【グッドプラン・フロム・イメージスペース】「イモが育てた心たち :中編」 (No.0125)
カスミは一人で農地の隅にしゃがんでいるハナコとは特別親しくはありませんでした。
しかしひと目で思わず納得出来るほど、ハナコは園内で有名だったのです。
何時も好き勝手に動き回り、人のお話に全然耳を貸さず保育士さんを困らせてばかりいる子でした。
カスミが見たところハナコは袋を持っていませんでした。
やっぱりこの子は保育士さんのお話も聞かないで遊んでいたのだな、とカスミは呆れました。
「ハナコさん何してますか?」
カスミはハナコのしゃがんでいる背中に声をかけました。
「ジャガイモみつけた」
振り返りもせずハナコが答えました。
カスミはハナコの肩越しに手元に視線を落としましたが、ここは農地の隅ですから当然ジャガイモなんかありません。
保育士さんのお話も聞かずに勝手にやっていたから、ジャガイモのある所も知らないのだなあ、とカスミは思いました。
「ハナコさんジャガイモ畑はここではなくてもっとアッチです。ここにはジャガイモはありませんよ。」
「あるよいっぱい見つけたもん。ほら」
ハナコは振り返り片手に乗った丸いものをカスミに見せました。
それはダンゴムシでした。
「それダンゴムシよ、ジャガイモじゃないですよ。」
「でもすごいそっくり!あ、赤ちゃんもいます。」
ハナコは手のひらに乗せたダンゴムシを指でつつき、驚いて丸まる姿をみては感動して目を輝かせています。
やっぱりこの子は先生のお話も聞いてないんだ、とカスミは思いました。
「ハナコさん私はカスミです。じゃあみんなのところへ行きましょう。」
カスミはハナコのダンゴムシを乗せていない方の手をとって連れて行ってあげました。
手を引っ張っている間もハナコは、ダンゴムシが落ちちゃったとか喋ってました。
ハナコを保育士のところへ連れて行くと、ハナコの分の袋を持った保育士はわざとらしく少し怒った顔をしました。
「ハナコさん、これから何をするのかわかっていますか?」
「はい先生、ジャガイモです!ジャガイモをします!」
保育士の小芝居もまるで意に介さずハナコはいつも通りのハツラツな声で答えました。
「そうですね、ジャガイモです。ハナコさん、ジャガイモをどうするか分かりますか?」
「んーと、ジャガイモを見つけます!」
ハナコは答えるなり保育士に手のひらを見せました。
「ほら先生、ハナコはもうジャガイモを見つけました!」
「ハナコさん。違うでしょう? これはダンゴムシですよ。ほら生きてますよ、畑にかえしてあげなさい。」
「せんせいジャガイモも生きてるんですよ、あっ落ちちゃった・・・」
僅かに残っていた大小2匹の丸まったダンゴムシが小さい手から転がり落ちて小石や土に紛れてしまいました。
ハナコも諦めたのか、載せていた手のひらをバイバイと振って別れを告げました。
二人は保育士に手を取られジャガイモ畑に連れて行かれました。
畑はすでに他の子供達が集まっており、箱に用意されたプラスチックのスコップや鋤をめいめい選んでいました。
カッコイイ色のモノを奪い合って小競り合いが起きており、保育士は早くも泣いている子をなだめに駆け寄って行きました。
私も急いで貰ってこないと、とカスミは少し焦りました。
「ハナコさん。私達も道具を貰いに行きましょう。」
カスミはハナコを急かすように言いましたが、ハナコは返事もせずカスミを見もしないで、ジッと芋畑を見つめていました。
つづく
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