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禍話リライト「味噌汁の匂い」

 菩提寺を出入禁止になった、A山さんという男性がいる。よほど罰当たりないたずらでもしたのかというと、そうではないらしい。
 曹祖父母や祖父母を見送って、A山さんは幼いころから何度か葬儀に出席していた。葬儀は本堂で執り行われ、本堂の横に遺族の控え室があった。さらにその隣に、何に使っているのかわからない部屋があった。閉めた襖の向こうからは味噌汁の匂いが漂ってきていたそうだ。
 台所とつながってるのかな。そこでご飯を作ってるのかな。
 葬儀のたびに味噌汁の匂いがするので、A山さんはそう考えて納得していた。


 ある年、法事で寺を訪れた際に匂いのことを家族に話したそうだ。その日は匂いはしなかった。

「えー、違うでしょ」
「確か押し入れじゃなかったっけ?」

 大人たちは否定したが勝手に開けて覗くわけにもいかず、やって来た住職に襖の向こう側のことを尋ねた。

「ああ、押し入れですよ」

 こともなげに言う住職が襖を開けると、そこには座布団がしまわれていた。子供の勘違いだと笑い話として片付けられた。
 その二、三日後、A山少年は出入禁止を言い渡されたのだ。
 押し入れの件が関係しているようだが原因ははっきりしなかった。住職から話を聞いた先代の住職が、その子はもう寺に来ないほうがいい、と言ったのだそうだ。


 ところでA山さんにはひとつ年上のお兄さんが居て、お兄さんは弟の出入禁止の件に納得していなかった。悪いことなんて何もしていないのにあんまりじゃないか、と。
 何かの用事で寺に行ったときに、お兄さんは大人たちの目を盗んで控え室の隣の部屋を確かめたらしい。

「あれ、押し入れじゃなかったよ、ぜったい」

 帰宅したお兄さんはそう言った。
 子供の目から見てもおかしい。元から押し入れとして作られたとは思えない。むかしは普通の部屋だったのを潰して、出入り口近くに壁を付け足して、無理やり押し入れに仕立てたように見える。押し入れにしては奥行きが狭すぎる。

「だからおまえ、やっぱり来ないほうがいいよ」


 それから数十年が経つけれど、いまだにA山家のなかで彼だけが本堂への出入りを禁じられている。住職が代替わりしてもなお。
 法事などがあれば顔を出すが、本堂で何かするときにはA山さんは外で煙草を吸って待っているのだそうだ。


※「震!禍話 十四夜」より

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