
前代未聞!AIが執筆したAI佐賀新聞はどうして生まれたか?
2024年8月1日、佐賀新聞が紙面の全記事をAIに執筆させたAI佐賀新聞を発行しました。創刊140周年記念企画で、AIが行う2045年未来予想やAI執筆のコラムなど、AIによる制作物で紙面がうめつくされています。業界に先駆けてAIをフル活用した実験的な試みは大きな話題となりました。
そしてAI新聞執筆に活用されたのがAI支援ニュース編集アシスタント「StoryHub」です。今回、佐賀新聞の方にAI新聞制作の裏側についてお聞きしました。

スピード勝負だがセキュリティは譲れない。そんな時に出会ったのがStoryHub
—— AI佐賀新聞、拝読しました。人間が書いたものと遜色ない紙面になっていてとても驚きました。新聞社としてはおそらく初の試みですが、どうしてこの企画がもちあがったんですか?
林大介(以下、林)「現場でもAIに対する課題意識は以前から抱いていました。そこで社長の勧めもあり、会社として挑戦してみようということになりました」
—— 新しい挑戦に前向きな社風なんですね。StoryHubを知ったきっかけは何でしょう?
林「AIに新聞の紙面を書かせたことはありませんし、他社の前例もありません。実際にAIに紙面を書かせるにはどうしたらいいのか悩んでいた時、たまたま新聞協会でStoryHubの田島さんの講演を聞いたんです。StoryHubがなければ8月1日の発行には間に合わなかったと思うので、とても感謝しています」
—— ありがとうございます。導入の決め手は何ですか?
林「AIを使う上で、特に情報漏洩の不安が大きかったんです。StoryHubは入力した情報がAI学習に利用されないため、情報漏洩の不安が少ないことがセールスポイントの一つだったので、そこが一番大きな決め手になりました」

現状の生成AIの実力を知るミッションのため、紙面のほぼ100%をAIが執筆
—— AI新聞を作るにあたってどのようなことに苦戦しましたか?
志垣直哉(以下、志垣)「これまで業務でAIをあまり使ってこなかったので、AIの癖に慣れるところが一番大きなハードルでした。今回のAI佐賀新聞は、全てAIに書かせることを目的としていたので、あえて私たちで編集しないようにしたんです。本来のStoryHubの使い方としては推奨されていないと思うのですが」
—— StoryHubではAIに75点くらいのものを作らせた後、人間が手を加えて100点に近づけるような使い方を推奨しています。今回はほぼAIに書かせたんですね。
林「段落の頭を一字下げるとか、改行するところまでAIにやらせました。間違った文章を人の手で削る作業はしましたが、ほぼ100%AIが書いた文章です。現状の生成AIの実力はどのくらいなのかきちんと見せることがミッションでしたので、ここからは普通人間がやるだろうとわかっていながら、わざと全てAIに書かせました」
—— そうするにはプロンプトを相当工夫しないといけないので、とても苦労されたんじゃないかと思います。
林「きちんと理論立ててプロンプトを書かないと思ったような文章が出てこないんですよね。なので、プロンプトを書く訓練をしていると、こんなふうに書いて欲しいとデスクとして人に指示する時にも応用がきくかもしれませんね」

AIの限界を知り、万能ではないAIを道具として活用していく
—— AI新聞にはAIが書いたコラムも掲載されていますが、こちらはどう感じましたか?
志垣「シンプルなプロンプトで及第点のものが出てきたので、みんな驚きました」
林「そうですね。文章としてはちゃんとしてるので及第点であることは間違いないんですけど、会社の看板コラムとして掲げるかというとまた別の話ですね。与えた情報をうまくまとめるだけなので、においがあるわけでも、感触があるわけでもない。なんとなくさらっとした感じの文章になるのは、AIの特性上、仕方ないのかなと思ってます」
—— AIを使って書かせるにしても、人間の意思を込めるディレクションをしっかりしないと、お利口で雰囲気がいいだけの文章が生まれがちというのは感じます。
今回のAI新聞の目的と合わず提案はしなかったのですが、StoryHubでは過去記事学習機能を提供しています。これにより、編集部独自のスタイルや空気感を再現させることができます。機会があったらぜひこちらもチャレンジしていただきたいです。
これから先、AIを使うなと言っても使わざるを得ないような状況になってくる。ですから、はやめに手を付けて課題をクリアしていくのが良いと思います。

—— AI新聞にはどんな反響がありましたか?
林「おおむね好評です。ただ編集部門からは、AIに通常のニュース記事を書かせるのは今の技術では厳しいと渋い声もあがっています。文章自体は問題ないんですけど、ハルシネーションの懸念や、誤りがないかチェックする手間がどうしてもあるので。
社外からの反響でいいますと、いくつかの新聞社さんが興味を示してくれて、紙面を送ってくださいというお声をいただいたりしています。AIを活用している点でわたしたちが注目をいただいているのは、ありがたいですね」
—— SNSでも他業界からナイスチャレンジだとポジティブな反応がよせられていました。AIに関しては、試してみないとわかんないと思ってる人が多いと思います。
林 「いや本当に。やってよかったなっていうのが正直な感想です。やってみてわかったことが多かったです」
社内にデータアナリストのような人材が揃っていないところでも、AIを活用することでどんどんデータジャーナリズムに挑戦していけるのではないかと予感しています
AI活用で見えた、データジャーナリズムへの可能性
—— 今後、新聞社さんはAIとどのように付き合っていくべきだと思いますか。
林「AIの出現は、新聞業界でいうと、これまで手書きで書いてたのがワープロに変わったくらいのインパクトがあると思っています。これから先、AIを使うなと言っても使わざるを得ないような状況になってくる。ですから、はやめに手を付けて課題をクリアしていくのが良いと思います。中にはAIに過剰な期待を抱いている人もいて、それはAIにはできないだろうっていうことを求めてしまうケースもあります。
例えば、AI佐賀新聞で実施した「AIによる2045年予測」も、AIが実際に何かを予測してるわけではなく、大量の資料を読み込んで、上手にまとめているだけの話だと思うんです。AIは万能じゃないことが、AIを使っていくとわかります。だから過大評価にもならない。AIをうまいこと使って、道具として活用していくのが一番いいのかなという感じはしてます」
志垣「私はAIを活用したデータジャーナリズムに可能性を感じています。私自身、使ってみて驚いたことがあるんです。別刷で、佐賀に関連する単語を教えてくださいというアンケートをとり、結果をワードクラウドにして載せる企画を行ったのですが、解答欄は自由筆記なので大量の表記揺れが発生します。表記揺れを一括修正するテクニックを持ち合わせてなかったので、StoryHubを使ってAIに相談しました。そしたら必要な手順とプログラムを書いてくれて、その通りにやったらうまくいったんです。これはすごく助かりましたし、大変驚きましたね。
新聞社では、データを使って報道に活かしていこうという動きが大きくなっています。そこでAIが生きてくる部分はすごく大きいんじゃないでしょうか。社内にデータアナリストのような人材が揃っていないところでも、AIを活用することでどんどんデータージャーナリズムに挑戦していけるのではないかと予感しています」

—— ありがとうございます。現状のデータジャーナリズムは、データ分析の専門家と協力して大掛かりなプロジェクトとして行うことが多いですよね。それが気軽に行えるようになると、大きなインパクトがありそうです。StoryHubでは今後、AIでデータジャーナリズムの支援も行っていきたいと思っています。
インタビュー実施日時:2024年8月23日
<※2025年3月3日に当社は社名・プロダクト名を「StoryHub」に変更しました。名称変更に伴い、旧社名・旧プロダクト名を「StoryHub」に修正し再公開しました。 2025年3月3日 社内編集部>
お話を伺った人
メディア局コンテンツ部長 兼 統合編集デスク 林大介さん
メディア局コンテンツ部 記者 志垣直哉さん
株式会社佐賀新聞社

佐賀県唯一の地方紙。2011年に九州初となる最新鋭の高速輪転機を導入したほか、2013年からスマホで読める電子新聞(紙面ビューア)の配信を始めるなど、業界の新たな取り組みを進める。2024年8月1日に創刊140年を迎えた。
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