禍話リライト「回覧村」
廃墟探索をやめた、ある男性の体験談だ。
友人たちと三人で、山にある廃集落を探索したそうだ。
十戸ほど潰れかけた家屋が点在するなか、一戸だけ表札が付いた家があった。
〝吉田〟と。
好奇心の赴くままに、三人は家のなかに入って玄関を閉めた。
家のなかは荒れてはいたが、それまで覗いたほかの家に比べれば、家具も残っていてちゃんとしている。頑張れば住めそうな気さえする。さすが表札がある家は違うなあと笑っていると、
「回覧板持ってきましたあ」
外から声が聞こえた。
夜だ。
日付も変わりそうな時間帯だ。
玄関も引き戸の向こうも暗闇で、明かりがまったくないところから声が聞こえた。二十歳くらいと思われる男性の声だった。
「回覧板、置いときますねー」
みんな呆気に取られて反応できない。
声の主は玄関前に何かを置いたようだ。
声の感じからして体格は細身だろう。探索メンバーは元ラガーマンでガタイがいい奴ばかり。もし相手がナイフを持っていたりしても、まあ勝てる。
勝算があることを確認し、一人が玄関の引き戸を開けた。
置かれていたバインダーを素早く回収して、また閉める。
バインダーに挟まれた紙に何が書いてあるのか。
その内容を理解した瞬間、三人全員が家を飛び出し山の麓までダッシュで逃げたそうだ。
紙には達筆な筆文字でこうしたためられていた。
三人入って行くのを見たから、
吉田さんの家の中に三人居るのは
分かっています。
一人は五体満足では帰しません。
ちょうない会
そんなことがあって、廃墟探索はやめたそうだ。
※「ザ・禍話 第二十四夜」より
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