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あるタクシードライバーの場合 いわなの郷物語



イワナくてもわかるかもしれませんが、フィクションです。

800字弱。


東京の夜は
俺のためにあった。

タクシードライバーとして
夜の東京を駆け巡る

特に
夜の商売の方を得意として来た。
決して悪くない稼ぎも得られて来た。

それがコロナショックで一変する。

夜の商売も閑古鳥になれば
タクシーに乗る人も減る。
電車に乗る人も減っては、終電後いくら待ってもタクシーには乗らない。

ゼロと言っていいほどだ。

土曜の夜の営業を終えて
コンビニコーヒーをすする。
日曜の朝日もずいぶん高くなっていた。


「あ そうだ」


思い立って
北へ車を走らせる。

一度だけ来た場所。
もう5年も前だったかなあ。


日曜日も昼近くになっていた。


案外人がいるねえ。


驚いた。

こんなに人がいるとは。
5年前とはずいぶん違う。

あの時は少なかった子供の声が
違った雰囲気を作っていた。

ここって
そもそも
大人というより子供が楽しむ場所だったのかも。


忙しそうなスタッフに声をかける。

「塩焼きありますか?」

「先ほど売れてしまったところで・・・。
 焼くのに40〜50分かかっちゃうんですよ〜。」

「・・・・」

ちょうどよく
子供の大きな叫び声が聞こえてくる。

「ああああああ
 うおおおおおお
 ●●×〆!∈∮・・・」

なんだか言葉にならない声。

魚が釣れて興奮しているのが
やけに伝わって来た。


「よかったら釣ってみてはどうです?」

(全く考えてなかったけど、釣ってみるかあ)


釣りをしてみることにした。
若い頃何度かしたけど、その時のことも覚えていないほど。

餌をつけて投げてをただただ繰り返した。


全然釣れない。


まあいいか
そう簡単に釣れるわけないもんなあ。

投げやりになってもいた。

コロナさえなければ・・・
こんなことさえしてないのに。

たちまち
頭の中に
黒い雲がはびこり
心の中は
自分を責める自己卑下の雷鳴が轟いていた。

つづく

ご縁に感謝です。サポート頂いたら、今後の学習投資に使わせて頂きます。