Escape
「…ん」
目を覚ますとそこは青い海と白い砂浜。
そして背後には緑の木々が生い茂っている。
そして横たわっていた体の近くにはカセットレコーダーが…
「今時これって…」
そんな事を呟きながら、俺はゆっくりと体を起こし、その場に座る。
ズキズキと痛む頭を抑えながら、どうしてこんなところにいるのか?直前までの記憶を辿る。
そうだ、俺は、学校に向かう途中に、黒ずくめの男たちに変な薬品を嗅がされて…
「マジかよ…」
そこまで思い出した時、俺は独りそう呟いた。
こんな漫画みたいな展開が本当に起こるだなんて、誰も想像もしてないだろ?
とりあえず当たりを見回してみるが、人気どころか人に関する痕跡は一切ない。
スマホどころか、ペットボトルやお菓子のゴミまで何一つないのだ。
「はぁ…無人島ってやつか?」
俺は一つため息をつくと、カセットレコーダーの再生ボタンを押した。
「おはよう。よく眠れたかな」
カセットレコーダーからは機械で声色を変えたような男の声が流れてきた。
ドラマとかでよく聞くあれだ。
「君には今から脱出ゲームに参加してもらう。
期限は1週間。
クリア条件はその島からの脱出だ」
男は一方的に話を続ける。
録音だからまぁそうだな。
そして最後に、
「それでは、健闘を祈る!」
そう言って録音は終了した。
お前らは誰なんだ?
なぜこんな事をするんだ!
なんで俺なんだ?!
聞きたいことはたくさんあったが、男へ連絡する手段はない。
おそらくカメラか何かで見ているのだろうが…
仕方なく俺はまずは当たりの状況を確認することにした。
見渡す限りは一面の海。
浜辺1周1時間。
とても小さい島のようだ。
茂みにも入ってみたが、特に人がいた形跡や猛獣がいるような様子はない。
そして幸いな事に小さな窪みには雨水が溜まっており、飲み水の確保は容易だった。
「さて、じゃあ初めるか」
俺は少しだけ気合いを入れて、脱出に必要な木材を集め始めた。
そして5時間後。
「ただいま〜」
俺は帰宅した。
「おかえり〜
って、何あんたそのボロボロの格好!
無人島でサバイバルでもしてきたの?!」
出迎えた母は砂と汗まみれの俺を見てそう言った。
母はすごいんだな。と思ったよ。
それから俺は警察に通報。
俺を拉致した組織は無事に捕まり、多額の損害賠償を貰った。
裁判中に奴らは、「金持ちの娯楽のためにやった」「ドラマや映画ではうまくいってたから絶対いけると思った」と言っていたが、まさかドラマを信じて実際に行動する奴らがいるとは…
それにしても、今回無人島に連れて行かれたのが、サバイバル検定1級でプライベートでも100回以上無人島脱出を成し遂げている俺で良かったなと思った次第だ。
みんなも突然の脱出ゲーム強制参加には気をつけろよ!
* 2月26日 脱出の日 *
1815年のこの日、エルバ島に流刑されていたナポレオンが島を脱出してパリに向かった。
引用:今日は何の日(https://www.nnh.to/02/26.html)
[ あとがき ]
前にも脱出ネタは書きましたが、今回はナポレオン様の事例に従い島編で。
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