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短編小説 「千歳飴の約束」
私の名前はマミカ。少し昔の思い出話をしたいと思います。
「お父さん、お母さん、早く上がってきてよ!」
この日、待ち切れずにいたのは、保育園に行く前に、1ヶ月前に亡くなった祖母ののお墓参りのために、高くて険しい長い階段を上ってお寺まできた。
「お兄さん、隣に座ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
彼の顔には、爽やかな微笑みが広がっていた。
お寺の重々しい雰囲気の堂内の一隅にある、今にも崩れそうなベンチに、彼は千歳あめみたいに真っ直ぐな姿勢で座り、前を見つめていた。
「お兄さん、墓参りですか?」
「いえ、そうではありません」
その答えは、彼の優しい微笑みと共に届いた。
「それなら、何しているんですか?」
「人を待っているんです」
彼は、まるで謎をかけるような表情でそう言った。
彼の声は、暖炉で火を囲んでいるような、包み込むような温かさを持っていて、聞いていると、心地よい眠りに誘われそうだった。
「誰を待っているのですか?」
「私を捨てた人です」
彼の答えは、何とも謎めいていた。
私には理解できなかった。人を捨てるとは、どういうことなのだろう?人は、そんなに軽々しく捨てられるものなのだろうか?この混乱の余り、涙がこみ上げてきそうだった。
「誰に捨てられたんですか?」
「それは、わかりません」
それは信じがたいことだった。人に捨てられたとしたら、その人の顔は絶対に忘れられないはずだ。
「誰かわからないのに、どうして待っているんですか?」
「それはきっとわかるはずです。その人はきっと、私に会いに来るからです」
なぜそう確信するのだろう?そして、なぜ、捨てられたにも関わらず、その人が会いに来ると思うのだろう?
「それなら、もし会えたら教えてください」
「もちろんです」
彼は、心からの約束をするように微笑んだ。
「私は、もう帰ります」
「話を聞いてくれてありがとう。お礼に、千歳飴はいかがですか?」
「いただきます!」
「赤と白、どちらがいいですか?」
「白でお願いします!」
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
ハァ、ハァ。
息を切らして、階段を登る。足が震え、胸が苦しい。なぜこんなに高いところにお寺を作ったのだろう。膝が痛くて墓参りができない人もいるだろうし、だから皆が墓参りに行くのをためらう理由がわかる。
私は膝を震わせながら堂内の一隅へと進み、今にも崩れそうなベンチに腰掛けて、うつむいた。こんなに疲れるとは思わなかった。次からは誰かに頼むべきだと思った。
「お姉さん、隣に座ってもいいですか?」
とても優しくて、心地よい懐かしい声。
「ええ、どうぞ座ってください」
声の主は誰だったか思い出せなかった。もしかしたら、顔を見たら思い出せるかもしれない。そんな期待を抱きながら、隣に座った人を覗き見た。
彼は幼さを残した少年のような顔立ちをした高校生くらいの少年で、花束を抱えていた。
「お姉さんもお墓参りですか?」
「ええ、子供の頃に亡くなった祖母の墓参りです」
ああ、なんだろう、前にもこんな会話をしたような気がする。
「私を捨てた人に会えました」
「えっ?」
彼が何を言っているのか理解できなかった。捨てた人?
「私を捨てたのは父でした。邪魔になったから、という理由で捨てられたみたいです」
「それは、お気の毒に」
「そうですね。ところで、千歳飴でもいかがですか?ここへ来る途中に買ったんです」
彼はそう言って、花束から取り出した千歳飴を見せてくれた。
「赤と白、どちらがいいですか?」
「それなら、赤を」
久しぶりに食べた千歳飴の味は、懐かしくて甘くて美味しかった。
「そういえば、赤と白の千歳飴、味は違いますか?」
「えっ?う〜ん、色が違うだけで、味は同じみたいですよ」
最後まで読んでいただきありがとうございます。