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働く母親の課題から生まれたスタートアップ、Zūmの成功:女性起業家がスクールバス業界を変えた物語
渡米して2年半、アメリカに来てすぐに目にしたのが、道路を走る黄色いスクールバスだった。
スクールバスが赤いランプを点滅させ、「STOP」サインを表示している間、前後の車両は必ず停止しなければならない——アメリカではこれが当たり前の光景だ。
「スクールバスのシステムは、きっとしっかり整備されているんだな」そう思っていた。しかし、それは大きな誤解だった。
実際にアメリカで子育てをしてみると、スクールバスの本数が少なく利用できる子供が限られていること、親の送迎負担が大きいことに気づいた。私が住んでいるカリフォルニア州では12歳未満の子供を一人にすることは推奨されておらず、徒歩通学の文化もないため、学校への送迎は親の負担になりやすい。
「スクールバスがあるなら便利なのでは?」と思っていたが、実は 100年以上も変わらない深刻な課題 があったのだ。
そんなスクールバスの課題を解決しようと立ち上がったのが、シリコンバレーの女性起業家 リトゥ・ナラヤン(Ritu Narayan) だ。彼女自身も働く母親としてスクールバスの非効率さを痛感し、Zūm(ズーム) というスタートアップを立ち上げた。
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アメリカのスクールバスに潜む、見過ごされていた課題
毎朝、何百万人もの子どもたちを乗せて走るアメリカのスクールバス。しかし、その運営方法は100年近くほとんど変わっていない。
・ルートの最適化がされておらず、1時間以上かかる通学も当たり前
・保護者は子どもが無事に学校に到着したか分からない
・学校や学区の管理者は、運行状況をリアルタイムで把握できない
・バスのほとんどがディーゼル車で、環境負荷が高い
テクノロジーが進化する中で、なぜスクールバスは取り残されたままなのか?
そんな疑問を持ち、業界に変革を起こしたのが、Zūm(ズーム)の創業者 リトゥ・ナラヤン(Ritu Narayan) だ。
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働く母親の経験から生まれたビジネスアイデア
リトゥ・ナラヤンはシリコンバレーでキャリアを築いていたが、ある日、自分の子どもの送迎問題に直面する。
「娘を迎えに行く人がいない。
じゃあ、仕事を中断して迎えに行くしかない?」
この経験が、彼女の過去の記憶を呼び起こした。
実は、彼女の母親も同じ問題に直面していた。インドで暮らしていた彼女の母は、家族のためにキャリアを諦めざるを得なかったのだ。
「なぜ、現代のテクノロジー社会で、子どもの送迎問題がまだ解決されていないのか?」
この疑問が、彼女を起業へと駆り立てた。
2015年、Uberのように、信頼できるドライバーをアプリで呼べるサービス「Zūm」を立ち上げた。
当初はB2C(一般家庭向け)のサービスとして、親がアプリで送迎を予約し、リアルタイムで子どもの位置を確認できる仕組みを提供した。
しかし、事業を拡大するにつれ、B2Cモデルの限界に直面する。
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B2Bへの転換:規模拡大のための決断
サービスを提供していく中で、学校側から「Zūmにスクールの送迎を依頼できないか?」という声が増え始めた。
これをきっかけに、ZūmはB2B(学校・学区向け)モデルへとピボットすることを決断。
学校が管理していた送迎システムを、Zūmのプラットフォームで一括管理
ルートの最適化により、通学時間を短縮し、コスト削減
保護者向けのリアルタイムトラッキング機能を導入し、不安を解消
EV(電気バス)を導入し、持続可能な送迎システムを実現
この戦略が功を奏し、Zūmは次々と大規模な契約を獲得。現在、Zūmは4,000以上の学校や学区にサービスを提供している。
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Zūmの成功要因:なぜこのビジネスモデルが機能したのか
Zūmがここまで急成長した背景には、業界の非効率を解決するための強力なビジネスモデルがあった。
✔︎ DX(デジタル・トランスフォーメーション)による業務効率化
従来のスクールバス業界は、ルート管理や運行情報が紙ベースで管理され、非効率的だった。
Zūmは、アプリやダッシュボードを活用し、運行管理・保護者のトラッキング・ルート最適化をデジタル化。
✔︎ B2Bモデルによるスケールアップ
B2Cモデルでは成長の天井があったが、学校区(学区)との契約を獲得することで、大規模な安定収益を確保。
大手スクールバス業者とも競争し、契約規模は数億円単位に
✔︎ EV(電気バス)の導入で環境負荷の低減
ZūmはディーゼルバスからEVスクールバスへの移行を進め、持続可能な送迎システムを提案。
✔︎ 政府・公的機関との契約による収益の安定性
公立学校との契約は長期契約が多く、一度契約を獲得すると安定した収益源となる。
このビジネスモデルは投資家からの評価も高く、Zūmはユニコーン企業(評価額10億ドル超)へと成長。
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「社会を変える起業家」になるのは、あなたかもしれない
Zūmの成功は、「働く母親が感じた小さな課題」が、やがて社会全体を変える大きなイノベーションになりうることを証明した。
そして、この物語は決して特別なものではない。
女性だからこそ気づける視点があり、だからこそ社会を変える力がある。
もしあなたが「自分には無理」と思っているのなら、それは単なる思い込みかもしれない。
身の回りの課題に目を向け、それを解決する手段を考えたとき、新たなビジネスの可能性が生まれる。
これからも、私たちの社会には、変革を求める課題が無数にある。
テクノロジーと起業家精神が融合することで、新しい未来は必ず実現できる。
そして、その変革を生み出すのは、他でもない、あなた自身かもしれない。
参考文献
Liz Brody, "This Startup Is Reinventing the Yellow School Bus. Here's Its Playbook for Winning Over the Hardest Customers (Like Public Schools)," Entrepreneur, September 19, 2023. https://www.entrepreneur.com/starting-a-business/this-startup-is-reinventing-the-yellow-school-bus-heres/458411.
"What helped this founder pivot and help modernize the largest transit system in the US?" World Economic Forum, April 25, 2024. https://www.weforum.org/stories/2024/04/schoolbus-scale-entrepreneur-technology-transformation-safety/.
"Zūm Business Model Canvas," Vizologi. https://vizologi.com/business-strategy-canvas/zum-business-model-canvas/.
Zūm Official Website: https://www.ridezum.com/