想いを、歌に乗せて。
歌うことが得意だった。
歌うことしか得意なことがなかった。
誰もが僕の話を聞いて「何を言いたいのかわかりにくい」と首を傾げ、
誰もが僕の歌を聞いて「心に染み入る素晴らしい歌だ!」と大絶賛した。
そんな僕が、今日、一大決心をした。
この大舞台であの娘へ思いを告げるのだ!
選んだのは遊助の「全部好き。」
僕の今の気持ちを代弁してくれるこれ以上ない曲だ。
「それでは歌っていただきましょう。
遊助の「全部好き。」です」
司会の言葉で僕は前に出て、スポットライトを浴びた。
客席の視線が刺さり、身動きが取れなくなる。
僕はなんでこんなところにいるんだ?
授業中に先生に当てられたぐらいで緊張して何も喋れなくなるのに…
僕なんかが、テレビなんて注目を集める場所に出てきて、良いはずないのに
そんな時、聞こえてきたカウントの音。
それにあわせて僕は条件反射で歌い出した。
頭は真っ白だったけど、耳に入ってくるメロディに自然と歌詞がついてくる。
あぁ、やっぱり僕には歌しかないんだ。
あぁ、やっぱり僕には歌があったんだ!
こうして歌い上げた僕に審査員は3つの鐘の音を鳴らした。
人から見ると大した成績ではないが、僕にとっては大満足の祝福の鐘の音だった。
そして舞台を終えた後、
僕は客席で待つ彼女に会いに行った。
「…聞いてくれたかな?」
「うん、伝わったわ」
「それで、あの…」
「伝わった。って言ったでしょ?
私の答えはYesよ!」
やっぱり歌は言葉を超える。
やっぱり歌は気持ちを伝える。
そんな僕の話。
* 1月19日 のど自慢の日 *
1946年のこの日、NHKラジオで「のど自慢素人音楽会」が開始された。
[あとがき]
今日も短めですが、特に文字数には拘らず思った事を書いていけたらと思っています。
私も歌大好きです!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?