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【特別公開】≪いよいよ旅立ちだ! 3≫ 「橋守を倒してルビコン川を渡る」

次代のプロ作家を育てるオンラインサロン"「私」物語化計画"の本編。前回に引き続き、小説の旅立ち=『すなわち1行目を書くということだ』についての講義だ。サブタイトルは「橋守を倒してルビコン川を渡る」。テキストの大半は泉鏡花「化鳥」についての言及だ。

いつものように話がそれるが、泉鏡花が初めて口語で書いた「化鳥」という短編があるが、この作品の主人公の母親が橋番だった。

いよいよ旅立ちだ! 3「橋守を倒してルビコン川を渡る」 山川健一 より

Webサイト上にテキストの冒頭部分が特別公開されている。以下、山川健一さんによる講義の概要動画とWebサイトのリンクを貼った。まずは、この2つをチェックした上で、わたしの感想を読んでいただければと思う。

以下、この講義を読んでの、わたし個人の感想だ。

わたしの感想

講義テキストは、物語の序盤に登場する「小鬼」=「橋守」との戦いが語られている。泉鏡花「化鳥」はそのサンプルだ。講義の内容をここに書くことはできないので、泉鏡花、そして「化鳥」という作品について、だらだらと書いてみる。

泉鏡花

泉鏡花の熱心な読者ではない。が、ある時期に、しっかりと泉鏡花を通った。10代の半ば頃だったと思う。初めて読んだ小説がどれだったのか、まるで覚えていないのだけれど、たぶん、幻想小説のアンソロジーに収録されていた掌編だったはずだ。名作「高野聖」を手にとったのはずっと後のことだった。

江戸川乱歩や横溝正史が好きだった小学生は中学高校とあがるにつれて、他の作家の本を読むようになっていた。月刊ムーや「ノストラダムスの大予言」のブーストもあった。幻想小説=現実ではありえない物語。そんなジャンルのことなど、まったく気にしてなかった。読んで、おもしろければ、それでよかった。

幻想的、という大きな枠でとらえれば、主に日本(日本語)と日本以外の外国(翻訳)にわかれる。翻訳された小説や作家を書くと長くなるので割愛。日本の作家だけに限れば、夢野久作、中井英夫、稲垣足穂、などなど。カビ臭い和箪笥の、引き出しの奥にしまい込まれたようなお話の世界へ没頭するのがとても心地よかった。

短編長編の区別なく、日本の幻想小説でのベストを選ぶとすればこの3編。あえて、青空文庫でよめるものに限定してみた。

夢野久作「ドグラ・マグラ」。米倉斎加年さんの表紙絵が最高なので、角川文庫のほうがいい。

小川未明「金の輪」。ファンタジー、児童文学としても秀逸。

江戸川乱歩「鏡地獄」。初めて読んだ、明智小五郎&怪人二十面相以外の江戸川乱歩作品なので。


「化鳥」

水木しげるではないけれど、近代化する以前の日本には妖怪や物の怪の類が入り込む隙間があった。特に、口語で書かれた小説は口伝(市原悦子さんの「まんが日本昔ばなし」みたいなもの)の趣を感じる。もちろん、泉鏡花「化鳥」にも。ぜひ、だれかに読み聞かせしてもらっている気分でページをめくってほしい。泉鏡花「化鳥」は青空文庫で読める。

泉鏡花の作品は何度も映画化されている。たとえば、「滝の白糸」「日本橋」「夜叉ヶ池」など。個人的には松田優作主演した、鈴木清順監督の「陽炎座」が好み。「化鳥」は絵本やマンガに秀作がある。中川学「絵本 化鳥」と、波津彬子「化鳥」。どちらも、原作を繊細に昇華している。

波津彬子さんの「化鳥」が収録されているのは『幻想綺帖 一』。サキ「開かれた窓」や中島敦「山月記」なども含まれている。波津彬子さんは「雨柳堂夢咄」をネムキで連載していたマンガ家だ。日本のマンガ史で、月刊ハロウィン→眠れぬ夜の奇妙な話→ネムキという流れは後世に残していくべき価値があった(と思っている)。

日本の、怪奇や幻想をモチーフにした映画で、ひとつの頂点を極めたものに「東海道四谷怪談」(1959年)だ。監督は中川信夫、伊右衛門を演じた 天知茂の存在感がすごい。何度も映画化されているが、この作品は別格だ。

泣き叫んだり、大声で喚き散らしているのが名演ではない。物騒な仕掛けで観客を驚かせるのが優れた映画ではない。静寂にこそ、俳優の演技力や映画の真価が問われている。それは小説も同じではないかな?と思っているんだよね。


Text:Atsushi Yoshikawa

(注)感想はあくまでも、わたし個人の感想です。決して、"「私」物語化計画"の講義に対する正答や正解ではありません。

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