ディープなアーチ雲の世界
以前は一部の人にしか知られていなかったアーチ雲ですが、ここ10年ほどで多くに人に知られたように思います。アーチ雲は積乱雲の周囲にできる帯状の雲で、積乱雲から吹き下ろす冷気と周囲の暖気との境目(前線)が可視化した雲です。
積乱雲の発達がピークをむかえると、上昇気流が弱まり下降気流が優勢になります。上昇気流の支えがなくなることで、雲の内部で上下動を繰り返していた雨粒や雹が冷気と一緒に勢いよく地上に下降してきます(ダウンバースト)。地上に衝突した冷気は四方に広がり、周囲の暖気と衝突します。冷気と暖気の境目には小前線(ガストフロント)が形成されます。冷たい空気は重く、暖かい空気は軽いため、行き場を失った暖気は冷気の上に乗り上げます。そこに縦方向の回転が生じると、前線を可視化する雲、アーチ雲が形成されます。
つまり、アーチ雲はダウンバーストの先端にできるガストフロントを可視化する雲ということです。積乱雲が近づくと頭上に黒い雲が垂れ込めて、冷たい風がビュービュー吹いてくることがあります。これはガストフロントが頭上を通過する時に見られるもので、間もなく大粒の雨や雹が落ちてきます。天気予報などで、黒い雲、冷たい風、雷鳴、この3つをあげて注意喚起をしていますが、この3つが揃った時点で目前に危険が迫っています。
アーチ雲(Arcus cloud:アーカスクラウド)は棚雲(Shelf cloud:シェルフクラウド)やロール雲(Roll cloud)とも呼ばれますが、積乱雲と接続しているものは棚雲、単独で出ているものはロール雲と呼ばれます。見分けがつかない時はアーチ雲かガストフロントと言っておけば間違いありません。
アーチ雲が通過する時には20m/s前後の突風が吹くことがありますが、本当に怖いのは通過した後なんです。前記のとおり、アーチ雲形成の引き金になっているのはダウンバーストで、その先端部分に形成されるのがガストフロントだということを考えると、アーチ雲は積乱雲が発達していることを示す雲と言えます。アーチ雲自体が怖いのではなく、その後ろに控えている発達した積乱雲が怖いのです。
黒い雲、冷たい風、雷鳴、この3つが揃った時点で避難するのは遅いです。遠くに輪郭のハッキリした背の高い雲が見えた時点でレーダーを確認するなど、早めに手を打つことが大事です。遅くともアーチ雲が見えた時点で避難すれば10数分の余裕が生まれます。頭上に黒雲が来た時には時すでに遅し、全身ずぶ濡れを覚悟したほうがいいでしょう。
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