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"Love Live Life" Production Note

8月の終わり、4年ほど前からぼんやりと考えていたことを、「Our New Songlines」というイベントとして、なんとか形にすることができた。3年ほど寝かせておいたままにしていたアイデアを、この1年弱で一気に積み上げた感じだ。
メモとして書き残しておく。

沖縄市(コザ)が、マニラ、ジャカルタとともに、バスケットボールW杯のホストシティになるということで、この3都市のアーティストの音楽を通したコラボレーションをやるということ考えていた。だた一緒にライブをやるだけではなく、その前段として一緒に新しい曲を作ることがテーマだった。

音楽的にはHIPHOPをベースにしたいと考えていた。去年の9月、"ASEAN Music Showcase Festival"(2023年からAXEAN Festivalに名称が変更された)で、タイのF.HEROに会ったことと、カンボジアのアーティストVanndaのラップを聴いたことが決定的だった。彼らの熱量の高さは、アジアでのHIPHOPという音楽の爆発的なエネルギーとプレゼンスを反映していた。

赤ジャケットの男性がF.HIRO。ベースはバンコク。東南アジアのHIPHOPのラスボス的な存在。
カンボジアの国民的HIPHOPアーティスト、VannDa。
自国の伝統音楽も取り入れた新しく強烈な作品を連発。
YouTubeでの動画再生回数1億回超えの曲も。存在感もすごい。

沖縄発のHIP-HOPも、AWICHを筆頭に相当に熱いものがある。今回は、コザのアーティストということで、Rude-αと、世代的には少し上だが、地元のコザで顔が広く発信力も強い、¥uK-Bに声をかけた。

(L→R) Rude-α, ¥uK-B @ Manila, Jan.2023

マニラのMC Galangには早い段階からこの企画について話をしていた。彼女は「何かあれば協力する」と話してくれた。ジャカルタは、2019年にバンコクで聴いたTanayuに声をかけたいと考えていた。しなやかで独創的なパフォーマンスはまさにアートで、才能があふれ出すような印象を持った。彼女はHIPHOPのアーティストではないが、かなり面白いコラボレーションになることを期待した。

TANAYU @ Bangkok Music City, Nov.2019

まだコロナの影響が残る1月、Rude-αと¥uK-Bを伴ってマニラへ飛んだ。(このあたりの詳しい話は、以下のリンクから)

マカティのスペイン料理屋に集合したのは、Rude-αと¥uK-Bのほかに、マニラを拠点に活動するラッパー、Alisson ShoreとWaiian。MC Galangが間に入ってくれて、なかなか良い話ができた。ファイルの交換だけでなく、直接顔を突き合わせて話をすることの大切さを改めて実感した。ちなみに、このスペイン料理屋がとても美味しかったのだが、かつてフィリピンがスペインの植民地だったことにも関係があるのだろうか。

(L→R) Rude-α, ¥uK-B, Alisson Shore. 1st contact in Manila

この時期は、コロナ禍終盤で、ジャカルタには2度のワクチンの接種がないと入れなかった。仕方なく、私が一人マニラからジャカルタに飛んでTanayu と話をした。コロナ前の2019年に、"Bangkok Music City"で見た彼女のパフォーマンスがとても印象的だった。不思議なのに尖った世界観はアジアのアーティストにはあまり見られないもので、存在感も抜群だった。一度、2020年に沖縄でのイベントに来てもらうことになっていたのだが、その時はやむをえずキャンセルしていた。

Tanayu(右)とJakartaにて。

1月のマニラ、ジャカルタ行きで、参加アーティストの一応のコンセンサスは取れたつもりでいた。曲作りは一気に進むかと思いきや、なかなかエンジンはかからなかった。WhatsAppで、グループチャットを作って、意見を交換するとことから始めた。曲のテーマを何にするかということは、とても重要で、キーワードを出してもらうことから始まった。
私自身は、あまりチャットには口を挟まず、成り行きを見守っていた。やり取りが長らく中断すると、¥uK-Bに言って、チャットにネタを投げ込んでもらいつつ活性化を図っていった。

Manila, March. 2023。Revisited for Wonderland Festival.
下町の全天候型のバスケットボールコートでは本気のゲームが。

チャットを通して浮かび上がったキーワードは、新たな時代の”変化”や明日へ向けた“希望”、異なる文化や価値観を持つ土地での“相互理解”。
サウンド面で、沖縄側から提案したのは、2000年代前半の少し古いビートのイメージで、平和な雰囲気でかつ、シリアスなイメージが伝わるもの。4月、マニラのAlisson Shoreからは、最初のトラックが送られてきた。
そこからはTanayuが歌うサビのメロディーが届き、4人のラッパーがそれぞれのパートに、キーワードに沿ったリリックを、母国語を交えて作っていった。ウチナー口、タガログ語、ジャワ語。英語や日本語だけでなく、それぞれが暮らす土地の言葉を自然に入れて欲しいということは、こちらから提案した。それぞれのアーティストが、お互いの想像力を源泉に、未来の希望のために道を探しながら、新たな音楽を紡いでいった。

並行して、イベントの準備も進めた。
イベントタイトルは、"Our New Songlines 2023”。
「Songlines / ソングライン」とは、オーストラリアの先住民アボリジニの人々の間に伝わる目に見えない道のこと。彼らは旅の途中で出会ったあらゆるものに導かれ、その名前を歌いながら見えない道を辿って新たな世界を目指したといわれる。さまざまな情報が複雑に渦巻く現代においても、コザ、マニラ、ジャカルタ、3つの街のアーティストが、未知の出会いを求めて新たな音楽を紡ぐことで、明日への希望につながるという思いを込めたのだ。

ロゴは、オーストラリアのデザイナーによるもの。
アボリジニの紋様をモチーフに使ったとのこと。

それにしても、知らないというのは恐ろしいことで、トラックメイカーを含めて6人のアーティストが共作するというのは、考えてみればなかなかハードルの高い作業だ。そのことに気がついたのは、曲が出来上がる直前のことだった。
7月に入り、徐々に曲の全貌は見えてきたものの、バッキングボーカルの追加のレコーディングやミックスの微調整などが長引いて、最終的にマスタリング済みの缶パケが仕上がったのは、8月8日のことだった。
タイトルは、Tanayuが作ったサビのワードから「Love Live Life」。多様性とユニバーサルな感覚を併せ持った作品が出来上がった。

初めて顔を揃えて音を出す。ミュージックタウン音市場。2023年8月
"Our New Songlines 2023” 本番日。
前日東京でのイベントを終えたRude-αが合流して、初めて全員が一堂に会した。

"Our New Songlines 2023”の公演は、8月26日。海外のメンバーは8月24日に沖縄入りして、25日にリハーサルを行った。Rude-αはイベント出演のため、入りが1日遅れて公演当日となった。メンバー5人が揃うのはこの時が初めてだった。顔を合わせるのが初めてとはいえ、ほぼ半年間に渡って作品を作ってきていたこともあって、それぞれがあっという間に打ち解けられた。
ミュージックタウン音市場でのリハーサルの合間を縫うように、ゲート通りで開催されていたバスケットボールW杯のファンゾーン”Koza Fes"のステージイベントで15分だけ時間をもらった。

ゲート通りでの”Koza Fes"リハーサル。この後、激しいスコールに見舞われる。

リハーサルの時は青空が広がり、太陽が照り付けていたものの、本番は突然の大雨に見舞われた。夕方以降のプログラムが中止を余儀なくされるほどの激しいスコールの中、「Love Live Life」が披露された。

音源は9月にデジタルでリリースした。PVは、8月26日のライブ映像をベースにしたもの。

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