【特別公開】≪工学的構築物としての小説2 ≫ 書き出しの現象学(自分探しの旅編)
次代のプロ作家を育てるオンラインサロン"「私」物語化計画"の本編。タイトルは『工学的構築物としての小説2 書き出しの現象学(自分探しの旅編)』。前回に引き続き、「書き出しの現象学」についての話だ。今回は、「書き出しの現象学」を自分探しの旅に応用するという試みが成されている。
この考え方において最も重要な事は、僕らのストーリーに「偶然」は存在しないということだ。ここで言うストーリーとは、あなたが書く小説であり、同時にあなたが今まで生きてきた時間の積み重ねのことでもある。
つまり物語のことである。
引用:工学的構築物としての小説2 書き出しの現象学(自分探しの旅編) 山川健一
Webサイト上にテキストの冒頭部分が特別公開されている。まずは、これををチェックした上で、わたしの感想を読んでいただければと思う。
わたしの感想
つまり、優れた小説であればあるほど「偶然」は排除されることになる。
と、講義のテキストに書かれているが、実はその先を読み進めば、ある種アンビバレントな文章に行き当たる。
その前にお断りしておかなければならないが、僕は本当は神秘主義者である。同時に文学主義者でもある。大学の教員をやっているときには、差し障りがありそうなので、自分のそんな側面をなるべく学生には見せないように注意してきた。
(中略)
神秘主義者だと言うと、変人扱いされそうだが、なに、文学の世界では谷崎潤一郎も川端康成も、あの夏目漱石でさえ神秘主義者だったではないか。
神秘主義と書かれると、どうしても胡散臭い響きが漂ってくる。おそらく、「神秘」という漢字のイメージがそうさせるのだろう。オカルトやエセ科学、トンデモ系に近い感じだ。特に、根っからの宗教があまり浸透していない日本ではその傾向が顕著である。
ただ、ここで語られている神秘主義とは、1960年代あたりに始まったニューエイジやら、そのムーブメントに影響を与えたユングの思想やら、もっと古くで言えば密教やヒンズー教あたりの話が近いのだと思う。
その文脈で語られる「偶然」で、頭に浮かんでくる単語は「シンクロニシティ」だ。日本語なら「共時性」などと訳される。意味としては、虫の知らせや、意味のある偶然の一致だ。
小説という枠組みで「シンクロニシティ」を語るとすれば、たぶん、たぶんだが、このような例えになると思う。
ストーリーのネタを考えている。そんなときに、ふと、あるアイデアというか、モチーフが頭に飛びこんでくる。ただ、一見、理性的に考えてみると、そのモチーフはストーリーに合わない。でも、せっかく思いついたものだから、どこかにメモしておく。さらにストーリーを詰めていく。そうすると、その無関係に思えたモチーフが、実はあとあとになってプロットを繋ぐ重要な鍵になったりする。
そのモチーフがどこからやってきたのかはわからない。確かに、その作家が考えついたものであるが、どうしてそんな思いつきが出てきたのか、明確に説明することができない。まさに神秘である。
こういうことは小説に限らず、起こり得る事象だ。普段の生活で、自分が考えたとは思えないような突然のひらめきが物事を進めていくなんて、大なり小なり、どのような人であっても経験したことがあると思う。
わたし?
ある、ある。あとで自分自身がいちばん驚くような偶然の一致があった。超プライベートに関わることなのでここには書けないけれど、あのときは本当に驚いた。その瞬間も記憶に残っている。もちろん、その偶然の一致は今でも説明できない。
「シンクロニシティ」を脳科学的に説明することは可能なんだろう。ただ、こういう偶然の一致は神秘的なカテゴリーに留めておく方がいいような気がする。人間の曖昧な素敵さを表しているようでね。科学がどれほど進歩しようとも神秘はずっと神秘のままとして残っていくような気がする。
Text:Atsushi Yoshikawa
(注)感想はあくまでも、わたし個人の感想です。決して、"「私」物語化計画"の講義に対する正答や正解ではありません。
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