Living with Music Vol.15〜Arnold Fang / アーノルド・ファン(香港)
Arnold Fang / アーノルド・ファン(香港)
“Sea Island & Ferry / 海島小輪”リーダー・作曲家・ピアニスト
香港 2020年5月
アーノルドは、香港を拠点に活動する、新しいスタイルの室内アンサンブル“Sea Island & Ferry / 海島小輪”のメンバー。2019年2月の街フェス”Sakurazaka ASYLUM(サクラザカ・アサイラム)”に出演してくれた。
先月、ニューアルバム「Telescope」リリースの知らせと日本国内での販売の相談を受けた。彼らの音楽については、YouTubeなどでチェックしていただきたいのだが、音楽、映像ともに非常に高いクオリティだ。
室内楽にカテゴライズされるのかもしれないが、クラシックからジャズ、ワールド的な要素がとても自然に融合されていて、物語が浮かび上がってくるようだ。とてもチャレンジングな音楽だと思う。
香港は、SARSの教訓もあり、COVID-19の影響は最小限に抑えられたと聞く。しかし、昨年から断続的に続く、現在の政治に対する抗議のデモの火が消えることはない。そうした困難な状況が続く中での音楽活動も含めて話をしてもらった。
コロナ・ウイルス、政治的混乱、困難な状況が続く香港。
アーティストはいかに生きていくのか?!
Q: 現在の周囲の状況を教えてください。基本はCOVID-19に関しての話ですが、香港の場合は、政治的にも難しい状況があります。可能な範囲で教えていただけますか。
「香港の生活は徐々に通常の生活に戻りつつあり、特に週末には街頭に人の姿が見られます。ただ残念ながらここ数日で、COVID-19の感染者数が増えてしまったので、この先はまだ不透明です。
香港の場合は、政治状況の変化に直面しているので、COVID-19の影響で止まっていた抗議行動が再開されつつあります。個人的には、政府はCOVID-19を口実に、人が集まって意見を言うことを取り締まるべきではないと思っています。しかし、やはり公共の場ではみんな感染しないように気をつけてほしいと思います」
“Sea Island & Ferry / 海島小輪” 2020
Q:香港でのロックダウンは終わったと聞いています。今の気分を教えてください。
「エンターテインメントは、流行中でも完全に締め出されたわけではありませんが、その制限は完全に終わったわけではありません。特に屋内での観客を招いての音楽の演奏はまだ再開されていないので、早くこの状況が変わってほしいですね。いずれにせよ、少なくとも香港では、COVID-19による制限に終止符が打たれる可能性が見えてきたことは、少なくとも良かったと思います」
Q: 今回はどの国においても、音楽業界は大きな打撃を受けています。現状の音楽活動について教えてもらえますか。
「私はSea Island & Ferry(海島小輪)というネオ・チェンバー・アンサンブルをやっているのですが、実は今年の春にアルバムのリリースを予定していましたが、数週間遅れて5月にリリースしました。
もちろんオフラインでのライブや海外ツアーができない状況ではありますが、オンラインでのライブを行ったり、地元のレコード屋さんを回ってアルバムのプロモーションをしたりして、何とか対応してきました」
Q: ロックダウンの期間中は何をしていましたか?
「私は音楽の他にNPOで働いているので、ほぼ毎日在宅で仕事をしていました。私のアンサンブルのメンバーと一緒に、アルバムリリースに向けての準備で忙しく、ミックスのチェック、マスタリング、デザイナーとの作業、パッケージの準備などをしていました。
アルバムをオンライン・ライブで演奏するための準備をしなければならなかったため、そのリハーサルを除いては、すべての作業をリモートで行っていました」
Q: 音楽やエンタメ業界に対して政府から何らかのサポートはありますか? またそれには満足していますか?
「楽器を教えることで生計を立てている人たちへの資金援助もありましたし、文化活動のための資金援助も出てきていると思います。すべての人に分配されるほどの資金のプールはないと思いますが、存在はしています。
作曲家は地域の著作権団体から特別に印税を分配してもらっていますが、これは行政とは関係ありません」
Q: 現在、ミュージシャンや音楽関係者が社会に対してできるベストなアプローチは何だと思いますか?
「公演に関してはまだ様子見の姿勢が必要だと思いますが、自宅で音楽を作ったり、ソーシャルメディアやオンラインでの活動を通じてオーディエンスにアプローチしていくことは、何にも代えがたいことだと思います。
アルバムの制作費を回収するために、オンライン公演の支援者へのチケットやアルバムの販売にも力を入れています」
Q: 現状における音楽やエンターティンメントの役割は何だと思いますか?
「すべての人の気持ちを代弁するのは難しいのですが、私たちの音楽は心を落ち着かせるタイプのものなので、ロックダウン期間中につらい思いをしている人や、他の現実に影響を受けている人たちの助けになればと思いました。
音楽やエンターテイメントは、ニュースから注意を逸らすのにも役立つと思うのですが、残念ながら人々がポジティブな気持ちになるのには役立っていません。ただ、少なくとも人々が一時的に身を隠せる場所を提供してくれると思います」
Q: 先を見通すことは難しいですが、この夏から秋にかけて計画していることはありますか?
「はい。ニューアルバム "Telescope "の作品を演奏できるコンサートを開催したいと思っています。また、本屋さんなどの小さなスペースで何かしらのポップアップ・パフォーマンスをすることで、よりコミュニティに近づけたらと考えています。もちろん、安全に旅行ができれば、他の国にも足を運んでパフォーマンスをしたいと思っています。
音楽を作るという点においては、疫病が新しいコラボレーションの方法を開いたと思うし、ウイルスが去った後も新しいコラボレーションの方法が続くことを願っています」
Q: 音楽を通して海外の友人とシェアできるアイデアを何かお持ちですか?
「危機的な時には、隣人のことを忘れて、自分の行動を内向きにしてしまいがちだと思います。こうした状況の中にあって、音楽には、私たちはすべて一緒にいるということを理解し、お互いにどのように接したかという結果を共有する力があると思っています。この時期に他のミュージシャンがどのように対処しているのか、表現を通して理解することが大切です」
“Sea Island & Ferry / 海島小輪” 香港からのライブストリーミング(2020年5月)
Q: ライブストリーミングについてはどう思っていますか?
「ライブストリーミングは、多くの人にとってはフィジカルなパフォーマンスの代わりになるものと思われているかもしれませんが、クリエイティブにやれば、ライブストリーミング自体がアートにもなると思います。
また、COVID-19がなかったとしても、すべての国々をツアーすることはできないので、遠く離れた場所にいる人たちにも公演を見た喜びを伝えられるチャンスにもなります。
知る由もないですが、もしかしたら、ライブストリームを見た海外の主催者が、その国に招待してくれるかもしれません」
Q: 今、お気に入りの曲を教えてください。
「Hania Raniのニューアルバム”Home”が最近のお気に入りです。家とはどんな場所なのか、歌が物語っています」
Q: 香港では、COVID-19の前から長くデモが続いていました。そして、今再びデモが始まっています。そのことについてどういう風に感じていますか?
「ここ一年ほど香港では異常な時間が続いています。デモ(というか警察の暴力)の影響で音楽にも影響が出ていて、予定されていた大きなフェスティバルの一つがキャンセルになってしまいました。
しかし、人々が自分たちの意見を表明することを許されることが大切だと思うし、私たちミュージシャンは可能な限り人々の声に寄り添っていきたいと思っています」
Q: 最後にメッセージをお願いします。
「皆さんと同じように、このパンデミックが終わるのを待つことはできないですし、これ以上命が奪われないことを願っています。
顔を合わせての交流を通じて、世界のより多くの人と私たちの音楽を共有できたらいいなと思っています。
でも、それまでの間、音楽プラットフォームでアルバムをチェックしたり、CDやLPを手に入れたりして、私たちの音楽をサポートしてください」
◎New Release<近日発売開始>
“Sea Island & Ferry / 海島小輪”(2,200円)
「Telescope」CD収録曲
1.Walk at Dawn 2.Cotton Tree 3.Fog 4.A Few Showers
5.12 Hours Behind 6.Tropic of No Return 7.Telescope 8.Imperfect
9.Spring & Autumn
Music from Okinawa web shop、桜坂劇場、ミュージックタウン音市場にて近日発売開始。
Bio.
Arnold fang / アーノルド・ファン(香港)
2016年に結成された香港を拠点に活動する "ネオチェンバー "アンサンブル、シーアイランド&フェリーの作曲家兼ピアニスト。http://www.facebook.com/arnoldstorytellers