【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「ぼくのオレンジジュースはどこ?」:前編(No.0187)
「観た?」
「うん、みた。」
朝、小学校の校門の前で、ランドセルではない四角いリュックサックを背負った2人の少年が話している。
まだ、登校にはずいぶん早い時刻であったので、校門は開いていたもののまだ登校する生徒はいなかった。
「全然知らなかった。難しいところもあったから全部が分かったわけじゃないけど。」
青いリュックを背負った少年が自信なさげに言った。
「そうだろうね。君の歳じゃ。といっても私も君と大して変わらないし、もちろん全部わかったわけじゃないよ。」
少しだけ背の大きい黒いリュックの少年が言って、ポケットからスマホを取り出し、
「これで見せてあげたかったけど、長いし、1日貸してあげることは難しかったから。悪かったね。結局ミハルはどうやって観たの?」
ミハルと呼ばれた青のリュックの少年は下を向いたまま、
「うん。ハネオに教わったマンガ喫茶でみた。おかあさんが一緒に行ってくれたんだ。マッサージが出来るところだから、その間。」
「そう。」
ハネオと呼ばれた黒のリュックの少年がうなずいたが、ミハルの元気のない姿がさっきから気がかりであった。
「ミハル。あまり元気でないけど、何かあったか? それともショックだったの?」
「うん。ショックもある。だって、今まで信じてきたり教わってきたことが嘘ばっかりだったんだって分かったから。ハネオから聞いていたけど、自分でみたらもっとショックだった。 だからハネオが言ってたとおり1人でみて良かった。誰かと一緒にみると集中できないし。」
「そう。 でもそれだけじゃないみたいだね。」
「うん。」
ミハルはつま先に向けた視線をふっと校門の先にある校舎に向けた。
ハネオも一緒に校舎を見た。
「ジュースが、ちがったんだ。」
「ん? ジュース? 何のこと?」
ハネオは視線をミハルに向け直して尋ねた。
ミハルは視線を校舎に向けたままだった。
「ジュースが、いっぱいあるんだ。あそこには。だけど、ちがったんだよハネオ。」
「ジュースっていうのはマンガ喫茶の機械のことかミハル。 そうだ、あそこには沢山あるよ。1つの機械から幾つものジュースを出せるよな。 わかるよ。 でも、ミハルの言う、違った、っていうのはどういうこと?」
ミハルの向ける視線の先には、古ぼけた灰色の校舎がある。
彼らと校舎の間には埃っぽい校庭が広がっているが、その何処にも動く人影は無かった。
それでもミハルはまだ校舎から視線を外さなかった。
「ぼくはオレンジジュースのボタンを押したんだ。まちがいなく押したんだ。でも、ちがったんだ。」
「どう違ったんだミハル。」
「黄色くもない、ぜんぜんちがうのが出てきたんだよ。茶色かったんだ。」
「茶色い飲み物か、それは何だ? コーラか?」
「お茶だった。ちょっと渋かった。」
「そうか、なるほど。ならば恐らくは烏龍茶かアイスティーだろうな。うん。 しかしそれは分かったが、ミハルは何故それを未だに引きずっているんだい?」
つづく
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