とし穴を作りました。
この落とし穴は地面の中から地表に向かって登りながら掘っていき、地表スレスレで掘るのを止めて作るので、外からでは全く見分けのつかない精巧な代物でした。
モグラたちはそこかしこに作ったこの落とし穴の様子を地面の中から伺っていました。
当然こんなに精巧な落とし穴です。
誰も彼もがハマりました。
ズッポリ片足を捕られた動物たちが躓くさまを見てはモグラたちは大はしゃぎでした。
「モッモッモッ。愉快だ愉快だ。もっとやろうもっとやろう。」
「グッグッグッ。これで地表を歩く間抜けたちも足元に注意がいくだろう。感謝しろ感謝しろ。グッグッグッ。」
「馬鹿な奴らめ。痛い思いをしないと解らないなら我々モグラ様たちが教育してやるまでさ。ラッラッラッ。」
モグラたちは毎日毎日落とし穴をせっせとこさえ、その穴にハマり困ったり苦しんだりしているものたちの様子を見ては嘲笑い楽しんでおりました。
あるとき、いつもどおり落とし穴にハマる地上の連中の様子を楽しもうと、3匹がトンネルで様子を伺っていました。
しばらくすると地面の下に足音が響いてきました。
きたきた、と喜んだ3匹はズボッとハマり情けない声で慌てふてめく姿を今か今かと待ち構えていました。
しかし、その足音はモグラの落とし穴にハマること無くそのまま過ぎていってしまいました。
驚いたモグラたちは、
「なんてことだ。我々の落とし穴に落ちること無く行ってしまったぞ。」
「こんなこと今まで無かったぞ。どういうことだ? 我々の落とし穴がイマイチだったに違いない。」
「そうだ、そうに違いない。ならばもっと沢山、もっと精巧に作るのだ。あの足音の奴はきっとまた来るぞ。次は悲鳴を聞かせてもらう。ラッラッラッ。」
そう言ってモグラたちは、更に多くの数の落とし穴をもっと精巧に作り続けました。
そうしている間にも他の動物たちは落とし穴にハマり苦しんでいました。
しかしモグラたちはもう他の動物たちには興味がありません。ハマっても関心を示しませんでした。
やがてそれまでよりも更に精巧な落とし穴が沢山出来ました。
3匹は疲れた身体を休めながら待ち続けしばらくすると、またあの足音の奴がやってきました。
3匹は今度こそ、と思いジッと待ちましたが、やはりその足音のものは落とし穴にハマること無く通り過ぎていきました。
モグラたちは大変悔しがりました。
自分たちのプライドを傷つけられた気分でイライラしていました。
「もう許せん。もう許せん。絶対にあいつを落としてやるのだ。」
「しかしどうするどうする。これだけ掘っても駄目だった。我々の爪もボロボロだ。」
「そうだそうだようしわかった。ならばこのあたり一帯すべてを落とし穴にしてやる。トンネルを更に細かく縦横に掘りまくるのだ。そうすればこの辺すべてが落とし穴になる。これなら通るだけでハマるはずだ。これだこれだ。」
こうして3匹は来る日も来る日も辺り一帯の地面の下に東へ西へとトンネルを掘り続けました。
昼も夜も関係なく掘って掘って掘り続けたのです。
次第に3匹の爪は無くなってしまいましたが、彼らはそれでも掘り続けました。
そして時間の感覚も無くなった3匹は、もはや自分たちのしている行動の意味もよく分からなくなっていましたが、既にこれ以外の事には一切興味が無くなっていました。
一体どれほど掘ったのでしょうか?
力が無くなり、もうミミズを食べる気力さえ無くなるまで掘り続けた3匹は、寄り集まってグッタリと寝込んでいました。
するとそこに、あの足音が聞こえてきました。
ザッザッザッザッ・・・ズボッ!
落とし穴が崩れる大きな音がしました。
フラフラの3匹は喜びました。
「やっ・・・やったぞー」
しかし、その落とし穴の崩れる音は止まずに連続して鳴りました。
ズボッ!ズボッ!ズボッ!・・・・どんどんとモグラたちに近づいてきました。
そして突然モグラたちの目の前に強烈な日差しが差し込みました。
モグラたちは驚きます。
「ゲェーッ! ま、眩しい! 苦しい! 恐ろしい! ゲェーッ!!」
モグラたちは両手で目を隠しますが、その手はボロボロで殆ど意味をなしませんでした。
「あ、こんなところにいたぞ!」
モグラたちの頭上が崩れ、そこから大きな人間の顔が覗き見えました。
その人間の表情には怒りが滲んでいました。
「ゲェーッ! 見つかったー! ゲェーッ!」
赤いメットと青いメットは人間を見るなり慌ててトンネルの奥に逃げ込もうとしましたが、2匹しておんなじトンネルに入ろうとしたもんだから進めずに頭が詰まってしまいました。
「やいお前が退け」
「おいそっちこそ退け」
モグラたちがゴソゴソやっている姿を見た人間は、
「この汚らしい毛玉め」
と、手に持っている藁をまとめたりするのに使う、見た目も恐ろしい大きなピッチフォークで2匹のモグラを突き刺しました。
そしてそのまま地上に引きずり出し、畑に放り出しました。
するとそこに人間に忠実な飼い犬が走っていき、この2匹を咥えると激しく首を振り乱しモグラは千切れてしまいました。
千切れた破片はまた別の犬が現れると牙で咥え、奥にいる人間の女の元へと運んでいきました。
その姿を見た黄色いメットはヒィー、と悲鳴を上げて2匹とは違う方向のトンネルに逃げ込みました。
大慌てで逃げます。
頭上からは、どっち行った? こっちか? などと人間の声が聞こえました。
黄色いメットは無我夢中で逃げます。
そして奥まった巣穴の入り口に差し掛かり、やった、と思ったとき、またしても頭上が大きく崩れ強烈な日差しが襲いかかりました。
「ゲゲェーッ! く、苦しい!」
バゥ!バゥ!
とても鼻の聞く飼い犬が逃げたモグラを追いかけ、見つけたことを飼い主に教えていました。
モグラが日差しで見えなくなっているところに、人間は現れ、
「自分たちの汚らしさのせいで陽の光のもとで暮らすことが出来なくなっているくせに、傲慢に振る舞いおってこの毛ぼこりめ」
鋭いピッチフォークが黄色いメットを貫通してモグラに突き刺さり、放り投げられました。
その方向へ犬も走り、また引きちぎると女のもとへと運ばれました。
こうして、この辺り一帯からモグラは消え、もう動物たちも人間たちも穴にはまることは無くなりました。
誰も彼もが真っ直ぐに歩くことが出来るようになりました。
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おわり
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