【特別公開】≪現代文学の構造分析 1≫ 『電気ちゃん』(楠章子)が乗り超えたプロットの枠組み
次代のプロ作家を育てるオンラインサロン"「私」物語化計画"の本編。タイトルは『現代文学の構造分析1 『電気ちゃん』(楠章子)が乗り超えたプロットの枠組み』。今回は、楠章子さんの小説『電気ちゃん』の構造分析を元にして、小説におけるワールドモデル(世界観)とは何かをテーマとしている。
この作品は現代小説である。児童文学が多い楠さんにとっては、むしろ珍しい作品なのかもしれない。
児童文学はわかりやすいストーリーのように見えて、実は抽象度が高い。フィクションの度合いが深いという意味だ。『電気ちゃん』は現代小説なので、抽象度が低い分リアルである。リアルに書かなければならない、というのがこの小説のワールドモデルなのである。
引用:現代文学の構造分析1 『電気ちゃん』(楠章子)が乗り超えたプロットの枠組み 山川健一
楠章子さんの略歴は次の通りだ。
大阪府に生まれる。第45回毎日児童小説・中学生向きにて優秀賞受賞。2005年、『神さまの住む町』(岩崎書店)でデビュー。作品に『古道具ほんなら堂〜ちょっと不思議なあり〜』『小さな命とあっちこっち〜古道具ほんなら堂2〜』(毎日新聞社)『はなよめさん』『ゆずゆずきいろ』(ポプラ社)『ゆうたとおつきみ』(くもん出版)『まぼろしの薬売り』(あかね書房)『電気ちゃん』(毎日新聞社)などがある。
また、下のインタビュー記事(略歴の引用元)で挙げられている『ばあばは、だいじょうぶ』は、実写映画化され、ミラノ国際映画祭で、最優秀主演男優賞(寺田心くん!)、最優秀監督賞をW受賞した。
楠章子さんはオンラインサロン"「私」物語化計画"に参加している会員であり、例としてはとても身近なものと言える。なんといってもサロン内に作者がいるのだから。講義の構造分析を受けて、コメント欄がどのように賑わうのか楽しみである。
Webサイト上にテキストの冒頭部分が特別公開されている。まずは、これををチェックした上で、わたしの感想を読んでいただければと思う。
わたしの感想
楠章子さんの小説『電気ちゃん』の内容には触れない。理由は単純。どうしても、山川健一さんの構造分析を引用しないわけにはいかないからだ。Facebookの非公開グループにアップされた講義を外部へ漏らすのはご法度なので、その点はご勘弁してください。
ということで、こちらを軽く掘ってみる。
児童文学はわかりやすいストーリーのように見えて、実は抽象度が高い。フィクションの度合いが深いという意味だ。『電気ちゃん』は現代小説なので、抽象度が低い分リアルである。リアルに書かなければならない、というのがこの小説のワールドモデルなのである。
リアルについて。
この場合の、つまり小説のリアルとは、コトバンクの解説(デジタル大辞典)の2番目が適切かと思う。
表現に現実感・迫真感のあること。また、そのさま。写実的。「リアルな肖像画」「苦悩をリアルに描く」
引用:コトバンク
「リアルとは何?」とまともに向き合ったら、いくら字数があっても説明なんて付かない。だらだらと書き綴ってしまう。まあ、小説にとってのリアルとは、カタカナ3文字で言い表せるほど単純ではないということだ。
例えば、事細かに情景描写や心理描写を続けたとしても、読み手がそれに現実感をもって共有してくれるかどうかは別の問題だ。「泣けるだけ泣いたら気持ちが軽くなった」と書いてあっても、それと同じような体験をした人と、まったくしたことがない人では、文章から生まれる感情に大きな差が生じる。
例えば、地名や人名などの固有名詞を出してきたとしても、読み手がその地名や人名にイメージをもっていなければ、単なる記号としての意味しかない。「現代の東京」と書かれていれば少しは実感があるかもしれないが、「19世紀のロンドン近郊」では、それを共有できる日本人は少ないだろう。
書き手と読み手の間を繋ぐはずの言葉や文章がイメージ共有の妨げになっている。つまりは、言葉の限界ってやつだ。矛盾というか、一種のジレンマというやつだな。テレパシーかなんかで書き手のイメージをそのまま100%、読み手へと伝達できれば楽なのだが、そういうわけにもいかない。
書き手は読み手に伝わるよう、最善の注意を払って言葉を選ぶ。それでも、完璧には届かない。言葉は不自由だ。でも、だからこそ、小説はおもしろいとも言える。不完全がゆえの曖昧さや不可思議さが、小説という表現を豊かにしてくれているのだ。
小説のリアル、そんなふうに思っている。
とりあえず、小説って、難しいわ……。
Text:Atsushi Yoshikawa
(注)感想はあくまでも、わたし個人の感想です。決して、"「私」物語化計画"の講義に対する正答や正解ではありません。
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