ディープな積乱雲の世界
白くて大きくてモコモコした雲、それが雲の王様「積乱雲」です。十種雲形・下層雲のひとつで、激しい雷雨や突風を発生させることもあるため雷雲とも呼ばれます。遠くから見ている分には雄大で、写真の被写体としても人気がある雲です。
積乱雲の発生条件はズバリ強い上昇気流です。上空に寒気が入ったり日射による地上の昇温など、上空と地上の気温差が大きい時や、前線や低気圧の周辺などに発生します。天気予報で使われる「大気の状態が不安定」がキーワードになります。短時間に急発達するため、大きな雲だな~と眺めているうちに、あっという間に目前に迫り雨に降られてしまうこともあります。高度1万mを超えることもあり、対流圏界面まで達すると雲頂が左右に広がり「かなとこ雲」になります。上昇気流のてっぺんにはドーム状の盛り上がった部分が見られ「オーバーシューティングトップ」と呼ばれます。
積乱雲には様々な雲が付随します。雲頂が毛羽だったような「多毛雲」、ポコポコとこぶのような「乳房雲」、絵筆でなぞったような「尾流雲」、帽子のような「頭巾雲」、薄い布を被せたような「ベール雲」などがあります。
雲底には巨大な堰のような「アーチ雲」、滝のような「降水雲」、お椀のような「壁雲」、尻尾のような「テール雲」、細長い管のような「漏斗雲」、小さな雲のかけら「ちぎれ雲」などが見られます。
ここからはマニアックな視点で深掘りしてみます。まずは壁雲(ウォールクラウド)とテール雲(テールクラウド)、壁雲は積乱雲の雲底に見られる雲で、お椀のような形をしています。メソサイクロンと呼ばれる低気圧性の回転する上昇期流域が可視化した姿で、竜巻などの激しい現象の恐れがある危険な雲です。アメリカのストームチェイサーのあいだではベアーズケージ(円筒形の熊の檻)と呼ばれています。壁雲から降水域に向かって尖った尻尾のような雲がのびることがありますが、これをテール雲と呼びます。壁雲の延長部分で、より水蒸気の量が多い時に見られる雲です。逆に非降水域にのびる尻尾のような雲はビーバーテールと呼ばれ、積乱雲に水蒸気を取り込むための流入バンドです。これらの雲はスーパーセルに見られます。
壁雲からは漏斗雲が見られることがありますが、これは上昇気流の渦が地上に向かってのびていることを示していて、地上に接地したものを竜巻と呼びます。漏斗雲が発生する際に急激な気圧の変化で耳鳴りがすることがあります。これは高層ビルの高速エレベーターに乗っている時の耳鳴りと同じようなものです。竜巻は数ある突風の中で最も強いものとされ、強度のスケールはJEF(0~5)です。強い上昇気流の渦で地上物を巻き上げ、強いものになると大型トラックが宙に舞うこともあります。日本国内で発生したものではF3(当時のスケール)が最も強く、茂原、豊橋、佐呂間、つくばの4例があります。1990年に発生した茂原の竜巻ではマイクロバスや大型ダンプが吹き飛ばされています。
積乱雲の雲底に見える滝のような雲は降水雲です。雨柱とも呼ばれ、ハッキリしているほど強い雨が降っていることを示しています。降水雲の中により色濃く雨の塊が見える場合にはダウンバーストの恐れがあります。ストームチェイサーのスラングでレインボムと呼ばれ、大量の雨や雹が地上に向かって一気に落下してきます。地上に衝突した雨の塊は四方に広がり、その際に突風を伴います。それが強い下降気流であるダウンバーストです。範囲4㎞未満をマイクロバースト、4㎞以上をマクロバーストと言います。降水雲の地上に接して知る部分が八の字に開いているものはレインフット(巨人の足)と呼ばれ、ダウンバーストの発生を示しています。
積乱雲接近時に黒い雲が垂れ込め、冷たい風がビュービュー吹いてくるのがガストフロントです。積乱雲から吹き下ろす冷風(冷気外出流)と周囲の暖かい空気の境にできる小前線で、通過時に20m/s~30m/s程の突風を伴います。前線を可視化するのがアーチ雲と呼ばれる巨大な堰のような雲です。見た目のインパクトの通り、積乱雲の発達具合を測ることができる雲です。アーチ雲の発生は強い冷気外出流が発生している証拠であり、ダウンバーストが発生する恐れがあることを示しています。ガストフロント自体は突風の中でも比較的弱い部類ですが、その後に迫る積乱雲本体が発達している証拠でもあります。
以上、積乱雲に付随する雲には多くの情報が詰まっています。それらを理解したうえで見ていると、積乱雲の危険度をある程度測ることができて、次の行動がとりやすいかもしれません。積乱雲といえば雷ですが、雷にに関する記事は以前に書いていますのでここでは省略します。
*写真は全て筆者が撮影しており、著作権は筆者が有しております。
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