【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 Episode.3 「大喜利の罪」(No.0042)
茶化したい気持ちはよくわかるのですが、それは自分たちを低い次元に落とすことになると感じます。
二人の学生が通学の為に歩いていました。
朝ごはんの代わりなのかお菓子を食べながら歩いていました。
「ヨシオは連日流される報道をどう考えてますか?」
ヨシオと呼ばれた学生はチョコをかじってましたが答えました。
「酷いと考えてます。ジョークとしか受け取れません。マモルはどうですか?」
「まさにそこが私の考えるところなのですヨシオ。」
カップのアイスを食べていたマモルは思わず木のサジをヨシオに向けました。
「そことはどこの事ですか?」
「つまりジョークというところです。私達はあまりに愚かな世の中の行動と判断に呆れています。」
「その通りです。」
「もはや真面目に受け止められず、笑ってしまっているのです。」
「はい。」
「これが危険と考えます。」
「はい。」
「世の中は頭、つまり知性で動かされます。」
「当たり前です。」
「知性が出した決断が誤っている時には知性が批判をし、正すのが道理です。」
「確かに。」
ヨシオはチョコを食べる事を忘れて聞きます。
「しかしその決断に対しジョークを言う事、または笑う事は知性での批判を放棄した事になりかねません。」
「世間ではジョークを知性と捉える事もあります。」
「フェイクでしょう。笑いは感情表現です。私が指摘したいのはその呆れた言動を茶化して色んな人達がネタにして発表する風習です。」
「最近は誰でも発表します。」
マモルのアイスもすっかりクリームになってました。
「この現象は知性の敗北でしょう。笑うときに人はどこかで魂の屈折を経験しているのだと思うのです。」
「私はわかりません。」
「辛い経験に直面した時、笑い飛ばす人も居るのです。」
「それはわかります。」
「確かに命が助かるならば必要かもしれませんが、そのときには諦めの気持ちを認めて笑っていると思います。」
「さっきの話で言えば知性でなく感情に落とし込んだという感じですか?」
「はい。それが癖になるのです。一度折れ目の付いた紙切れです。」
二人は公園に行きました。
ブランコには小さい女の子が乗っており、母親らしき人が後ろからゆっくりと揺らしていました。
二人はベンチに腰掛けました。
「知性と感情ならば知性が上にあるはずです。そこでやり込められた者が笑いを使って誤魔化すのです。」
「笑って誤魔化すのは定番です。」
「これが罠です。そうやって笑いのネタを撒いて本来の問題点から気をそらすのです。」
「それを言い出すと確かに今みんなしてネタに食いついています。」
二人はゴミ箱にお菓子を捨てました。
「笑いは知性と別の能力で生まれますから、知性を使わせない手段なのです。」
「笑いに乗ってしまう人は一見楽しそうです。」
「知性の責任から逃れた事で得られる安堵の気持ちでしょう。しかし責任は権利の裏返しです。つまり権利を放棄したことになるのです。」
「つまりどんなに笑うしかない愚かな言動でも、それを拾ってはいけないわけですね。」
「狡猾なものは、愚かしさを用いて人を堕落させ自分たちだけがその上に君臨しようとするのです。その罠にネットも政治もハマってますね。」
二人は手を洗いました。
口をゆすぎ、顔も洗いました。
二人の顔は締まり、手からも口の中からも甘さが消えました。
二人はお菓子をねだる子供と、それをたしなめる母親の声を背中で受けながら通学路に進みました。
輝く朝日が二人の学生を照らします。
力強い足取りに揺れるランドセルは、遠くからチャイムが聞こえるとさらに大きく揺れ出したのでした。
おわり
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