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STORY STUDY 「2023年度に向けて」

大手町・丸の内・有楽町エリアの街づくりを担う三菱地所と、同社が開発を手がける有楽町エリアに仕事場を構える映画・映像企画会社のSTORY inc.が、2022年夏にスタートさせた共同プロジェクト「STORY STUDY」。

有楽町──映画館、演劇の劇場、コンサートホールやギャラリーをはじめ無数の娯“楽”が“有”る“町”──の魅力を再認識する、クリエイター発信型のイベントを定期的に実施し、「物語のある街」「街に集う歓び」を提案していくという。
 
2023年2月7日に開催された第3回STORY STUDYでは、2023年度の活動予定についてざっくばらんに語らい合った。


Chapter 1 第1回、第2回&東京国際映画祭を振り返って

まずはSTORY inc.の北林理沙から、2022年に開催された2回のイベントについて概要説明が行われた。第1回はOCA TOKYOにて、川村元気監督の映画『百花』の上映とともに、映画音楽を担当した網守将平さんと川村の対談を実施。第2回はSTORY inc.のオフィスに場所を移し、東京国際映画祭との共同開催によるスペシャル・プログラムとして、美術監督の種田陽平さんと川村の対談が実現した。
 
川村がコメントを入れる。
「種田さんの話で面白かったのは、岩井俊二監督の『スワロウテイル』や、自分にとっての集大成で最高傑作と言ってくださった是枝裕和監督との『舞妓さんちのまかないさん』といった良い仕事の合間に、失敗作を紹介してくれたんです。中国で100億以上かけたプロジェクトに関わって、街を丸ごと1個分ぐらいのものすごい美術を作ったけど、自分としては全く手ごたえがなかったんだよね、と。個人的にも面白かったですし、映画美術と俳優、街のセットとそこで暮らす住人との距離感に失敗したという話は、映画に限らない街づくりそのものについての話でもあったなと思うんです」

ところで──三菱地所とSTORY inc.は、普段どんなことをしている会社なのか? 
お互いについて、改めて自己紹介し合う時間が設けられた。

Chapter 2 有楽町が目指す”街”について

 三菱地所の茅野静仁執行役員から、自分たちが試みている街づくりについて、スライドを用いたレクチャーが行われた。

「私は30年ぐらい会社にいて、20年ちょっと街づくりの仕事をしてきました。頭の中だけで考えると大抵、間違えてしまう。外の現実を見にいくことで、気付かされる部分がたくさんあるんです。コロナ禍ですから細心の注意は払いつつ、チームのメンバーにはチャンスがあればいろんな街を見にいくようにと伝えています」

 街の変化の激しさがエンターテインメントなニューヨーク、とにかくストレスフリーなシンガポール、若者の生命力が路上にも溢れているベトナム、SDGsを日常生活の中で体現していたモルディブ……。スライドに使用した写真はほぼ、自ら撮影したという。現地の空気を吸ったからこそ得られる実感を大事にしながら、街づくりに臨んでいることが伝わってくる。

やがて話題は、日本へ。東京駅を中心とする大手町・丸の内エリア、STORY inc.のオフィスがある銀座・有楽町エリア、大阪駅前の再開発。飛騨(岐阜)、八女(福岡)、小千谷(新潟)、広島といった地方都市との協働イベント、中川政七商店と共同主催する「アナザー・ジャパン」という学生応援プロジェクトの紹介にも熱がこもった。

「三菱地所は東京の新たな街づくりを手がけることで、一極集中を狙っているんじゃないかと言われることがあるんですが、全くそんなことはないんです。我々がやりたいのは都市の再生と地方創生(地域との協働)、“どちらか”ではなく“どちらも”です。単に楽しいだけではなく、先がどうなるか分からないからこそ人はワクワクドキドキするものだと思うんですよ。街づくりはまさにそうで、そういった仕事をしていくうえで我々に必要なものはやはり情熱と魂だと思います。自分たちのマインドの一番奥底に流れているものは、みなさんも聞いたことがおありかもしれませんが、『人を、想う力。街を、想う力。』という三菱地所グループのスローガン。それから、三菱四代目社長の岩崎小弥太が示した『三綱領』の理念だと思います」

所期奉公──期するところは社会への貢献。
処事光明──フェアープレイに徹する。
立業貿易──グローバルな視野に立って。


Chapter 3   STORY inc.について 

続けて、STORY inc. 代表取締役社長の古澤佳寛から、「物語を世界に」と掲げ2017年9月に設立された会社のプロフィールについて説明が始まった。古澤は共同代表の川村と共に、東宝でキャリアをスタートさせた。
 
「映画館の“もぎり”、映画で日銭を稼ぐところからまず勉強するというのが当時の東宝のポリシーでした。僕は2000年に入社しまして、川村は2001年に入社。どちらも最初は関西の映画館に配属となり、同じ寮に住んでいた時期がありました。その後、川村はクリエイティブ寄りの業務に進み、僕は新規事業や映画公開後の作品の二次利用の業務、映画館の利用の仕方の改善などの仕事に携わることに。2016年に一緒に新海誠監督の『君の名は。』を手がけることになり、今後のエンターテインメントに関するビジョンの意気投合を経て、2人でSTORY inc.を立ち上げました」

STORY inc.は現在、11名の社員が在籍している。 

「アニメーションから始まり実写映画やドラマ、CMの制作、最近はウェブトゥーンの事業も始めましたし、海外でのビジネス展開も重視しています。ビジネスのうえで常に考えているのは、作品がヒットした時に、クリエーター側にできるだけ利益を還元するということ。現場のものづくりの大変さをよく知っているからこそ、フェアネスを重視した事業の組み立てをしています」 

STORY inc.は具体的にどんな「物語」に携わってきたのか? 3名の若手社員が発言した。 

新海誠監督の最新映画『すずめの戸締まり』にアシスタント・プロデューサーとして参加した今福太郎。

「STORY inc.が製作委員会の共同幹事を務め、『制作プロデュース』というクレジットで作品づくりにも携わったタイトルです。新海監督が企画書を作る段階から、映画が完成するまでの制作工程の中で、できる限りサポートをしております。アニメーションづくりはコミックス・ウェーブ・フィルムという制作会社が担当していますが、劇中登場する権利物の許諾取りや、キャスティングや音響面でのフォローなどを担っています。また、作ったものを広く届けるために何ができるか考えて動くのも我々の仕事です。配給会社である東宝の宣伝プロデューサーと相談しながら、予告編やポスターのディレクションなどにも関与しますし、映画の冒頭12分を事前に公開したり、来場者プレゼントとして、新海監督の書いた企画書や短編小説を配布するなどの試みも関係各所と話し合って決めていきました。また、CM放映を含む大型タイアップの取り仕切りも行っています。制作会社のコミックス・ウェーブ・フィルムと配給会社である東宝のリレーションの中に「アニメ制作現場」と「宣伝」のそれぞれに一定の知見があるSTORY inc.が加わることで、より大きなチャレンジができるよう尽力しています。」
 
昨年公開、荒木哲郎監督のアニメーション映画『バブル』のプロデューサー、加瀬未来。

『バブル』はNetflixで先行配信し、その約2週間後に劇場でも大規模公開という形式を取りました。配信会社と配給会社とでは、作品を観てもらいたいターゲット層が微妙に異なります。配信から劇場へ、劇場から配信へという相互作用に向けて試行錯誤した経験を、今後に活かしていけたらと思っています」 

Netflixで今年1月より配信された『舞妓さんちのまかないさん』のプロデューサー、鹿嶋愛。

「社が単独出資して制作した初の実写ドラマシリーズです。コロナ禍の初期の頃、原作の漫画を社員たちで読んで“ドラマにしたいね”と。舞妓という非血縁の共同体を描くならば、是枝裕和監督がうってつけなのではないかとオファーし、総合監督を引き受けていただけることになりました。細かく言えばたくさんのトライがあった作品なんですが、非常に珍しいプロセスとしては、各話演出のオーディションも行ったんです。10人前後の若手監督に声をかけ、キャストのオーディションの演出を任せて私たちはそちらも見る。いわばダブルオーディションによって、俳優陣とともに3人の若手監督も決定しました。みんなで4ヶ月ほど京都での撮影期間を過ごし、種田陽平さんの美術の力も借りて、素晴らしい作品に仕上がりました」

STORY inc.は広告制作も手掛ける。ポケモンとエド・シーランのコラボMVでプロデューサーを務めたのは、川村元気。

「エド・シーランが子どもの頃からずっと好きで今でもプレイし続けているポケモンが、鳥獣戯画みたいな線画のイマジナリーフレンドキャラになって、彼のレコーディングを手伝うというコンセプトです。広告的な入り口ですが、仕上がりはミュージックビデオなんです。YouTubeで広告が流れてきても、飛ばしてしまうじゃないですか。きっちり観てもらうにはどうしたらいいだろうというところで、広告を作るというよりは、作品を作るのがいいだろうと思ったんです。作品を作れば、最後まで見てもらえるし、広告効果にも繋がる。僕らが得意とする物語の作り方は広告に生かすこともできる、と自信を抱くことができました」 

2023年秋には、自社製作による劇場用長編アニメーション映画『きみの色』(山田尚子監督、サイエンスSARU制作)が公開予定だという。

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川村は言う。 
「今振り返ってみれば、社名をSTORYにしたことが決定的だったのかなと思います。諸先輩方から、“エンターテインメントでもサービスでも何でもストーリーをみんな欲している。その社名はずるい”と言われたのは最高の褒め言葉だったんだな、と。STORYはHISTORYを踏まえてこそ生まれるものだという考え方も大事にしていますし、これは最近発見したことなんですが、STORYの中にはTRYの3文字が入っている。僕らは社是の一つとして『サプライズ』を掲げているんですが、守りに入らずアグレッシブな挑戦をすることで、“うわ、そういう手があったか”とか“びっくりした”という反応が来るのが、いい企画だと思うんです。そういう企画のヒントを得るためには、同業他社だけを見ていてもしょうがない。むしろ他業種の仕事に積極的に触れて、“なるほど、時代は今こういう気分なんだ”という発見を得ていきたい。その経験を糧に面白いものを作っていきたいので、STORY STUDYという場を与えていただいたことは本当にありがたく思っています」

Chapter 4  2023年度のSTORY STUDYのテーマについて

小休止を挟んだディスカッションでは、三菱地所とSTORY inc.の双方から本年度のコラボレーションについて活発な議論が重ねられた。今後のゲスト候補として名前が挙がったのは、誰もが知る人気監督やSTORY inc.とタッグを組んでいるアニメ監督など。もちろん、STORY STUDYが探求しようとしているテーマは映像に限らない。街づくりや建築、様々なカルチャーについて関心のあるトピックや意外な固有名詞が飛び出していった。

なかには「高層ビルの1階によくある吹き抜けって、妙に居心地悪くないですか?」「丸の内のビルに、美味しいレストランがもう少し入ってくれたら嬉しい」というざっくばらんすぎる発言も(笑)。「年に3回くらいのペースで一つ一つ濃いものをやっていきたいですね」(川村)。
 
会話がひと区切りしたタイミングで、三菱地所の谷澤淳一執行役副社長が閉会の言葉を紡いだ。

「我々ディベロッパーだけでは想像もつかない、考えが及ばない世界がたくさんあることを知り、ヒントをいただきましたし大いに刺激を受けました。引き続きいろいろと意見交換させていただければと思いますので、よろしくお願いいたします」

イベントが始まった頃は柔らかかった日差しが、夜の灯りへと入れ替わった頃、第3回STORY STUDYは幕を閉じた。

第3回「STORY STUDY」
2023年2月7日 STORY inc.にて開催
構成・文:吉田大助  写真:澁谷征司  編集:篠原一朗(水鈴社)